719話 魔族の侵攻
狐園の外に出ると、魔族の気配が一気に多くなった気がした。それはおそらく気のせいではないだろう。アゲが何らかの魔法を施し、少しでも不安を和らげようとしていたのがわかる気がする。
アゲが好かれているのは、こういった一面も持ち合わせているのが要因だとわかる。アゲ自身も相当なプレッシャーを抱えて生きているからこそ、こういったことには敏感になるのだろう。
「ちと、数が多いな。予定より多く倒すか? ここは臨機応変に対応を変えるべきだと俺は考えるが」
「そうだね、魔法のことを教えておいてくれたら良かったのに、まぁ今更言っても仕方ないね。とりあえず当初の目的は変わらないけど、多めには倒そう」
フェクトは入念に体操を始めていく。体をほぐしながら、魔力も相当練っているのを感じる。そんな魔力を感じさせていれば、魔族も警戒を強めてくる。
それはフェクトにとってのファーストコンタクトであり、先手必勝の攻撃なのだろう。
「相当気合いが入っているわね、それじゃあよろしく頼むね!」
それだけ言って私は先に走り出した。先ほどは出ていなかった霧が出始めている、これもまたアゲが施した魔法の一種。こちらにもデメリットはあると思うが、時間稼ぎをするならばもってこいの魔法だとわかる。
それに何より、何とも高度な魔法が組み込まれている。気配感知を発動すれば、魔族の位置が鮮明にわかるようになっており、この霧に触れる邪悪な存在を滅するという思いが伝わってきた。
腰に下げてあった剣を抜き、力強く構えをとる。深く深呼吸をして、心と体を落ち着かせ、覚悟を決める。
「さぁ、剣聖アリアのお通りだよ、剣聖剣技の真髄を感じさせてあげる」
地面を蹴り、一気に足を前へ踏み出す。おそらく気配を感じ取っているであろう魔族たちはその気配を探るだろうが、すでに遅い。
「どこを向いているのかしら、私はこっちにいるというのに」
魔族の首を斬り裂く。様々な表情がごちゃ混ぜになったような顔と目があったが、すぐさま散りとなって消えていった。
魔族が殺されたことに気が付いたのか、こちらへ向かってくる気配が複数感じられる。それをフェクトは魔弾で頭を貫き、そのまま消滅させた。
魔族たちの頭にはとある未来が見えてしまったのだろうか、魔族の気配が遠のいていく。まるで撤退しているかのような感じである。
まだ、たった数体しか消滅させていないはずなのに、思っていた以上に魔族たちの行動がわからない。
だが、次の瞬間、そんな気配は全て消え去り、まるで誰かによって抹消されたと確信が持てた。
(フェクト、気配の正体はわからないけど相当やばいのだけは確か。魔族が一瞬にしてほぼ消えているし、それに私たちのことを完全に位置まで把握している気がする)
(アリアがそう言うなら間違いないな。どうやら狙いはアリアだけのようだ、魔神王の力を持つ俺には全く興味を示してない)
私以外に向けられている殺気はない。私のことだけを殺すと言わんばかりに浴びせられる殺気は何とも心地よい感じがした。
逃げた魔族たちはおそらく、殺気を向けている魔族が動くことがわかったのだろう。だが、そこで本来しなければならない行動は、逃げることではない。フェクトや狐園に攻める態勢だったはずだ。
それでも逃げたのは、おそらくあまりにも不気味で一秒たりとも浴びたくない殺気から逃げたかったのだろう。それを殺気の持ち主は、許さなかった。
それは全て私の憶測を元にした考えではあるが、ある程度合っていると何となく思う。
(とりあえずフェクトは狐園に大規模な結界を張ってくれる? 万が一のために張っておくべきだと思う)
(それはどうやらアゲたちも同じで、狐園に大規模な結界が構築されていく魔力の流れを感じる。すぐさま行動に移しているあたり、こんな存在がいることは何となくわかっていたのかもな)
(今までこの存在はアゲたちには興味を示していなかった。その理由は弱いから。弱い存在には、自分の出る幕ではないとわかっていたのかもね、こんな気配を感じさせておいて、何とも言えないわね)
そんな話をテレパシーでしていると、私がその場で立ち止まっていることに対して、何を思ったのか、遠距離攻撃を途端に発動した。
それを簡単にあしらいつつ、私はゆっくりと進んでいく。そんな私にまるでラブコールを送るかのように、遠距離攻撃を発動させているが、足止めにすらなっていない。
なんなら、私の歩く速度がだんだんと早くなっていっている気がするほどだ。
「波・斬撃!」
先ほどまるで変わらず、同じ剣技が飛んでくるだけだった。
「もしかしてだけど、木々の破壊音で聞こえてなかっただけで、何かしらずっと剣技名でも言ってたのかな。それにしては、私のことを随分と舐めているみたいだけど」
全く諦めずに放ってくる剣技にだんだんと嫌気がさす。だんだんと適当に弾くようになった瞬間である。その時を待っていたかのように、剣技を放っていた魔族が直接攻撃を放ってきた。
ぶつかり合う。衝撃波が木々を粉砕するほどであり、その威力がいかに強いかを証明しているようなものだった。
「油断をしたから突っ込んだはずだったんだけどな、まさかこれすら止められるとは想定外だ」
「それにしても、あんな剣技を使わなくても良かったと思うんだけど? 弱い剣技で退屈だったわよ」
激しくぶつかり合う剣。互いが引かず、ひたすらに己の強さを証明するかのように剣を振るっていた。
「これが今の剣聖なのか、随分と昔に戦った剣聖とはまるで強さが違う。あの時に比べて遥かに強い。全てにおいて、あの剣聖とはまるで比べものにならない」
だが、その口ぶりだと、こいつは剣聖を殺せなかったのだろう。殺していれば、昔とはいえ何かしらの情報が残っているはずである。
こいつの情報を私が見たことがない時点で、おそらく両者共々深手を負って引き分けの形で互いに戦闘を終わらせたようなものだろう。
服を着ていてわからないが、すでにその傷は癒えており、そのため私という存在が現れたからこそ、この場に姿を現した。
それでも勝つのは私である。




