779話 怒られて
王都での暮らしがまたいつものように始まった。
長い期間、ダイナールを飛び回っていたこともあって疲労は溜まっており、毎日のように早くから寝て遅くまで起きないという生活を何日も続けていた。
そんなこともあってか、ギルドから頼まれたクエストたちを初日にやった以降は、まるで進む様子がない。それどころか二人とも、まるで忘れてしまっているのではと思うほどにその話題はいくら話しても出てこなかった。
そんな状況に痺れを切らしたのか、ギルマスが家にまで押しかけてきた。たいそうご立腹の様子で、私たちを睨み付ける始末である。
「あのな、少しは仕事をしろ! あれからお前らクエストをやったのか、やってないよな。だって、この国から出国した形跡がみられないからな、次はどのクエストを終わらせるのかと待ってみたら、家からもまともに出てこないなんて思いもしなかったわ!!」
「ギルマスはよく人の家でそこまで怒鳴れるよね。別に問題ないでしょ、私たちだって旅から戻ってきて疲れてるの、ゆっくり休みたいの!」
「このままだとズルズル引っ張るだろ、だからわざわざこの家に足を運んでんだ、どれだけ待たせたら気が済むだ!」
ここで言い争いをしても何も解決しないことなんて明確だった。それがわかっていても、どうしても怒りが収まらないからここに来たのだろう。
それにしても随分といい根性をしていると、改めて思ってしまう。さすがは、王都ギルド本部ギルドマスター様だと感心してしまう。
そんなことを思っていると、より怒りに満ちた表情を浮かべるギルマス。
「アリア、今余計なことを考えていただろ、剣聖なんだから少しは他の冒険者たちにとって目指すべき背中を見せてくれ」
「いや、それは見せているつもりなんだけど。私の活躍、王都なんて確実に届いているでしょ?」
「そういう話をしているわけじゃないんだ。王都に帰ってきた剣聖様が、どんな活躍をまた見せてくれるか、それを期待の目で見ている存在がいることを忘れるな」
そうして嵐のように来て、言いたいことだけを言って帰っていったギルマス。そんな言葉を受けてもなお、私たちに行く気なんてまるでなかった。
今日も雪が降っている。本格的に冬が始まっている中、わざわざ王都の外に行きたいわけがない。
「今日も家でまったりだな。さすがにこの雪を結界で守りながら行くのはさすがにだるいからな」
「そうだニャー、基本的に暖かい場所の方が過ごしやすいからニャー」
二人がそんな会話を繰り広げていると、パチンという強烈な音が床から響いた。咄嗟に後ろを振り返ると、そこにはガードが鞭を床に叩きつけた直後である。
「三人とも、今すぐクエストをやりなさい! 剣聖様がこんなところでサボってていいわけないですよね。ここで出かけないという選択肢を取るのであれば、今日のご飯はすべて抜きですから」
そう言って睨み付けるガードの顔は、先ほど見たギルマスよりも怖かった。私たちはすぐさま立ち上がり、準備に取りかかる。
そうしてものの数分足らずで私たちは家を後にするのであった。
「いやさ、私が買った家なのに、なんかガード態度デカくない? 一応言っておくけど、私の所有物で間違いないよね」
「そこは間違いない。ただ、俺たちがいない間、あの家を守っているのは間違いなくガードたちだからな」
「そうだよね、でもアリアに対してギルマスまでもが結構強気だった気がするニャー」
おそらくそれは、裏であの二人が結託していたからだろう。
ここまで放置した私たちという『絶対的な悪』を打ち砕ける最高の機会なのである。今までの無茶振りなどの仕返しをここで一気にしてきたというのがオチだと思う。
「まぁ何にせよ、とりあえず少しずつでも終わらせよう。やってさえいれば、二人は文句は言わないからね」
「そうだな、この寒い中頑張るか」
そんなことを話しながら私たちは門へと向かう。そこには、ニヤつきながらギルマスが立っていた。
「剣聖アリアとその仲間たちが、ガードに負けて飛び出してくるとはな。やっぱりガードの読みはすごいな」
「そんなことはもうどうでも良いよ。良かったね、剣聖がクエストを終わらせに行って」
そうして私たちは、王都の外へ出てほうきを取り出し、適当に気配感知を発動させる。周辺に魔物や魔族の気配もなく、難航する案件だとすぐさま悟る。
それでもここで帰れば、私たちの食事は抜きとなり、鞭は確実に飛んでくるであろう。そんな憂鬱を抱えながら、あてもなく飛んで行く。
「ぶっちゃけたことを言ってもいい、この寒さで魔物がまともにいると思う?」
二人は首を横に振った。それほどまでに外は寒く、結界は熱気を循環させておかなければ、一瞬で凍り付いてしまうのではと錯覚するほどには、すぐに何も見えなくなってしまう。
その後も捜索は続いていく。
何分も、何十分も、やがて何時間も——
あてもなく、ほうきで空を彷徨い続けた。
そんな中、ようやく魔物の気配が、気配感知に反応した。
「この気配、私たちが追っている魔物で間違いないかも。二人とも気を抜かずに攻めて行くわよ」
「了解」
そうしてようやく見つけた。
目の前にいるのは、どう見ても邪悪そのもののサル。でもそいつから放たれる殺気はただものではないのは確かであり、私は思わず唾を飲んだ。
それでも目の前にいる魔物を倒したいという欲望は高まるばかりであり、それに勘付いたのかこちらに振り返ってうなり声を上げる。
「今更私の前で唸り声を上げるなんて、気がつくのが遅いんじゃないかしら? 強そうな見た目をしているならほんとうに強くあってほしいんだけど」
凶暴なサルは何を言っているのかまるでわからなかっただろう。なぜなら、フェクトとナズナによってすでに殺された後なんだから。
「凶暴化し過ぎて周りがまるで見えてないサルだったわね、そんなサルの群れが私たちを囲んでいるみたいだけど」
「まぁ、サクッと終わらせたらいいと思うニャー」
「ナズナの言うとおりだ。こんなところで俺も長居なんてしたくないからな」




