713話 壊す方法
体が重い。まるで全身を包んだ鎧を何重にも着ているようだ。
今すぐにでも倒れてしまいたいと、何度でも思うほどに体中が悲鳴を上げているのがわかる。それでもなんとか進まなければという思いだけで、今私は歩き始めている。
動くたびに体に掛かる重圧は重くのし掛かり、それでも『こちらへ来い』と頭の中で何度もこだましている。それがとてつもなく気持ち悪く、頭の中をそんな言葉で支配されている状況から私は一刻も早く抜け出したかった。
「こっちへ来いって言う割には、随分と舐めたことをしてくれるじゃない?」
そんな言葉を吐き捨てるかのように言っても、置物は何も返答しない。無機物にそんな言葉を投げかけている私は、もうすでに頭はおかしくなっているのかもしれない。
それでも頭に流れ込む言葉を聞いて、私は一言言いたくなったのもまた事実である。
そんな時だった。
まるで頭を鈍器で思いっきり殴られたかのような痛みと共に、私の体は地面に叩きつけられた。
「がはっ!」
一瞬何が起こったのかわからず、ただ茫然とこの状況に疑問の顔を浮かべている。
「今のは、一定の距離に近付いた証拠だニャー」
おそらくそのスペースに私は気が付かず、踏み込んでしまったのだろう。なんともバカである。そんなことは予想が出来ていたはずなのに、私はただひたすらに前を目指していた。
それも全て、あの言葉が作用していたのかもしれない。
「ここまで強い招き猫はわたしは見たことがないニャー、わたしなら突破出来るかもだけど、体が一切動かない」
フェクトはどうにか四つん這いの姿になっているのが、先ほど見えていた。同じ位置で倒れているはずのナズナがそんな状態なのは、おそらく何かしらの要因がある。
そう思ったわたしは、全身がすでに何度も悲鳴を上げている中、立ち上がる。
「獣人族によっぽど触らしたくないみたいだね、それは招き猫の攻略法を知っているから」
私は歩いてきた道を戻る。今まで全身が悲鳴を上げていたのが嘘みたいに軽い。それはおそらく、先ほどの状況に体が少しばかり慣れているのが要因である。
そんなことを思いながら二人を立ち上がらせ、なんとか範囲外へ出た。範囲外へ出た瞬間、気配を感じるだけであの言葉は聞こえてこない。
二人とも相当な疲労が見えていた。それだけあの状況が厳しいものだったと語っているようなものだった。
「ナズナ、覚醒出来そう? なんならポーションを飲んで回復してからしてくれた方が成功率が上がるかも」
ナズナは超高級ポーションをボックスから取り出し、まるで仕事終わりの大人たちがエールを飲むかのように、豪快に飲んだ。
とてつもないほどに清々しい顔をしており、相当美味しかったのだろう、幸せな顔をしている。
「フェクトの方は結界でナズナを何重にも守ってくれる? あれを突破するにはおそらくそれが必要になってくる」
「それは構わないが、本来はそんな風に攻略するものではないだろ?」
「ほんとうはそうなんだけど、多分正攻法では攻略出来ないようになってると思う。本来はあれ、子どもが遊ぶためのものだったりするからさ」
「そうなのか、それにしてはアレは殺意の塊だけどな」
おそらくそれは設定したものによる遊び心的なものだったのだろう。だが、あそこの周辺には死体が眠っているような気がしてならない。
なぜなら、気配感知にうっすらとそんな気配をずっと感じているからだ。
「とりあえずどんな方法なんだ、アリアが考えているやり方は?」
「限界を超えた速さであの置物を壊すことだよ、おそらく本来のやり方も同じだろうけど、それはあくまでもサポートがない状態でやるもの。でも今回は、覚醒化、結界などのサポートをフル活用して挑む」
ナズナはパッと目を輝かせまるで「どうしてそれがわかったの?」と、言いたげな顔をしていた。
あの時、あの置物はナズナを最大限警戒している様子だったのは、語らせないためでもあったのだろう。
だがしかし、あの置物は動くことは出来ない。だからこそ、今のあの置物は先ほどはまるで比べ物にならないほどの強さで待ち構えていると断言出来る。
「フェクト、妥協なんて絶対にいらないからね、なんなら援護射撃で魔法をぶっ放す準備も同時でしておいてくれたらいいぐらいだよ」
「妥協? 俺がそんなことをするわけねぇだろ。それに俺はキレてるんだ、地面で眠るあんな置物を作動させたやつによ」
そうしてナズナはだいぶ離れた位置に移動し、たっぷりと助走を付ける。その際、ナズナは覚醒化になっており、相当に仕上がっている気配を感じた。
「いざとなったら私も介入する予定だから、フェクトもしもの時は頼むわね」
「了解! ナズナ、思いっきり来い、俺たちが援護してやるからよ!」
そうしてナズナは、最初の一足目からトップスピードで走り出すかのように、地面を踏み込み前へ出たのが見えた。
「来る!」
その言葉を言い終わる前にナズナは私たちの前を通り過ぎており、置物のゾーンに飛び込んでいく。
明らかに影響を受け始めていくが、それでも足は止まらず一歩ずつ確実に地面を踏み締めて進む。置物から感じてはいけないような気配を感じつつも、フェクトは魔法をようやく放つ。
「魔翔弾! 俺の超高速の魔法行ってこい!」
その魔法もまた影響を受けているがそれでもナズナより早く進んでいた。
「威力が死なねぇうちにまだまだ追い打ちを掛ける! 数の暴力でぶっ壊してやる!」
その時、私は何も考える前から自然に体が動いていた。気が付いた時にはナズナたちを追いかけていくようにゾーンに足を踏み入れており、今更止まることは出来ない。
「剣聖たる所以の一撃! 汝を壊す者は我なり、汝を壊し平穏を取り戻し勝ちを掴み取る者なり。剣聖剣技・突きの一撃!」
その瞬間、許容オーバーとなったのか今まで掛かっていた圧力が嘘みたいに消えた。まるで終わることを受け入れたかのような感覚であり、三人の攻撃はほぼ同時に当たるのであった。
大きな音が響き渡ると共に、置物の顔がまるで安堵したかのような顔で役目を終え消えていく。
そうして私たちはようやく、勝利を確信するのであった。




