728話 美魔女
長い旅路が終わる。私たちはようやく国に辿り着いたのだった。何日も、何週間も、何ヶ月も掛けてようやくのことである。
久々の国に、私たち全員が浮き足立っているほどだ。そんな高揚感に満ちたテンションの中、私たちは国の中へ入り、久々に見る人々の熱気に圧倒されていた。
そんな人々の熱気に負けないように、ナズナが私たちの中で一番テンションが高くその空気感に馴染もうとするが、生半可な付け焼き刃では簡単に飲まれて存在感がなくなってしまうほどである。
「マジかよ、あのナズナのテンションで飲み込まれてたぞ。ナズナよりテンションがはっちゃけてんの初めて見たかもしれん」
あまりの光景にフェクトもそんな言葉を残す始末。そんな光景に圧倒されていると、一際静かな露店があった。他の露店とは違い、どこか暗めで質素な感じのお店であり、そこだけまるで異物のような場所である。
そんな場所に私たちは吸い込まれるかのように、足がそっちに向けて歩き出していた。
「いらっしゃい、こんなお店に来るなんてよっぽどの物好きかそれとも観光客かい?」
古びた服を着た白髪の老婆。そんな女性が売っているのはネックレスなどの装飾品である。丁寧に並べられた装飾品はどれも街とはまるで正反対の落ち着いた感じであり、どれもそれ相応といった感じの値段をしていた。
「観光客って感じですかね」
「でしょうね、剣聖様。街の人々は気付きもしなかったが、あなたがた三人はとてつもないほどの気配を身に纏っている」
私たちのことをわかっていた。そんなことを思っていると、突然老婆は指を鳴らすと同時に、姿と服装が変わり、自分が魔法使いであることを自ら証明するかのような振る舞いを披露した。
あの老婆が見る影もなく、話題になってもおかしくないほどの美魔女へと変化を遂げている。その変わりように、二人は驚きで目が点になっているほどだ。
「わざわざその姿になって何かなさるおつもりですか、ここで攻撃系を発動させようものなら、私はあなたを斬りますから」
私は腰に下げてあった剣をチラッと美魔女の方へ向けた。美魔女はそんなことを気にする素振りすら見せず、ゆっくりとした口調で喋り始める。
「剣聖様、この度はよくぞこの国へ来てくださいました。この国は今お祭りをしている最中でございまして、少々騒がしいでしょう。せっかくなので静かにお話が出来る場所にご案内いたしましょう」
珍しい大きな杖を取り出し、地面を二度叩いた。その瞬間、円形の魔法陣が発動を始め、私たちは露店ごと転移をした。
連れてこられた場所は、大きな庭園らしきところである。その一角にまるで場違いなはずなのに、この露店はまるで我が物顔で堂々と建っている。
「この場所は一体何ニャー? どう考えても怪しさしかないけど、それに一体あなたは誰ニャー」
ナズナの至極真っ当な質問に対し、美魔女はニヤリと笑っている。
まだ美魔女だからこそ許容範囲内ではあるが、どう考えても最初会った時にそんな風に笑われていたら、少しばかりトラウマになっていただろう。
「ここは静寂の庭園。人々が静寂を求めてやってくる一種の楽園よ。私はここの管理から運営まで一人でしている魔法使いってわけ。後、普段の格好はあれが本来の私なんだよね」
「どこから突っ込めばいいかわからないけど、とりあえず私たちに用があってここに呼んだので合っているわよね?」
「とりあえずそうですね、この国を一度ぶっ壊しては頂けませんでしょうか?」
まるで冗談話をするかのようにポロッと言った言葉。それは、美魔女の本心だというのはその場にいた誰もがすぐにわかった。
それでも、こんなお願いをされたが私たちにはどうすることも出来ない案件。
美魔女がどうしてそんな出来もしないことを言ったのか、気になるところではあるが、それでも先に断りをしようとしたその瞬間、大きな爆発音と共に私たちは力が封じられた。
「何これ!? 拘束具、どうして急にそんなものが」
「魔法ではないみたいだ。まさかこんな隙を狙われるなんて思いもしなかった」
フェクトの言葉が最後の方で、力がまるでなくなっていくかのような感じがした。
「おいテメェ、こんなことをして俺たちを無理にでも実行させる気?」
「実行してもらうのは剣聖様だけですよ、後の二人は人質です」
二人の気配が弱まっていくのがわかる。全ての力を拘束具に持っていかれており、いつ気を失ってもおかしくない状況が続く。
その状況下を作り出すことによって、私に拒否権なく暴れさせる気なのだろう。
「でも、そんなことをしたところで意味なんてほんとうにあるのかしら? ここで私が動かなければどうするつもりなのか説明してもらっても良いかな?」
「随分と上からおっしゃりますわね、この状況に陥ってもなお、そんな風に振る舞われたら、その分お仲間さんは死ぬのが近づくだけですよ」
私は思わず、ニヤリと笑ってしまった。
「はぁ? あんた私のことなんてこれぽっちも理解をしていないのね、思わず笑っちゃったじゃん。ほんとうにさ、もうちょっとそこはきちんとしてほしかったかな」
美魔女は終始困惑した表情を見せている。そんな中、私は立ち上がり思いっきり力を込めて拘束具を吹っ飛ばした。
「これで両手が自由に動ける、もうちょっときちんと拘束具は付けるべきよ。どうせ、この二人にリソースを割き過ぎて、あんなチンケなものしか用意出来なかったっていうオチだろうけど」
「なんで、普通だったら仲間のために私の言うことを聞くと思うじゃない! どうして、あなたにそんな常識が通用しないの!!」
「剣聖ってそんなものだよ、それより覚悟は出来ているよね、せっかく街に着いてすぐって時だったのに、こんなことに巻き込みやがって、ほんとうに腹立たしいね」
ボックスから木剣を取り出し、勢いを殺すことなく私は大きく振りかぶった。
地面に打ち付けられて、倒れ込む姿は無様であり、なんともボロボロな姿を露わにするのであった。




