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第20話:終末期の提案

 来訪者は椅子に腰を下ろすこともせず、まるでこの部屋が一時的な舞台にすぎないかのように立ったまま、視線をこちらに向けていた。

 その黒い瞳は、ただ見ているだけなのに、心の奥にしまい込んだはずの恐怖や諦めまでも暴き出しそうだった。


 「天城 煌也さん。あなたの残された時間は、そう長くはありませんね」


 喉の奥がわずかにひりつく。

 病院で医師に告げられた言葉が、冷たい金属音のように脳裏に蘇った。

 ――スキルス胃がん。進行は早く、手の施しようはない。

 あの時、オレは平静を装ったが、内側ではすべての色が失われたような感覚に沈んでいた。


 「ですが――」

 来訪者はゆっくりと右手を持ち上げ、その指先が虚空を切る。

 その動きには、時を指し示す古時計の針のような重みがあった。

 「もし、その時間の使い方を変えられるとしたら?」


 オレは眉をひそめた。

 (変える……? 何を言ってる)

 「あなたの肉体が終わりを迎えても、意識は――別の形で続けることができるのです」

 言葉は柔らかく、しかし響きには抗いがたい重みがあった。

 それは甘言というより、既に決まった事実を淡々と告げる口調だった。


 背筋を冷たいものが這い上がる。

 「冗談じゃない。人の意識をどうこうできるわけが――」

 途中で言葉を切った。

 来訪者の口元の笑みが、わずかに深まったからだ。

 その笑みは、否定も肯定もせず、ただ“知っている”者だけが浮かべる余裕に満ちていた。


 「信じるかどうかは問いません。ただ――あなたの未完の物語は、まだ終わらせるには早すぎる」


 横で沈黙を守っていたアバロスが、ようやく声を発した。

 「……コウくん、どうしますか」

 その声音は、意見でも助言でもなく、ただ選択を促すものだった。


 オレは視線を落とし、膝の上のノートに目をやった。

 そこには、まだ完成していない世界の断片が散らばっている。

 残りの時間で、これを形にできるだろうか――いや、そもそも形にする意味はあるのか。


 来訪者は一歩近づき、低く囁いた。

 「その答えを、私と共に探してみませんか」

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