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第43話:生きる術

村の中央にある広場に、幾つもの木箱と袋が積み上げられていた。

その周囲に、痩せた男女や子どもたちが静かに列を作って並んでいる。

香坂美咲が小声で「配給です」と告げた。


袋の中身は、干した芋、粗く挽いた麦粉、塩──それだけだ。

列の先頭の老人は、受け取った袋を深く抱きしめると、何度も頭を下げて去っていった。

まるで宝物を扱うように。


オレは、この場面を覚えてはいない。

ゲーム『ラグナ』にそんなイベントは存在しなかった。

物資不足の設定はあっても、それは数値やステータスの変動でしかなかったからだ。


だが、今目にしているのは、数値ではなく“手”だった。

土でひび割れた指先、荷袋を握る白く細い手。

配給を受け取る瞬間、その手にわずかに力がこもるのが分かる。


村の外れでは、女たちが水汲み場で桶を抱え、遠くから運んできた水を大切に分け合っていた。

井戸は枯れ、川は上流で堰き止められ、唯一の水源は山間部からの細い水路だけだという。

水路の石は苔に覆われ、補修されないまま傾いていた。


オレの視界に、かつて自分が設計したマップデータの断面図が一瞬重なる。

そこでは「井戸(使用不可)」と「水路(通行障害)」のフラグが設定されていた。

だが、そのフラグの背後に、これほど切迫した現実があることまでは、描き込んでいなかった。


──これは、ただの背景ではない。

生きるための、必死の術だ。


ふと、荷物運びを手伝っていた少年がこちらを見た。

瞳の奥にあったのは、諦めでも絶望でもない、かすかな光だった。

その光が、この土地にまだ残る可能性を示しているように思えた。


オレは心の中で呟く。

「……既存の筋書きは、捨ててもいいかもしれない」

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