表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/135

第23話:データの投入口

 制御パネルの光が収束すると、来訪者――篠宮は机の上に黒いケースを置いた。

 中には、無骨な外装のポータブルストレージが収められている。

 「天城さんの“PROJECT RAGNA”に関する全データを、Cocoonに取り込みます」


 その一言で、胸の奥がざらついた。

 篠宮は続ける。

 「これはA-Genだけの仕事ではありません。Cocoonは複数のAIモデルを統合できる設計です。必要に応じて、A-Gen以外のあらゆるタイプAIも組み込めます」

 彼はわざと淡々と説明しているが、その奥に微かな挑発が混ざっている気がした。


 「……全部、入れるのか?」

 オレは確認せずにいられなかった。

 「はい。完成していない部分も、構想メモも、テキストの断片も」

 篠宮は視線を逸らさずに答える。

 「それらの“欠け”こそが、世界を広げる種になります」


 オレの頭に、作業机の上や、古びたノートPC、スマホのメモアプリが脳裏に浮かんだ。

 プロトタイプのスクリプト、書きかけの会話文、モデル名すら決まっていない敵キャラの設定……

 それらが全て、この黒い箱の中に詰め込まれる。


 中原からチャットが飛んできた。

 〈本当にやるのか?〉

 〈まだ迷ってる〉と返すと、間を置かずに既読が付く。

 〈AIに任せたら、それはもう“お前のラグナ”じゃなくなるかもしれない〉

 〈……分かってる〉

 その言葉は、ずっとオレの胸の奥でくすぶっていた火種を揺らす。


 三谷からもメッセージが届く。

 〈完成を急ぐならAI使うしかない。でも、それで満足できるのかは別だ〉

 島崎は短く〈お前がやりたいようにやれ〉とだけ送ってきた。

 仲間たちの言葉が、それぞれ違う重みで心に沈む。


 篠宮が黒いストレージをCocoonの側面スロットに差し込み、軽いクリック音が響く。

 すぐに壁面モニターが切り替わり、ファイル群が滝のように流れていく。


 RAGNA_CORE/

 NPC_DIALOGUE/script_temp/

 BATTLE_AI/experimental/


 未整理のフォルダ、エラーコードの残る戦闘スクリプト、破棄したはずの旧マップデータ――オレが積み上げてきた年月の痕跡が、すべて機械の中へ吸い込まれていく。


 「これから解析に入ります」

 篠宮はモニターを見つめながら言った。

 「複数のAIが同時にあなたの設計思想を学習し、異なる補完案を生成します。最終的にどれを採用するかは――あなたが決める」


 オレは深く息を吐く。

 ――機械に委ねた時点で、それはもう“純粋な人間の作品”じゃない。

 だが、時間はない。

 A-Gen全盛の時代に背を向けたオレが、最後の最後でこの扉を開くのか。

 アバロスは黙ったままだ。

 いや、もしかすると――その沈黙こそが、答えなのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ