727話 ウルフソルジャー
夏の暑さを感じさせる今日この頃。私たちは相も変わらずにあてもない旅をしていた。
ジリジリとした暑さが体に疲労感を与え、外で活動することさえ意欲を低下させるような暑さであり、私たちの心も体も疲弊していた。
疲弊していることもあってか、誰一人喋ろうとはしない。喋る元気もなければそんな意欲すらない。そんな雰囲気をこの暑さが作り出していた。
私は水を一口飲み、口の乾きを少しでもいいから潤した。それで気分が晴れるというわけではないが、それでも少しでもスッキリした気持ちにはなる。
そんなふうに過ごしていたら、群れの気配が頭の中に流れ込んできた。気配の場所はまだ先ではあるが、警戒心の強い魔物なのか、離れていても気付かれてしまう可能性がある。
まるで歪な気配は、他者を寄せ付けたくないと主張しているかのように、なんとも嫌な気配だ。
「どうするよ、あの魔物たちは対処しておく?」
暑さに必死に耐えているのか、ずっと顔を下に向けていたフェクトがまるで睨みつけてくるかのように、こっちへ向いた。
「気配? そんな気配感じるか……まぁ対処したいんだったら勝手にしてくれ。俺は動く気はねぇぞ」
「わたしもフェクトの意見に賛成ニャー」
二人揃ってどうやらやる気がない。この暑さでだいぶ体がしんどいのだろう。急激な温度変化で、二人揃って元気がないのは由々しき事態ではあるが、先にやるべきことがある。
そんな中、気配を感じていた魔物が一斉に動き始めた。それも私がいる方向であり、急激な速度で接近をしている。
「マジで!? そんなに私たちの気配って大きかったっけ、まぁこちらに向かって来ている時点で襲う気満々みたいだし、ここは対処してあげないとね」
ほうきを急降下させる。自然に追従するかのように、フェクトのほうきもそのまま私について来る。そうして、地面に着地すると同時に私は草原を走り出した。
腰に下げてあった剣を抜き、いつでも一撃を繰り出せるようにしている。
「ウルフソルジャー!? やっぱりここまで警戒心が強かったのってそれ相応の魔物だったみたいね。ほんとうにこんな魔物が集団で動いているなんて厄介だわ」
先頭にいたウルフソルジャーは飛び上がり、自慢の爪を私に向けて突き出してくる。それを確実に捌きつつ、後方で待機していた地上組が、第二陣第三陣となって襲ってくる。
シンプルな連携攻撃だが、それはそれで対処が難しい。
「シンプルな攻撃だけど火力が高い。どれだけ研鑽したら、ここまでの強さになるのか想像も出来ないわね」
怪我はないが、それでも衝突時の痛みはある。それが幾度も波のような攻撃を仕掛け続けられたら、私でも怪我を負ってしまうだろう。
まだ一匹も殺せてはいない。私のカウンターは素早い対処で避けられてしまっている上、距離の取り方も上手い。
「完全に殺し慣れた感じがするわね、それが魔物でも人間だろうと変わらない感じで攻めているって感じるね」
それでも突破口の入り口はいくらでもある。彼らウルフソルジャーは、私のことを見て終始怯えた様子がある。ここで是が非でも殺しておかなければ、これからの脅威となるであろうとすでに決定付けていた。
そんな様子の中、一番奥にいたウルフソルジャーが遠吠えをあげる。それに連なるかのように、他の連中も遠吠えを上げ始めていた。
その迫力は凄まじく、簡単に蹴落とされてしまいそうになるほどであり、まるで大きな一頭のウルフソルジャーの気配となっていた。
「ここまで大きく見せ付けてくるのね」
たまらず、私は笑みがこぼれ落ちていた。剣を持つ手にも力が入り、私は改めて攻めの姿勢になる。
「剣聖としてあなたたちをこれから討伐します。反撃をするのも結構だけど、逃げる以外は死であることを覚悟しておくことね」
私は手始めに手前にいたウルフソルジャーの目に剣を突き立てた。悲痛な叫び声があるが、そんなことなんてお構いなしに私は次から次へと攻撃を繰り出していく。
倒れていくウルフソルジャーは悲惨な死に方をしており、そんな仲間の姿を見て逃げ出そうとするやつまでいた。
「群れで行動していたのに、いざとなったら逃げるのね? 随分と噛みついてきたくせにもうその威勢は消えちゃったの、なんだか勿体無いね」
だが、そんな言葉を聞いても一匹は逃げていく、まるで逃避行が始まるかのように。
そんなことを思っていると、一番奥で存在感を放っていたウルフソルジャーが攻撃を仕掛けてくる。地面にめり込むような一撃は、より私の興奮を高めさせてくれる。
「え、何? 急に動く気になった感じなの、だったら最初から動いててほしかったんだけど、後ろで監督気取りとかいらないんですけど」
少しばかり掠った一撃。ウルフソルジャーはとても苦い顔をしているが、それでもこれ以上の犠牲を出さないためだろうか、一匹だけで攻め始めていた。
他の連中はそれをただ見つめるだけ、逃げ出すといった二分化された行動を取り始めていた。
そんな光景を横目に、頭のウルフソルジャーは目もくれず、攻めてはいるが全く歯が立っていない。それどころか、軽くあしらわれて、まるでボロ雑巾のように捨てられているような状態だった。
「魔翔弾・ビット」
そんな言葉が聞こえてきたと思えば、ただ見つめているだけだったウルフソルジャーはすでに死んでいた。その奥では、うっすらとナズナが動いているのがわかる。
逃げた数匹を追って草原を駆け回っているのだろう。
「急に動く気になってどういった心境の変化? 私にわかるように説明してほしいんだけど」
「ただの気まぐれだよ、それにそろそろ進みたくなっただけだ」
今まで何もしてこなかった二人が起きたのが目の前にいる頭は、相当驚いている。完全に足が止まっており、もう何もすることも出来ないだろう。
そうして私は何の躊躇もなく、真っ二つに一刀両断する。
その後、ナズナが返り血をたくさん浴びて帰ってきたのはそれからすぐのことなのであった。




