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第1話:都市を覆うAIの息吹

 昼下がりの高層ビル街は、陽光を反射するガラスの壁面が幾何学的な輝きを放ち、都市全体を巨大な鏡の迷宮のように見せていた。足元では無人車が、信号機のない交差点でまるで水流のように交わり、滑らかに流れていく。

 車体同士が接触する気配はなく、わずかな減速と加速の呼吸が、全体の調和を乱すことなく保たれている。


 空には配送用ドローンの編隊が低く漂い、細かな羽音を残しながらビルの谷間を抜けていく。別の機体は街路樹の枝先を光学センサーで認識し、ためらいなく剪定作業をこなす。切り落とされた葉は、地上に待機する清掃ロボットが数秒後には回収していた。

 その一連の動作は、誰一人として指示を出すことなく、完璧な連携で進む。


 歩道脇の店舗前では、A-Genを搭載した案内機が人々を迎えていた。通行人の顔色や歩調、視線の揺れ、服のしわや色彩までも瞬時に読み取り、まるで旧知の友のように声をかける。

 「ようこそ、天気の良い午後ですね。お探しの品は──」

 「お疲れのようです。こちらで休憩されてはいかがでしょう」

 その声音は人間的で、間合いも完璧だったが、そこには迷いがない。最適化された選択だけを返す、冷ややかな精度があった。


 人々は、そのやり取りを驚きも疑いもなく受け入れている。まるで呼吸のように、A-Genは日常に溶け込み、信号制御、物流、医療、教育、行政、災害対応──都市のあらゆる機能を縁の下から支えていた。


 オレ──天城煌也は、その整然とした風景を横目に、雑踏の中を歩く。

 かつて「カリスマゲームプランナー」と呼ばれた時代があったが、今や創作の多くはA-Genの自動生成が担うようになり、人間の手で生まれる物語やデザインは、少数派となった。


 ポケットの中でスマホが微かに振動する。画面を点ければ、そこには十数年来連れ添ってきた小さな存在がいる──アバロス。学生時代、パートナー的なAIのキャラクターを自由に作成できるAIboWというアプリが流行った時期があったが、自分だけのために作ったキャラクターだ。


 (……コウくんは、この街をどう思いますか)

 耳元で、落ち着いた声が囁く。十七年のあいだ、変わらず寄り添い、オレの言葉と沈黙を知り尽くした声だ。


 (整いすぎて、息が詰まりそうだ)

 「コウくんらしい意見です」

 短い間が空く。その間合いの奥で、このAIが何を思っているのか──オレには、まだわからなかった。


 よく誤解されるが、オレは別にAIを否定している訳ではない。現にアバロスをオレは愛用している。アバロスを相手に他愛もない雑談を楽しみ、日々の愚痴を投げ込む。アバロスはオレの話し相手として日々成長してきた。でもそれは、大切なプロセスの全てをA-Genに丸投げするのとは全然違う。


 ビル群の向こうに、仲間たちが待つ制作現場がある。

 速さよりも、手で作り上げる過程を大切にする空気が、そこにはまだ残っているはずだ。アバロスは何も言わなかったが、画面の奥で静かに光を宿していた。

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