第46話:扉の向こう
辺境の中心部と呼ばれる小さな集落の奥に、それはあった。
長の館──とはいえ、王都の宮殿や大貴族の邸宅のような華美さは微塵もない。
厚く積まれた灰色の石壁は長い年月に風雪を浴び、角は丸く摩耗している。
屋根は黒い板金で覆われ、所々に打ち直された跡が残っていた。
館の前に立つと、軋む門扉の向こうから、かすかに煙と香草の混じった匂いが流れてくる。
近くの煮炊き場で火が焚かれているのだろう。
この匂いひとつにも、辺境の生活の質感が詰まっている気がした。
扉の前に立っていた衛兵は、槍を持つ手を軽く下げながらも、警戒の視線を外さない。
「……王都からの使者だな?」
その問いに、オレは無言で身分証を差し出す。
王国の印章は一応効力を持つらしく、衛兵はしばし迷った末、重い扉を押し開けた。
館の内部は外観よりも整えられていた。
石壁の内側には厚手の織物が掛けられ、冷気を和らげている。
廊下は磨かれてこそいないが、埃は払われ、最低限の清潔さは保たれていた。
だが、それらの装飾は機能性優先で、豪奢さとは無縁だ。
歩くたびに床板がわずかにきしむ。
その音が館の奥の静けさを破り、何者かの気配を呼び寄せるようだった。
やがて通された部屋の扉が、衛兵の手によって叩かれる。
中からは低く、しかしはっきりとした声が返ってきた。
「入れ」
扉の向こうに、何が待っているのか。
AIが構築したこのラグナ世界では、元のシナリオには存在しなかった人物が配置されている可能性もある。
オレは無意識に呼吸を整え、扉を押し開けた。
そこには──予想外の光景が広がっていた。




