第34話:力の均衡
ムナリス王国の南港から出る定期船に乗れば、数日でカルドミア王国の東端に着く。
そこからさらに北上すれば、砂漠を越えてアストレア連邦の国境に至る――だが、その道を行く商隊は数えるほどしかない。
大陸の各国は、表向きは交易や交流を語りながら、その実、互いの勢力を睨み合い続けてきた。
炎の大陸ムースは、強大な軍事力を持つ連邦と、それを防ぐヴァルシェン王国の長い戦争を軸に、複雑な均衡を保っている。
その均衡の糸を繋ぎとめているのが、魔法師という存在だ。
連邦の大規模魔導砲、ヴァルシェンの防御結界網、カルドミアの古代術式兵団――いずれも魔法師抜きでは成立しない戦力であり、その人材価値は金や兵糧以上に高く取引される。
ムナリスは、そうした大国同士の戦争に直接関わらない。関わるだけの兵力も財力もない。
だが、魔法師を輸出することで、わずかな外交カードを維持してきた。
「戦わない国」として生き残るためには、均衡の枠組みの中で静かに立ち回るほかないのだ。
……オレにとっては、退屈な話だった。
大国同士の綱引きも、均衡を守るために派遣される魔法師たちの物語も、この世界での「用意された大筋」のひとつにすぎない。
誰が勝とうが、どこが負けようが、シナリオの上では世界は壊れないように作られている。
――なら、オレはその外側を歩く。
均衡を守るためではなく、均衡を揺らすためでもなく、ただ自分のやりたいことを形にするために。
港町の塔から鳴り響く時刻鐘が、海霧を割って響いた。
魔法師団の詰所前では、出立する一団が整列している。彼らは他国への「魔法顧問団」として派遣されるのだろう。
だが、オレはその列に加わるつもりはなかった。




