第40話:遠ざかる中央
王都の南門をくぐった瞬間、街の喧噪は背後に置き去りとなり、石畳はやがて赤土と小石の混じる街道に変わった。
振り返れば、尖塔と城壁、王宮の白い屋根が冬の陽光を反射し、少しずつ空の霞に溶けていく。
あの中央都市での暮らしは、もう遠ざかるばかりだ――そんな感覚が、胸の奥でじわりと広がった。
赴任先は北方辺境領ヴァルガルド。
距離にして千キロ近い道のりだが、魔法師であるオレが飛行魔法で行く選択肢は、最初から頭になかった。
この世界において、魔法師が長距離を飛行するのは、戦場や緊急救援のような限られた状況だけだ。魔力消費は桁違いで、半日も保たず、途中の補給も難しい。
ましてや王命による公式赴任なら、関所や宿場での通行記録は必須だ。空を飛んで直行するなど、礼を欠くどころか不審視される。
最初の区間は蒸気機関車だった。
黒光りする鉄の巨体が駅構内で吐き出す蒸気は、煤と油の匂いを混じらせて鼻をつく。
硬い座席に腰を下ろすと、車輪の規則的な響きと揺れが全身に伝わる。窓の外では、王都近郊の農地が規則正しく区切られ、冬枯れの畑に点々と農夫の姿が見える。
数時間も走れば丘陵地帯に入り、家並みは疎らになり、牛車や羊の群れが線路沿いに現れ始めた。
鉄路の終点からはオートモビルに乗り換える。
魔導蒸気で動く車体は、石畳から未舗装路へ入るたびに大きく揺れ、車輪が跳ねる音が車内に響く。
沿道では、農夫が枯れ草を束ね、干し魚を吊るす家の軒先から煙が立ち上る。
石橋の下を雪解け水が音を立てて流れ、河岸では子供たちが水切り遊びをしていた。NPCたちが交わす会話は「今年は麦が不作だ」とか「塩の値が倍になった」など、細部まで現実感を帯びている。
日ごとに空気は冷え、風は乾き、沿道の樹木も常緑から白樺や針葉樹が混じるようになる。
丘陵を越えるたび、北の稜線が近づき、雲をかすめる山並みが姿を現す。
夕暮れには、その稜線が茜に染まり、まるで炎龍が天を覆っているかのように見えた。
――ここから先は、オレの知らない『ラグナ』だ。
その事実が、車輪の振動よりも確かに胸を揺らしていた。




