732話 美魔女は腕が落ちた
側から見ればどうして倒れたかなんてわからないだろう。
たった一撃を受けただけだというのに、白銀の冒険者であるキョウが倒れたのだ。それは、あまりにも衝撃が大きかった。
そんなニュースがすぐさま新聞社によって国民に知らされ、私たちの情報も瞬く間に広がってしまった。よって、そんな情報が出回った時点で、私たちは軍の奴らに追われる立場になる。
だがしかし、そう簡単にことが進めばここまでめんどくさいことにはならなかっただろう。その理由は明白である。白銀の冒険者がこちら側に付いたということである。
その結果、ギルド側もこちら側へ回り魔法界支部もまたステッキという大きな存在が功を奏して、こちら側へついたのだった。
「完全に流れがこっちに来たな」
「ここまで大々的に動けばこうなるわよね、それにしてもすんなりとギルド側も魔法界側もこっちについてくれてありがたい限りだよ」
「めんどくさい話し合いがないこと、アリアだいぶ喜んでいたよね」
ほぼ、脅しのような話し合いなんてやっても意味がない。答えなんて一つしかないなか、どちらに付くかは明白である。
それに何より、この国でギルドや魔法界も簡単に寝返ってしまうレベルには、国を信用していないということになる。それほどまでに、不信感という種が充分すぎるほどに育っているという証拠である。
そんな中、国はどうやら無理矢理にでも奪還したいようだった。私たちを捕まえるよりも、私たちがいない間に、村を崩壊させることをどうやら選んだらしい。
「私たちが接触している時点で、面識があることをわかっていなかったのかな? それとも、そんなことがどうでも良くなるほどに、美魔女を取り返したくてたまらないのか、どっちなんだろうね」
そうして、私たちは村へ転移を済ませ、先に配備を完了していた軍が攻める瞬間であった。
「やぁ、軍のみなさんこんにちは! 私たちがここに現れたっていうことはどういうことかおわかりですよね……さぁ血祭りと行きましょうか」
小規模な村を襲うにはおかしいとさえ思うほどの戦力が投入されている。一つの国がここまで軍を動かせば,どうなるかぐらいわかっているはずだが、そんな判断能力でさえも奪ってしまう美魔女という存在は凄まじく厄介だ。
そんな簡単に、国が崩壊を迎え始めているという事実が目の前で起きているのだから。
「みんな、わかっていると思うけど殺さないようにね。こんな奴らを殺して罰を受けるなんてクソなんだから」
木剣で簡単に気絶させつつ、前へと進んでいく。本来ならこんな奴らに時間を使うことさえ無駄なのだが、洗脳を解くにはこれが手っ取り早い。
軍の連中も哀れな存在であり、気絶させない限り、美魔女と繋がったパスは解けることはない。
美魔女を気絶させたとしても、こうして戦うことを選択しなければならなかったという事実がある以上、これは一種の大義名分を得たと言っても過言ではない。
「圧倒的な力で完膚なきまでにぶっ飛ばしてくれて構わないから! ここで逆に情けをかけて気絶させなかったら、いつまでもこの戦いが続くと思ってよ、こんなめんどくさい戦いなんて一発で終わらせるに限るんだから」
その後すぐ、村人たちも一斉に飛び出してくる。その圧倒的な戦力差を前に数だけ多くても全くの無意味なのであった。
あっという間に残りは軍の指揮官だけである。この状況をまるで受け入れることが出来ないのか、ほんとうに驚きに満ちた顔でこちらを見ている。
簡単に終わるとでも思っていたのだろうか、この状況がさぞかし夢のような感じだろう。
「だが、これは現実であり事実なんだよ。さぁ、終わりにしますかね」
私は木剣を構え直し、突き刺すように木剣を突き出した。そのまま指揮官は、地面に叩きつけられ気絶した。
「あとは、あの美魔女をもう一度ぶっ飛ばすだけだよ。どうせ、美魔女のことだ。今ごろ、逃げる準備で必死になっている頃だろうからね」
村に戻ってみると、やはり美魔女は結界魔法を解除して逃げ出そうとしていた。
「やけにおとなしいと思ったら、解析魔法を発動していたのかい。それにしても随分と解析に時間を要したみたいだけど、ほんとうに腕が落ちたんだね、情けない限りだよ」
「は? そんなわけないでしょ、とっくに解析は終わってたし、どさくさに紛れて逃げる時を伺ってたに過ぎないわよ」
「腕が落ちたのはほんとうだよ。昔の貴様はもっと軽やかに私たちの前から消えていた。それなのに、今ではその勘が鈍り、こんな機会に逃げ出そうとしている、それが全て答えだよ」
ステッキは杖を構え、魔法陣を展開させる。
「杖の魔神とまで呼ばれたあなたが、魔法を使うってわけ? あなただって充分衰えているじゃない」
「そりゃ歳だからな、それでもお前よりは全然やれる。その証拠に、お前はほんとうの攻撃を見抜けていない」
美魔女は、背後から忍び寄る本物であるステッキの存在に気付くことなく、膝から崩れ落ちていく。そこからは、一方的なものだった。
ステッキは杖を自由自在に操り、美魔女をこれでもかと言わんばかりに、攻撃をぶつけていく。それはまるで、操っている存在たちを解除させるまで続けるつもりのレベルである。
「あのままだと死んでしまうんじゃ?」
ナズナの心配した声が聞こえてくる。それにいち早く反応したのは、フェクトであり首を横に振った。
「殴りつけながら、回復魔法を浴びせながら戦っている。それでも、意識が飛んで解除されない限り、殴るのをやめないとは思うけど」
「そんなことをしてるのね、それにしてもここまできたら意地でも美魔女は魔法を解かないかもね」
だが、それは予想を裏切る形でようやく戦いは終わった。美魔女が微かに意識が残った状態で、攻撃から逃れるために魔法を解除したのだ。
それでようやくこの村は、襲われずに済みそうである。それに、国の中枢機関が元に戻れば、すぐにでもあの国は立て直されるだろう。
「こいつに関しては、あとはこちらでやっておきますから」
そう笑顔で言うステッキの顔は、とても楽しそうな顔をしていた。




