第47話:共鳴する価値観
ガルド・ハイラムの目は、長年の戦場で鍛えられた鋼の光を宿しながらも、どこか深い憂いをたたえていた。
「……あんた、王都から来たって聞いたが」
「ええ。王都から参りました」
声に自然と敬意がこもる。彼の背筋の伸びた姿勢や、地図に向ける真剣な眼差しには、若いオレでも抗いがたい重みがあった。
「なら、分かるだろう。王都の議会も、宮廷の連中も、この地を見ようともしない」
卓上に広げられた古びた地図。線はほつれ、色はすっかり褪せている。オレはその地図に描かれた川筋や山並みが、実際にはどうなっているかをこの目で見てきたばかりだった。干上がった川、崩れかけた水車、ひび割れた大地。その光景が頭をよぎり、胸の奥に重石が落ちるような感覚が広がる。
「川は干上がり、作物は育たず、流民たちは行き場をなくす。……だが、誰も手を差し伸べない」
オレは言葉を探し、一瞬ためらった。自分がこの世界を設計したとき、こうした地方はあくまで“背景”として処理していた――ストーリーを彩るための舞台装置。
けれど今、その“背景”は、生きた人間たちの暮らしであり、痛みそのものだった。
「現実に目を向けない限り、物語の中の“背景”にされるだけですね」
口にした瞬間、その言葉の重さが自分の胸にも沈み込んだ。
「背景……か」
ハイラムの口元がわずかに歪む。
「王国も、連邦も、カルドミアも、己の利しか見ない。民は、盤上の駒のひとつにすぎん」
「……ですが、駒のままで終わるつもりはありません」
自分でも驚くほど低い声が出た。ハイラムは一瞬目を見開き、それから静かに笑った。
「面白い。……そういう考えを持つ者が、この地にも必要だ」
重苦しい空気の中に、わずかな熱が灯る。
やがて、ハイラムは椅子から立ち上がり、窓の外に視線を向けた。
「……あんたに、会わせたい人物がいる」
その声音は、長年探していた答えをようやく見つけた者のように、どこか確信めいていた。
「この地で、オレと同じように現実と向き合いながらも、決して諦めない者だ」
その背中越しに、オレはまだ見ぬ誰かの影を感じていた。




