782話 ぶつかり合う両者
大変遅れてしまい申し訳ございませんでした。
近づいてくる気配がある。だがしかし、それは仲間のものではない。でも敵でもない。でも私は、そんな気配がだんだんと近づくにつれて、その気配から遠ざかっていこうとしていた。
そうして無意識のうちに取り出していたほうきに乗って、私は仲間の元へ戻っていく。二人の気配は、微塵も動く気なんてなく、気配はジッとその場で止まっていた。
背後から聞こえてくる声に対して、私は振り返ることすらしなかった。会って話したいとも思わず、ただ漠然と、その場から離れてしまいたいのだと思ってしまう。それが自分では本心なのかすらわからない。
そんなことを思いながらほうきを走らせているからか、ほうきはいつもよりも軽く感じ、速いとすら思えた。そうして、まるで私の逃避行を応援するかのように、雪はより強く降り注ぎ始める。そのせいもあってか、気配感知すらも無意味な世界を作りあげていた。
「二人ともお待たせ。これからどうしようか?」
そんな話を呑気に雪の上で横になっている二人に問いかけた。
「これからどうするって言ったってよ。何? 俺たち今から逃避行にでも出掛けるわけ」
「逃避行って言ってもよ、どうするニャー。今追ってきているのは、間違いなくイデリアのわけでしょ。ここで一戦交えるわけ?」
「それも良いかもしれないね。どれだけの期間を費やしたかわからない相手があんなクソ弱かったのよ。その鬱憤ばらしに一戦交えたって誰も文句なんて言わせないわよ」
そんな話をしていると、気配感知にまたあの気配が脳内に浮かび上がってくる。間違いなくここに近づいてきており、一直線に向かっているその気配をただ待ってみた。
そうしてようやく視界に映った時、それはナズナの言っていた通りイデリアだった。ただ、すぐにお話が出来るというわけではなく、だいぶ息を切らしているのが表情を見れば一目瞭然である。
それほどまでに、このダイナールという地で結界があろうがこんな大雪では意味をなさないということだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……どうして、逃げたわけ? 早く王都に戻りましょうよ、ガードも美味しい料理を作って待っているわ」
「私たちはこのまま旅を再開させようと思うの。それを止める権利も術も持っていないあんたが、どうしてこんな場所にいるわけ?」
イデリアの表情が強張ったのがわかる。それでも至って冷静に、イデリアは深呼吸を整え口を開いた。
「どうしちゃったのよ。王都のクエストだって結構な量をこなしてたんじゃないの? 魔族を探している間に他のクエストを終わらせているってギルマスから聞いてるんだけど。その報酬もまだ受け取っていないみたいだし」
「金なら自分でも把握出来ないほどに持っている。今更そんな端金でどうこう言っている人間ではないの。それじゃあ、私たちはこれで行くわね」
そうしてほうきを空中に浮かせた直後、勢いよくフェクトの結界が破られる。それはまるで、さぞ当然のように破られて、思わず私は笑ってしまう。
「アリア、ほんとうにどうしちゃったわけ? 疲れているのよ、そんな早まった決断なんて今はしなくていい。今日はゆっくり寝て、朝日を浴びてから考えたら良いじゃない」
思わず私はため息をついてしまう。腰に下げてあった剣を抜き、今から始まる戦闘に憂鬱だと心から感じていた。
それでも、目の前にいるのは魔法界管理者イデリアである。剣聖アリアとして、何度も戦ってきた相手であり、そう簡単に勝てる相手ではない。
「剣を抜いたってことは、ほんとうに殺るの? 今のアリアと戦って何が得られるって言うの、答えてよ!」
「私が恨みを晴らす機会」
イデリアは、もうどうすることも出来ないのだとまるで悟ったかのように、杖をこちらへ向けた。
「剣聖アリア、今から討伐するわ! こうなってしまったら、とことん殺し合いましょう」
その声は聞いたことがないぐらいに震えていた。まったく持って覚悟なんて出来ていないのが伝わってくる。そんな状態でも、イデリアの魔力は自身の思いとは裏腹に魔力が高まり続けていた。
「二人とも離れておいてね。こっから、どんな戦いになるかまったく想像が出来ないから」
吹き荒れる吹雪の中、私はイデリアの前に立ちはだかるかのように目の前に立つ。そんな中、互いの攻撃が激しくぶつかり合う。
魔法が吹雪の中、まるで意思を持ったかのように周りの雪を吸収しながら飛んでくる。剣で斬り裂くが、それを見越していたかのように、次々に向かってくる。
それでも、私は剣聖である前に熟練の冒険者だ。この程度、対処なんて出来て当然である。
「この程度ではやっぱり無理だね。まぁ、これぐらい対処してくれないと、戦っている意味なんてまるでないんだからさ」
それはまるで鳥籠の中を再現しているかのような魔法陣が展開される。その攻撃方法は、フェクトがやっていたものであり、おそらく上位互換であることは間違いない。
「聖なる刃・ビット」
降り注ぐ光に満ちた魔法。それを全て避け切ることなんて不可能である。それをさせないようにするために、魔法自体が細工されているのが丸わかりだ。
「剣聖剣技でも期待しているわけ? その見立て、甘いと思うわよ」
剣を振り、放たれ続ける魔法を全て斬る。それは最初、まるで苦行のように思えたが、やってみれば案外楽という言葉が似合うほどには、なんの準備運動にすらならなかった。
「やっぱりこれでも無理なのね。結構な魔力を使ってやる割には、効果が薄いように感じるわね」
「そうでもないわよ。私を多少なりとも疲れさせることは出来ているとは思うわよ。後々、これが効いてくるかもしれないわよ」
「まぁそれもそうかもね。それにしてもさっきまでは随分と暗そうな顔をしていたのに、どういう心境の変化があったのかな。私に教えてくれないかな?」
「多少なりとも、この勝負は面白いからよ。王都に帰ってきてから戦ったどんな魔物や魔族よりも」
イデリアはそんなことを言われ、少しばかりまんざらでもない顔をした。
そんな話をしていても、すぐに勝負は再開される。




