730話 酒と知らぬ間に
遅れてしまい申し訳ございませんでした。
美魔女との戦いから数日が経過した昼下がり、私たちは酒場でエールを飲んでいた。
「昼間っからエールを飲むっていうのも格別で良いわね」
大ジョッキを一瞬にして飲み干し、そんな言葉を言った。街は毎日がまるでお祭りのようにテンションが高く、それに充てられるかのように、私はエールを飲む。
その賑わいが良いおつまみとなって、エールはこの上なく美味しい。
「アリア、俺たちまだギルドにも行ってないけどいいのか? そろそろ行くべきだと思うんだが」
「それ、わたしも思ってたニャー。国に着いてから、あの戦闘以来宿屋と酒場と銭湯の往復しかしてないニャー」
「たまにはこういうのも良いの! 何かあれば対処をすればいいし、今はとりあえずゆっくり体を休めることを最優先するべきなの」
そう言って、私はおかわりの注文をした。
その後、外に出た時には真っ暗であり、今日もほぼ飲んで食べてを繰り返していたような日を過ごしたなと、まるで黄昏るかのように、外の空気を吸う。
そんな時だった。
シャリン、シャリンとどこからともなく音が鳴る。こちらに近づいてきているのは明白であり、私はボックスから木剣をとりあえず出す。
あと少しというところで、その音は止み、気が付いた時には私たちはすでに囲まれていた。
「完全に後手に回っちゃったね、でもまぁ、別に問題はないかな」
魔法の発動がまるで開戦の合図を知らせるようで、私たちは一斉に敵を一人でも倒すべく動き始める。
「フラワーボム」
そんな言葉が聞こえてくる。屋根に飛び乗った直後であり、体はまだ動き始めない。それは二人も同じようであり、フェクトは慌てて結界を無理に発動させる。
次の瞬間、破裂すると同時に私たちはバランスを崩す。なんとか着地は決まったが、追撃の一手を間髪入れずにぶち込んできた。
それをなんとか木剣で払いつつ、私たちは後ろへ飛び、体勢を整える。
「コイツら強いニャー、それにあの魔法ってさ、アリアたちが言ってたやつだよね」
「そうだね、ただ、私が浴びた魔法ではない。同じ魔法だけど通常のフラワーボムだと思ってても大丈夫だと思う」
「大丈夫だからって油断はするなよ、普通に高火力なのは間違いねぇんだから」
そうして、またあの音が聞こえてくる。まるで何かを準備しているかのような感じであり、暗さも相まってどこか不気味である。
そんな恐怖心を舐め回してくるかのような音は、冷静さを欠くにはもってこいすぎたのだ。少しばかり焦っているのが胸の鼓動を聞けばわかる。
まるで、この不気味な音に駆り立てられているかのように速く、少しばかり気分が悪くなる。エールは魔法で綺麗さっぱりなはずなのに、まるでぶり返してきそうな勢いがある。
「アリア、気をしっかり保て! ここで冷静さを欠いたら一気に戦況は悪くなるぞ」
フェクトの声は時に私の支えとなる。私が崩れたら、このチームが終わることがわかっているからである。だからこそ、強い口調で言うことになったとしても、フェクトは全く躊躇いなく叫ぶことが出来る。
それがフェクトが剣聖の使い魔としてやるべきことなのだと完璧に理解していた。
「アリア、いざとなったらわたしたちが支えるニャー。だから、アリアらしく暴れてくるニャー!!」
その言葉を言うナズナの顔は自信に満ち溢れていた。絶対に何があったとしても支えるという強い意志を感じる目をしている。
そんな目を持っているからこそ、魔法使いたちは攻めきれずにいた。
私は一歩を踏み出し、一気に駆け出していく。それがどんなに重い足取りだろうと関係ない。私は、剣聖としてやるべきことを全うするだけである。
「剣聖に向かって攻撃をしたこと、後悔させてあげるわ!」
決まったと思った。だが、渾身の一撃はギリギリのところで杖で防がれ、威力はとうに死んでいる。だが、ぶつかった時に生じる衝撃は杖を通じて、体に届く。
耐えきれずにそのまま倒れた。
「一瞬、マジで耐えられたかと思った。でもこれではっきりした、なんで私たちを襲うわけ?」
深く被ったフードを取り、姿が顕わになった。そこにいたのは、彼女と村の人々である。
「杖で私の一撃を受け止めた時、気づいたわ。杖をこんな風に戦いに加えるのはあなたたちしかいない」
「そうだね、さすがは剣聖アリア様だよ。師範代として長年戦い続けた、我ステッキの杖を折った最強よ」
圧倒的な強者のオーラが漂っている。思わず、後ずさりでもしてしまいたくなるような感覚になる。それほどまでに、彼女ことステッキは強いということだ。
あの時組み手で戦った時よりも、確実に腕を上げているのがわかる。
老体になったとしても向上心を忘れず、日々研鑽に励むことで到達出来る強さが目の前にいた。その強さに私は、興奮が抑えきれそうにもなかった。
「なんちゅう剣聖様じゃ、私を見て、ここまで戦いたいという欲が溢れ出ている。こんな老体にすら、剣聖の刃は向けられるってことか」
「どれだけ強くなったんですか……ほんとうは今すぐにでも第二ラウンドと行きたいところですが、何か用があって私たちの前に現れたんですよね。あの美魔女関連ですか?」
ステッキは首を縦に振る。ここまでの人数を集めているということは、何かしらあったというわけだろう、だからこそ、私たちに助けを求めにきたと考えるのが妥当である。
そうしてステッキから口を開く。
「あいつの返還要求がここから来ている。返還に応じなければ、こちらとしても考えがあるって脅されている。圧倒的な物量で私たちを潰す気のようだ」
「は? でもそれに応じる必要は普通ないですよね、もしかしてですけど、あの人何かしらの役職を持っているってことですか……あ、あの庭園の運営と管理だ!」
再びステッキは首を縦に振った。だが、美魔女がしようとしていた行為は国家反逆罪に当たるようなものである。それを、私たちを使ってさせようとした事実もあるなか、その証拠を突きつけたところで、村が襲われる可能性はゼロではない。
私たちは、何か重大な出来事に知らないうちから巻き込まれていたのだった。




