第39話:好奇心の芽
東方国境の反乱が拡大しているという噂が、城下町にも流れ始めていた。
ムナリス王国の軍議は慌ただしく、貴族や魔法師の中には徴召を恐れて屋敷を留守にする者も出ている。
オレに義務感なんてものはない。
だが、この世界にはゲームとしてのルールがある。
「王国からの正式な命令は、一応受けねばならない」――それが、この舞台で動くための最低限の条件だ。
もちろん、内容がつまらなければ、さっさと放り出すつもりでいる。
だからこそ、国王の封蝋を押された辞令書を受け取った瞬間、眉が動いた。
――北方辺境領・ヴァルガルドの辺境伯任命。
戦場の最前線でもなく、政治の中枢でもない。王都から遠く離れた、半ば忘れられた地。
誰もが「左遷」だと笑うような役職だが、オレにとっては違った。
ヴァルガルドは、もともと『ラグナ』の初期シナリオには存在しなかった空白地帯だ。
AIが勝手に生成したマルチシナリオの枝葉にも、この任地を拠点にした展開は見当たらない。
つまり、ここに行けば、予定調和の筋書きから外れられる。
「……面白い」
気づけば、そう呟いていた。
辺境伯として赴任すること自体は、ゲームのルールに沿った正規の行動だ。
だが、その先で何をするかはオレの自由だ。
地図を広げ、ヴァルガルドの位置を確かめる。
高山と断崖に囲まれたその地は、まるで大陸の端にぽつりと残された孤島のようだった。
この先、どんな光景が待っているのか――想像すると、胸の奥に小さな熱が灯る。
こうしてオレは、王国の辞令を受け入れた。
それが、この世界で自分だけの道筋を歩き始める第一歩になることを、まだ深くは意識していなかった。




