734話 余計な一言は人生を終わらせる
この魔神は、姿形を変化させる魔法が得意であり、それを用いた戦い方を多用し、翻弄しながら確実に仕留めるのがいつものパターンだと推測出来る。
妙に手慣れており、剣聖、魔神、獣人、白銀の冒険者という高火力パーティーですら、余裕の表情を見せつけてくる。その姿は、私を苛立たせるには充分なほどに、ムカつく顔だ。
それは、魔神側にも伝わったのか、私の目線に映るようにこちらへ顔を再度向けた。
「随分と私を怒らせて、後のことをまるで何も考えていないようね。この私が、お前の首ぐらいすぐに掻っ捌いてやる。それまで、私をせいぜい楽しませることね」
私は腰に下げてあった剣を抜き、勢いよく走り出す。地面を蹴り、まるで無邪気にどこまでも走り続ける子どものように私は駆けていく。
間合いに入った瞬間、私は剣を振るう。それをまるで嘲笑うかのように、姿を小さくして瞬間的に視界からいなくなった。
一瞬目が合った時「お前の攻撃は遅いんだよ」とでも言いたげな顔であり、私のイライラを増大させる。
「アリア、ムキになっても意味ねぇだろ! 視野がより狭まって当てられる攻撃すら当てられなくなるぞ」
「当てられる攻撃? そんな攻撃なんてあるわけないだろ、そんなの。そんな夢物語なんて言ってないで、俺の攻撃を楽しんでくれよ」
蛇の姿から、まるでゴリラみたいな感じに変化する。立派な筋肉の腕は、その強さを象徴しているかのようだ。
「たかが魔神がそんな催し物に使うような魔法で、わたしたちに敵うと思わないで! 獣拳」
互いの一撃がぶつかり、衝撃波が生まれる。ナズナは、一切引く気のない様子で向かい合っているが、それとは裏腹に、攻撃をナズナは耐えられなかった。
勢いに負けてナズナは地面に叩きつけられる。
「追撃はさせないぞ! 残像剣・しっぺ返し」
「他の三人と比べてお前は弱いな、まるで話にならん。だから、初手で攻撃を喰らうなんていう不名誉を得ることになったんだぞ」
キョウの攻撃は簡単に粉砕され、逆に攻撃を受けそのままナズナの上に覆い被さる形で倒れ込む。なんとか、間一髪で、私とフェクトが防いだことにより、二人にはダメージはないが、それでも私たちにはそれ相応のダメージはあった。
「体を張ってまで飛び出すようなことだったか? お荷物が消えた方がまだ少しでも希望ってもんがあると思うんだけどなー」
次の瞬間、魔神の左腕は宙を舞い血しぶきと共に地面に落ちた。
斬られた直後、叫ぶ暇すら与えず私は剣を体に突き刺す。
悲痛な叫び声が自然の中で響いていく。そんなことに耳を貸さず、私はまだ追撃を続けていく。それはやがて魔神の中で何か新たな変化を生み出す形となり、終いには涙すら見せていた。
「魔神ってまるで嘘の涙を流すんだね、どうしたのかな、話を聞こうか? 私で良ければさ、話を聞くから話してくれないかな」
「お前……なんなんだよ、どうして急にそんな変わったんだ、全然雰囲気が違うじゃねぇかよ、さっきまでの翻弄されていたお前はどこに言ったんだよ」
私には正直言って、何を言っているのかまるで意味がわからなかった。どうして魔神がそんな考えに至ったのか、私には説明されたところで、全く理解出来ない話だろう。
そんな話に時間を割くことなんて無意味であり、私はとりあえず適当に魔神の体を再度刺した。
「うがぁぁっ! お前なんなんだよ、俺が見たお前は夢だったとでも言ったら良いのか?」
「どの私も現実だよ、ただ私がほんの少しだけ、力を解放しただけでお前はもうすぐ死んでしまう。たったそれだけのことだから、そこまで気に病むことはないよ」
なけなしの力を使い、魔神は高速で逃げられそうな狼へと変貌させ、ボロボロな体に鞭を打つ形で逃げ出す。
それはとても遅く、死ぬのを早めてしまう行為をただ繰り出しただけに過ぎなかった。そうして、魔神は変身が解けると同時に、地面にそのまま倒れてしまう。
血を流し、立ち上がることすら不可能であり、なんとも不憫な最期を刻一刻と近づいていた。
「どうしてさ、私がほんの少しだけ力を解放したかわかる? 最大限のヒントをあげるとしたら、君が攻撃を喰らう直前に言った言葉かな」
その言葉を聞いて、最初は考えることすらままならなかったはずなのに、すぐに思い当たったのだろう。小刻みに震え出し、私のことを悪魔を見ているような目でこちらを見ていた。
もう命が尽きる寸前のことだった。ナズナもキョウもようやく立ち上がり、こちらへ駆け寄ってくる。その後、死にゆく魔神を見て、二人はこの戦いはもう終わったのだとすぐに理解した顔になる。
「私たちが倒れている間に、アリア結構マジでやったんじゃない? あそこまでボロボロにするってことは、それ相応の力が働いているのは絶対だと思うニャー」
ナズナの勘はとてつもなく鋭かった。私が怒り任せで魔神をボコボコにしたことを、すでに気づきかけている。死にゆく魔神は、最後の力を振り絞り立ち上がろうとする。
だが、それほどの体力はまるで残っておらず、地面にまた倒れ込んでしまう。
そうして、なけなしの時間は終わりを迎え、最期は姿形も残さずそのまま消滅を果たしていくのであった。
「とりあえずこれでクエストは達成だね」
その後、私たちは国に戻り、あてもない旅の準備を始めていく。もうこの国にいても、私たちのやることなんて何も残っていない。だからこそ、私たちはまた旅を再開させることを決めた。
それに勘づいたのか、キョウは達成報酬の山分け分を食材やら消耗品としてくれた。
「やっぱり魔神だから報酬が高いね。私たちの準備分と合わせると結構持ちそう! 白銀の冒険者として、より精進するんだよ、プレゼントありがとうね」
そう言って私たちは別れ、次の日私たちは国を後にする。
私たちが去る直前、国の大規模改革を発表したという新聞が一面を飾っていた。これでこの国がどんな未来を辿るのか、新たな希望を持った国がどのような発展を遂げるのか、心から楽しみになるのであった。




