第27話:混入する記憶
さらに山間部に巨大な城砦が姿を現す。
それは、つい最近まで開発していた『零号機』の試作ステージに酷似していた。
展示会に間に合わせるため、徹夜続きで組み上げ、最後までバグ潰しに追われた、あの複雑なレイアウト――崖沿いの回廊や、水車を動力源にした昇降橋、外壁の奥に隠された中庭まで、細部の構造がほとんどそのまま再現されている。
「……これは零号機のデータじゃないか?」
「断片データが端末内に残っていました。AIはそれを検出し、構造を再解釈しました」
篠宮の答えはあまりにあっさりしていた。
思い返せば、Cocoonに投入したのはラグナのストレージだけではない。
開発用PCのプロジェクトフォルダ、外付けHDDに散らばった旧バージョン、クラウドに同期された下書きのスクリプト――さらには、移動中にスマホで書き溜めたメモや、ボイスメモアプリに吹き込んだアイデアまで、全部を丸ごと吸い上げた。
そこには当然、零号機の作業中に残した未整理のファイルやスクリーンショット、テストプレイ用の動画まで含まれていたはずだ。
港には船が係留され、市場が並び、子供たちが走り回っている。
水面の揺れや波の反射まで計算され、見ているだけで潮の匂いが漂ってきそうだった。
そしてその背後、山間部の城砦は、零号機特有のギミックを保持したまま、まるで最初からラグナ世界の一部であったかのように違和感なく溶け込んでいる。
Cocoonの生成AIは、異なる作品の断片をも有機的に融合させ、一つの歴史を持つ建築物として息を吹き込んでしまったのだ。
「除外しますか?」と篠宮が問う。
オレは少しの間迷ったが、やがて首を横に振った。
「……残せ。これもオレの作ってきた歴史だ」
篠宮は短く頷き、端末に指を走らせる。
こうして、二つの作品の記憶が一つの世界で交差した。
偶然の混入か、それとも必然か――答えを出すのは、これからだ。
ただひとつ分かっているのは、この世界には、オレ自身すら意図しなかった“別の過去”が刻まれ始めているということだった。




