715話 狐火
どんな術か知りたいだろうとでも言いたげな顔をする狐。
ナズナのような獣人族とは違い魔法適性があるのだろう。彼が見せた狐火の迫力は息を呑むほどだ。
「随分と真剣に見て下さってありがとうございます。さぁ、踊り狂いましょう!」
火球を私に向けて投げてくる。その火球は、ただのものではなく、一癖も二癖もあることぐらい私はすでに見抜いていた。
案の定、姿形を変え狐のような形で走るように飛んできたかと思えば、目の前でパッと消え、両横腹から、熱さを感じるとともに攻撃を加えてくる。
それをまるで子どもがはしゃぐかのように、攻めてくるため、まるで攻撃が定まらない。そんな攻撃に私の怒りも溜まっていくばかりである。
それがわかっているからこそ、彼はいくらでもそのような魔法を放ち、人を嘲笑うかのような笑みを浮かべ続けている。
「怒りなんて捨ててしまいなさいな、そんなものがあったところで、視野は狭まり、いい攻撃なんてまるで出来ないですから」
思わず舌打ちをしてしまいたくなる。だが、こんなやつに飲まれていては、いつまで経っても自分が上なのだと間違ったことを思い続けてしまう。
だから私はただ正すだけであり、怒ることなんて微塵もないのだと知った。
「そうだよね、怒るなんて馬鹿だね。たかが炎で私にかすり傷をつけたことで有頂天になっている君を見ている方がよっぽど面白いよね」
気配が変わる。自分がこれ以上にないほどまでに馬鹿にされ侮辱されたのだから当たり前と言えば当たり前だ。
「あれ? 怒っちゃった、でも高貴な狐の獣人さんがこんな言葉で怒るわけではないですよね」
「狐火・天照」
この炎を見た時私は思った。彼はとてつもないほどに短気である。自分も煽るくせに煽られることに対してまるで耐性がない。
だからこそ、おそらく大魔法とも呼べるような火力を惜しげもなく発動出来る。
草木はいっぺんに燃え上がり、それはだんだんと延焼を広げていく。自らも焼かれるような熱さを喰らいながらもそれでもいいのだろう。
「全身が焼けるように痛いね、でもさ、そんな魔法を使っても目の前にいる存在を見誤っては困るわね。もっとちゃんとしなさいな」
私は腰に下げてあった剣を抜き、そうして私は勢いよく前へ突き出す。その瞬間、大魔法を簡単に突き破るような一撃が彼を襲う。
真ん中の核なんて木っ端微塵であり、先ほどまで猛威を奮っていたのが嘘のようだ。突然、大魔法が消されてしまったのだ。彼の体にも相当な負担がのし掛かり、血を吐いてそのまま地面に倒れる。
「ごめん、そこまで攻撃を喰らうとは思っていなかった。せいぜい、あの魔法を消す程度だったんだけど加減を間違えてしまった」
だが、そんな言葉はすでに彼の耳には届いていない。彼は気絶しており、今後の対応次第では私たちが彼を殺してしまう可能性だってある。
それほどまでに彼の体は弱っており、全ての魔力を放出して危険な状態になっている。
「コイツ、自分の魔力量をわかってないんか? どう考えてもあんな魔法を放ったらこうなることぐらいわかってただろうに」
フェクトは呆れた声でそんなことを言う。フェクトは即座に魔力を流し込み始めていく。その間に私とナズナはポーションを掛けていく。
「彼ってそんなに魔力が少ないの? あんな魔法を放ってたぐらいだったからてっきりあると思ってたんだけど」
「狐火魔法がどんだけ魔力を消費するのかは知らねぇ、ただ、あんな魔法を放てば並大抵の魔法使いはすぐに魔力切れを起こしてしまう。それを数十秒保たせた時点でコイツは命を削って発動しているようなものなんだよ」
天照という魔法はそれほどまでに強力な魔法なのだろう。彼には魔法を放つだけの力はなく、だからこそ彼は保たせることに専念した。
スリップダメージという補助ダメージを使って。だがあれを放った時、彼自身の中でも焦ってしまっていたのが今思えばそんな気がする。
短気で簡単にあんな煽りに乗ってこんな魔法を発動させた。彼の中ではどこかしら『どうにでもなってくれ!』という思いもまたあったのかもしれない。
「アリア自身も煽りすぎたな、あんな風に自分が扱えきれない魔法を放つ連中だっているんだ、煽られたからって、煽り返さなくていい」
「それは反省しているけど、それでも煽りは返すかな。だって、その時点でバチバチなのは確定案件なんだから」
フェクトは頭を抱えたくなってはいるが、それも仕方ないことだと諦めを飲み込んでいるような顔をしていた。そうして話しているうちに、彼はゆっくりと目を開けてまわりを見ていた。
「あ、気が付いたみたいだね、随分と派手な魔法を使ってたけど起き上がれそう?」
自分が置かれた立場がなんとなく理解出来たのだろう、私に対して怪訝な顔を向ける始末。
だが、自分からあの魔法を発動しておいて、破壊されたら機嫌が悪くなるっていうのはどうなのだろうか、今の彼にとってはそれを考える余裕はないのかもしれない。
「まさかあんな簡単に潰されるとは思ってもなかった……だからあれが破壊された時、何が起こったのかわからないまま倒れた」
「まぁ実際そうだろうな、アリアが剣でわざわざ潰したのは剣聖の力を証明するため、下手したらオフセットで終わってたよ」
彼は驚いた顔をする。そんな顔になるのも無理はないと思った自分がいた。私の魔力であれば確かにオフセットで簡単に潰すことは出来たのも事実。
「フェクトの言う通りだし、でもねあなたはもっと相手をするべきだった。そうすれば、あんな終わり方ではなかったし、お互いにもっと知り得たこともあると思う」
「そりゃそうかもですけど、あんな煽り方をしておいてよく言えたもんですね」
「それについては、あなただって同罪だと思いますけど。最初に煽ってきたのはあなただし、それにあんな風に煽られただけであんな魔法を出すんだからほんとうに短気だね」
肩に違和感を感じた。それはどうやら彼もまた同じだったようで、後ろを振り返ればオーガよりも険しい顔をしたフェクトの姿があった。




