736話 花畑は罠?
遅れてしまい申し訳ございませんでした。
夏の暑さがだんだんと牙を向く今日この頃、私たちは相も変わらずあてもない旅をほうきに乗って楽しんでいた。草木に人の手が入らず、いくらでも生えた草原地帯。そんな風景がいくらでも続き、自然豊かなダイナーのル自然を肌で実感していた。
そんな草原地帯を進みつつ、マップを展開させる。先日、ダンジョンが消滅したことにより、ナズナが少しばかり機嫌が悪い。本来なら戦えるはずだったかもしれないのに、消滅したことによりダンジョン探索はなくなった。
そんなこともあり、私は今日もマップと睨めっこをする。
「やっぱり、この辺りにはダンジョンはないわね。あのダンジョンが唯一だったのかも」
「ないものは仕方ねぇだろ、それよりそろそろ休憩でもしようぜ、朝からずっと飛びっぱなしだからな」
小さなあくびをするフェクトは、ほうきの高度を下げ始め、私もそれに釣られるかのように高度を下げ地面に着地した。
ほうきを降りたフェクトは指を鳴らし改めて結界を張る。心地よい冷気も流れ始め、何もかもが丁度いいという空間が草原のど真ん中に爆誕する。そんな空間でフェクトは、まるで決めていたかのようにその場でレジャーシートを敷いて横になり、そうしてそのまま眠り始めるのであった。
「自分がお昼寝したかったから休憩にしたのか……ナズナも寝たら?」
だがナズナの返事はない。それどころか姿もなく、忽然とナズナは消えていた。私は即座に結界から出て、気配感知を発動させた。
ものすごい速度でナズナはどこかに向かっているのが気配で感じることが出来て、私はほうきに乗って後を追う。草木を掻っ切っていくように私は速度を上げる。
ナズナに追いつくためにはそれしか方法はなく、私は集中して進んでいく。
「一体どうして急に……ダンジョンが見つからないからって、魔物でも探しに行ったのかな? でも、ナズナがそんなことをするとは思えないし」
頭でずっとぐるぐると回っていた言葉を吐き出したら、ふんわりと心が少しばかり軽くなった気がした。そうしてナズナに追いついた時、目の前に広がっていたのは大きな花畑である。
一面に色々な花が咲いており、その光景に私は思わずナズナに声を掛けるのを躊躇ってしまう。それほどまでに花畑は美しく、私もまたナズナ同様に見入ってしまった。
気がつくと、私とナズナは植物系の魔物に襲われていた。ツルが体に巻き付いて、しっかりと私たちの体を掴んでいる。キツく締め付けられた瞬間まで、私はこのことに全く気がつくことはなく、完全に油断が原因だ。
まるで、花畑自体が大きな罠の作動装置みたいであった。
「ナズナ! ナズナ!」
叫ぶが、ナズナは未だに囚われているのか、返事が返ってこない。剣で切り抜けたいと思ってはいるが、体を強く締め付けられ、まったくほどけそうになかった。
それでも力を無理に入れたりしているが、全くといっていいほどに意味を成さない。それが魔物の逆鱗にでも触れたのか、突然私の体は上昇を始める。
「ま、まさか!?」
次の瞬間、なんの躊躇もなく私は地面に勢いよく叩きつけられた。それはあまりにも衝撃が強く、思わず悲痛な声が漏れ出していた。
それは一発で終わることなく私を何度も叩き付けていく。
「がはっ!」
このままだと意識が遠のくとさえ思いかけたが、それでも意地だけで意識を保つのに必死になる。それだけ、こんな場所で私自身が負けたくないと心から思っているのがわかる。
「銃拳!」
ナズナが覚醒化を果たしており、その勢いのまま魔物を地面に倒れさせた。
「何かに呼ばれていると思って行ってみたらこんなことに巻き込まれるなんて最悪ニャー。それにアリアをそんなボロボロにしたことだって、怒りで私を忘れそうになるニャー」
私の体に巻き付いていたツルはようやく外れ、私もその隙に脱出を果たすが、さすがにダメージが凄まじかったのか、逃げ出している途中でそのまま倒れ込んでしまう。
体全身が痛みに包まれ、動くことすら出来ない。意地だけで意識を保っていた代償をまるで、痛みで払わされているかのようである。
「アリアは少し休んでて! ここはわたしが絶対に倒すから」
ナズナは駆け出していき、拳に力を入れそのままもう一発殴る。その一撃で悲痛な叫び声を上げさせた。それでもナズナは全く納得していない顔で何発も殴っていく。
魔物は立つことすら出来ず、ナズナの勢いは止まらないまま押され切っている。
「さっきまでの楽しそうな顔はどうしたニャー? 早くそんな顔をわたしに見せるニャー、アリアをボコっている時は出来て、今が出来ないってどういうこと」
急所に入ったのか、今まで一番の声が出た。
そんな叫び声は、森に住む生物たちが逃げ出すほどであり、今ここに残っている気配は私たちだけである。そうして、ナズナはそれから何度も殴りつけるが、笑顔なんて見せることはなかった。
最期は、この状況を作り出した自分を呪うかのように、自らの頭をツルでブッ刺してそのまま消滅を果たすのであった。
「納得はしていないけど、まぁ死んだから仕方ないニャー」
「そんなことはどうでもいいけど、ナズナ、勝手にどこかに行ったらダメでしょ。最初いなくなった時、どれだけ私が心配したかわかってるの」
「それはごめんなさいニャー」
「でも、ほんとうに助かったわ。ありがとうね、ナズナ」
ナズナの顔はパッと明るくなり、勢いよく抱きついてくる。よほど嬉しかったようで、中々離れる気はないようだ。
そんな時だった。
「おーい、二人とも大丈夫か? 怪我はしてないか」
先ほどまで寝ていましたと言わんばかりの髪型で現れたフェクト。私たちは跳ねた髪を見て、思わず吹き出してしまう。
「何その頭、めっちゃ跳ねまくってるんじゃん。どうしたらそこまで跳ねるのよ」
「ほんとニャー、フェクトの頭がボンバーしてる」
少し伸びていたフェクトの髪。それを聞いたフェクトは即座に鏡をボックスから取り出すや否や、いつもの髪型に戻すのであった。




