780話 サルとの攻防
木々を飛び交うサルの群れ。鋭い爪を前へ突き出し、飛び込んでくるサルたちを私たちは避けていく。避けてもなおすぐに体勢を立て直し、飛び掛かってくる根性を見せていた。
「群れになった途端、結構だるい魔物ね。それに怒り狂ってるくせに、なんでこんなにも連携が上手いのよ」
思わずそんな言葉を吐き捨ててしまうレベルで、サルたちの動きに、こちらの足が一瞬遅れる。それでも、数は少しずつ減ってはいる。
そんな状態の中、数が減れば、それに合わせて連携を変えてくる。
「あー鬱陶しいわね、ほんとうに」
剣を振りかざしたところで、すり抜けていくかのように避けられてしまう。だが、そんな時間が長くは続かないことを私たちはわかっていた。
サルたちの様子は少しずつだが変化が見られ、呼吸が荒くなり、牙の隙間から白い息が漏れる。
そんな状態でも、私たちを狙ってくる攻撃は緩みはしない。
「あれれ? さっきまでの動きはどうしちゃったのかな。もしかしてもう疲れちゃったのかな」
そんな風に煽った瞬間、茶色の毛並みがだんだんと赤みがかってきて、先ほどよりも怒り狂ったような状態で攻め始めた。
空気を斬り裂くその一撃は、凄まじいものだった。それでも、だいぶ体力を消耗してしまうのか、インターバルが長い。その隙を突いて攻撃を振るうと簡単に消滅してしまう。
そんな中でも、一匹だけ格の違うやつが混じっていた。
「アイツ、赤みがかった状態になっても全然疲れてないぞ。それにさっきから動き続けているのに、まるで息があがってない」
「フェクトよく気が付いたニャー。確かにまったく疲れが顔に出ていない。さっきは数がいたからわからなかったけど、多分その時は演技でもしてたニャー」
「とりあえず、アイツを倒せば多分この戦いは終わらせられるだろうから、一気に畳み掛けるわよ!!」
私は勢いよく走り出した。それに合わせて例のサルも走り始めた。周りのサルたちはそれをまるで守るかのように、飛び掛かってくる。
それを一気に薙ぎ払うが、そう簡単には消滅は出来なかった。それどころか、先ほど私が放った一撃は、まるで効いていないようであり、ピンピンしている。
「アイツらもしかして、防御力が上がっているのか。それに私はさっき、体を斬ったはずなのに、その傷跡が残ってすらいない」
「え、傷が癒えるとかそんな感じなのかな。でもインターバル中に狙えばいいよね」
「慌てて突っ込むなよ。それで反撃にあったら目も当てられないからな」
ナズナはわかっていると言わんばかりに首を縦に振る。ナズナは覚醒化を発動させて、一気に踏み込んでいく。その恐ろしさが直感的にわかるのか、先ほどよりも警戒心を増しているのがこちらにまで伝わってくる。
それでもナズナは止まるなんていうことなんてしなかった。勢いよく拳を振り翳し、サルに一撃当てる。それを踏ん張ってしまうサルも相当だが、ナズナの一撃がその程度で耐えられるはずがなかったのだ。
だんだんと形状が変化していくサル。
それを異変と感じ取った連中はすぐさま、その場から遠のいて観察するかのように見入っていた。木々に大きな損壊を与えるほどには吹っ飛んだサル。そのまま消滅した。
「最初は耐えられると思って焦ったニャー。でもまぁ、わたしの拳をそう簡単に耐えられるわけがないんだけどね」
そんなことをいうナズナの顔は不敵な笑みを浮かべていた。
自分たちの状況を理解しているのか、何かと騒ぎ立てるが、それでは何も解決しないことは、この場にいた誰もがわかっている
それでも、騒ぎ立てておかないと頭がおかしくなってしまうのだろう。
「ウキーーー!!」
そんな声が、周囲は騒ぎ立てていたのに嘘のように黙り始めた。
やはりそれを言ったのはアイツだった。
「やっぱり厄介だね、ここまで彼らの支柱になられたら」
「ほんとうだな。でも、それを許している俺たちにも問題がある。こっからはこんなちんたらやってないで、素早く終わらせた方が良いと思うが?」
「確かにそれは同感ニャー。これ以上雪が強くなったら、わたし、凍えて動けなくなりそうニャー」
そんな話をしている最中のことだった。サルたちは、私たちを中心として木々の周りをぐるぐると目まぐるしく動いていく。
それもまた、アイツの指示であるのは明確だった。
「私たちを挑発でもしてんのかな? だったらそれに答えて上げるのが、私の役目で合っているわよね」
私は一気に飛び上がる。その瞬間、サルたちが一斉にこちらへ向かって飛んでくるが、そんな奴らに構っている時間は一切なかった。
「お前たちの相手は俺たちがやるんだ。俺たちの大将に触れようなんて早いんだよ。そんな段階に立っていいレベルのやつではないだろ、お前たちレベルが」
私はアイツに剣を振るう。なんとか避けたと言わんばかりでギリギリ避けていたが、それでも焦りが見え始めているのがわかる。
それは仲間たちが最も容易く討ち取られているからだ。自分の指示がない彼らに、未来なんてあるはずもなく、ただ倒れていく姿を見ることしか出来なかった。
怒りを露わに立ち向かってくるが、すでにもう遅い。なんとも荒々しい攻撃方法を披露するが、まるで当たることなんてなかった。
「さっきまでの強さは完全に消えたわね。もうそんなあなたに私は何も思わないわ」
そんな言葉を添えて、一瞬の躊躇もなく首を斬り裂いていく。そうしてようやく終わったのだと、理解するまでさほど時間は掛からなかった。
その後、森を元通りに戻し、ほうきに乗って王都の方へ戻ってくる。王都の中は、結界があるおかげで少なからず寒くはない。
それでも白い息がはっきりと見えていた。
「お、帰ってきたな。アリアたちがようやく行ってくれて助かったよ。それにしても、結構時間が掛かったみたいだが、何かあったか?」
「探すのに手間取っただけよ。それにしても、あんな魔物ぐらい、白銀の冒険者じゃなくても倒せると思うんだけど」
「まぁそうかもしれないが、金の冒険者パーティ複数を殺してるやつだったからな。念のためな」
そんなことを言うギルマスの顔は、真面目な顔をしていた。




