731話 短期決戦
翌日の朝。私たちはギルドにやって来た。
ギルドは慌ただしく動きを見せており『熱』を感じるほどである。それはまさしく、国の熱気がここにも浸透しているようなものである。
様々な国や村を見てきたが、ここのギルドはまるで王都みたいだ。
「すごい熱を感じる……これがどの国でも見られたら嬉しいんだけどな」
思わず私はそんな言葉を言ってしまった。このギルドで仕事をする冒険者たちの顔を見ればわかる。この場所は、とても良い場所なのだと。
そんな場所で今日、私はギルマスと話し合いをするためにここに来た。本来であれば、私たちのような国から見れば逆賊の話なんて聞く気なんてない。
そうもいかないわけがある。それは私が権力を握っている剣聖なのだから。
立ち止まって全体を見渡すのを止め、私は歩き始めた。向かう場所は受付であり、今は多くの人数が並んでいるが、それを待っている余裕なんてない。
刻一刻と迫る脅威を打ち滅ぼすためには、そんな行動に出ても構わないとさえ、心は歪みきっていた。
「すみません、こちらの利用は初めてございますか?」
とても若い男性職員が話しかけてきた。この国にどんな冒険者が在籍しているのか、頭に入っているからこそ話しかけてきたのだろう。
その顔は、少しばかりの不安を抱いており、怪しい者ならすぐにでも対処しようと、離れた位置で監視している奴らを含めて、いつでも戦闘に入れるようにしている。
「君たち、殺意が漏れてるけど、そんなんで冒険者ギルドで働けるわけ?」
木剣を小指一本で押さえ込み、軽く薙ぎ払い発勁を決める。骨が軋む音が聞こえたと同時に彼はそのまま机に突っ込み、意識を失った。
その光景を見ていた全員がその場で動くのをやめた。武器に手を掛けている連中ですら、私に向けられた殺意が一気に消失していくのがわかる。ここで手を出したところで、勝てる見込みが一切ないことを彼らは思い知ったのだった。
「私の名はアリア。剣聖の称号を持つ冒険者、以後お見知りおきを」
その場にいた誰もがその名を聞いた瞬間、血の気が引いたのか、まるで子犬のように小さく見えた。ただ、一人を除いては。
ギルドでは珍しいカウンターでエールを飲める場所があり、そこで一人の男は静かに飲んでいた。そうして、こちらに振り返り、ニヤリと笑う。
「随分と凄まじい気配を感じてたんだ、まさか剣聖様御一行だなんて最初は信じたくもなかったわ。まさか、ここに現れたってことは、あれを止めるためだろ、剣聖アリア殿」
ここにいる連中とはまるで違う『熱』を感じる。彼だけは、ここに在籍する冒険者が束になったとしても敵わないことが確定しているほどの強さを持っている。
それはまさしく、白銀の冒険者として認められた強さであり、そんな気配がより説得力を増している。
「剣聖様に品定めをしてもらえるなんて光栄だな、それに後ろにいるのは魔神王の力を持つフェクト、獣人族のナズナ、それにまさか杖使いのステッキまでいるとは、豪華絢爛とはこのことだな」
彼は立ち上がり、ゆったりとしたペースで歩いてくる。その圧は、周りの冒険者やギルド職員すらも逃げ出せるようなものであり、あっという間に私たちだけになってしまった。
ここまで目立って行動するつもりはなかった。だが、こうなっては仕方ないことであり、ここからどう動くかで、目の前にいるコイツと敵対することになる。
「そういえば、名乗っていなかったな。俺の名はキョウだ。剣聖様、せっかくだから俺と一戦交えないか?」
「そんな時間はないんだけどな、私が勝ったらあなたは私たちの味方をしてくれるっていうなら、戦いに応じても良いけど」
キョウは、とてつもないほどに笑顔になる。その圧倒的な『熱』は、まるでこのために燃えたぎっていたと言わんばかりに燃え上がっている。
「あぁいいぞ。あのクソ女を大事にする理由なんて本来ないからな。あの女は簡単に国の中枢に潜り込んで、自分の駒を増やした。あっという間に腐ったからな、この国は」
そうして私たちは、草原に出てきていた。フェクトが結界を張り、私たちの勝負は始まった。
「剣聖様に遠慮なんてしてられねぇからな! 最初から飛ばすぜ!!」
ボックスから取り出したのはハンマーである。重厚感のある武器が特徴であり、今回のみに限り互いに真剣で戦うことを許可しあっている。
地面を砕く一撃を最も簡単に繰り出してくるキョウ。続けざまに叩き付ける攻撃から、横払いへとコンボ技を繰り出してくる。
それを避けつつ、相手の動きを見た。
「俺の攻撃を簡単に避けるか……そりゃそうだよな、あの姉さんたちが敵わない相手として挙げるんだから当たり前だよな!」
「今回は時間がないからね、短期決戦で行かせてもらうよ」
腰に下げてあった剣を抜き、鋭い一撃を何の躊躇もなく振りかぶる。あと一歩というところで押さえられたが、そんなことはどうでも良い。
押し潰してしまえば良いからである。
「ぐうっ! なんちゅう馬鹿力や。この俺を押し潰すっていう意識を……明確に感じるなんて初めてだ」
まだ余裕そうに喋ってはいるが、それでもだいぶ消耗が激しいのは事実である。腕を使って武器を振るう物理近距離戦闘において、腕を失えば簡単に崩れてしまう。
それがわかっているからこそ、全力の守備を見せたのであろうが、それでもすでに満身創痍である。
「こんなことなら、もっと強くなるべきだった。たった一発浴びただけで、両腕がイカれちまってる」
本来であれば、ハンマーを持つことでさえ難しいだろう。それほどまでにキョウは痛みを感じている。それもそのはずである。私は短期決戦をやると言ったのだ。
「私が手加減をしていると少しは思ってた? 今はそんなことをしている余裕はないからね、ほんのちょっぴりだけ、マジの力で相手をしているからね、今も立っているだけ相当強いよ、キョウ」
その言葉を聞いて、痛みがピークに達したのか、ハンマーは腕から落ち、そのままキョウも倒れ込むのであった。




