722話 一瞬の隙にはご注意を
メデューサを倒して数日経ってもなお、私たちは平原のど真ん中にいた。ほうきでいくら飛ぼうが、いつまで経っても景色は変わらない。
そのせいもあってか、魔物を見かける回数もだいぶ減ったのを感じる。それが原因で二人のストレスは増えまくり、空気の流れもだいぶ悪い。
二人ともどことなくイライラしており、それでもなんとか旅を続けられていた。
「もう、早く次の景色見せてニャー、魔物や魔族と戦いたいしなんでもいいから現れてよーー」
そんな大きな声がどこまでも続く草原の真ん中で響き渡るだけで、虚しさだけが残る始末。ナズナはすでに何度も叫んでいるが、もう最初のような喜びは何も感じない。
むしゃくしゃして頭を掻きむしり、どうにかストレスを発散させようと努力する。
フェクトの方はすでに、何をやっても無駄と言わんばかりに最低限な行動をしかしない。それもだいぶ消極的に動くだけであり、なんとも二人の個性が消されたかのように思った。
「でもあともう少しでさ、草原は抜けられると思うからもうちょっとだけ辛抱しよう!」
「充分しているけどな、それにアリアだって本当は今すぐにでも走りたいと思っているんじゃないか?」
酷く冷たい声で聞いてくる。
まるで、私もこちら側だと言ってくるようなそんな感覚であり、こちらへ二人が手招きしているようだ。
「それでも私は普通に旅をするわよ、だって私が始めた物語だもん。あてもない旅ってこういった場所も楽しむことが重要だと私は思うんだけど」
そんな言葉は、今の二人には荷が重かった。二人してど正論のパンチを真正面から喰らい、何も言えなくなる。そんな言葉のおかげで、二人してだいぶ大人しくなった気がした。
そうして旅を続けていると、鐘の音が鳴った。
そんなはずはないと、誰もが一度は無視をする。だが、まるで私たちに宛てて奏でているのか、また鐘の音が鳴る。
それでもグッと堪えるかのように、ほうきの速度を上げるが鐘の音はことごとく私たちのほうきを止めた。
「一体どこから鳴っているわけ? 気配感知には反応していないけど」
「マップにもそんな鐘があったら即座にここを最初から目指しているはずだからな、何かしらの罠ならさっさと正体がわかった方がイラつかなくても済むんだけどな」
「ほんとうにそうニャー、私たちがまるで不満が溜まっているから鳴らしてるとかなら止めてほしいニャー」
だが、そんな言葉も虚しく、また大きな鐘の音が鳴り響く。それはとても冷たい鐘の音であり、私たちは気が付けばとてつもなく寒さを感じていた。
突然のことで私たちは軽くパニックに陥るが、すぐさまフェクトが結界を展開させ暖をとる。
それから幾度となく鐘の音が鳴り響く。その度に結界ごと私たちを凍らせようとする寒さが襲ってきた。
「フェクトはとりあえず炎系統の魔法を発動させて! ここで何もしなければ確実に私たちはただでは済まない」
「わかっているが、急激な温度変化によって結界に割いた魔力を削られないと、すぐには魔法を放つことは出来ねぇ。二人は何もわかっちゃいないが、今も結界は破られている状況なんだよ!」
そんな言葉を聞いて、私は結界の方を見た。確かに、パリンと、小さな音を立てすぐさま割れては新たな結界が反映されては消されていく。
フェクトの魔力が尽きるのが先か、この現象が終わるのが先か、まるで我慢比べの状態に陥ってしまう。
「だったら消費量を抑えるために結界を狭めて! フェクトとナズナだけだと結界の消費は少しばかりは抑えられるはずだよ」
「アリアはどうするニャー? こんな吹雪の中、アリア一人で魔物の気配がない中戦う気なの、そんなことをして何になるの」
ナズナの心配そうな顔が目に浮かぶ。それに何より私はあることに気が付いている。おそらくそれを阻止しようと本気でこの吹雪をより強く演出するだろう。
それしか脳がない奴がこの現象を引き起こしている魔物の正体なのだから。
「私のことは心配しないで、それにしてもいい隙を突いてくれたわね、私も危うく騙され続けるところだったわよ、さぁ私が相手をしてあげるんだから全力で来なかったら、簡単に殺してしまうわよ」
私は結界から抜け出し、そのまま地面に着地する。猛吹雪ではあるが、それは演出としてやっているに過ぎない。なぜなら、これは視覚を奪うためのフェイクなのだから。
「権勢たる所以の一撃、汝に示すはフェイクを打ち破る我が剣技。剣聖剣技・空間断絶破」
大きな結界が瞬く間に効力を失って割れる。その瞬間、嫌というほど見た景色が目の前に広がり、春の陽気が私を歓迎してくれている。
その結界、効力を失った猛吹雪は嘘のように止み、何事もなかったかのように綺麗さっぱり消えていく。
「これってどういうことなんだ? 俺たちは一体何を見せられていたんだ」
「こんなことが出来る魔物がいるの? 聞いたことも見たこともないニャー」
そこに現れたのは、一体の魔物。それも人間の見た目をした白い物体である。
「君はフェイクマン。嘘を瞬間的に見せつけ、それがまるで本物のように人々を欺く魔物。それもまさか、こんな平原で現れるとは思ってなかったけどね」
何かやろうとしているが、上手くいかないことを分かり切っているくせによくやるとさえ思ってしまう。
「君は一瞬の隙を突いてこそ、強い魔物だもんね。もう正体まで看破されているのに、何をしようって言うんだい? 私に教えてくれないかな、だって君が一番わかっているはずなのにさ」
フェイクマンは逃げ出した。一目散に走り出し、まるで逃げ切れるとでも思っているかのようないい走りっぷりである。
そんなフェイクマンを私は後ろから何の躊躇もなく、心臓部分に剣で突くのであった。
「終わったよ、まさかこんなレアな魔物と出会えるなんて運が良かったね」
「それにしては、だいぶ呆気ない死に方をしてるよな、コイツって」
「まぁ、フェイクが見破られた時点でゴブリンとかスライム程度の魔物だからね」
そんな体験が出来たことによって、二人のストレスが溜まっていた表情は少しばかり軽くなっているような気がした。




