712話 招き猫
春の陽気を目一杯に浴びながら今日も私たちの旅は続いていた。
あてもなく森の中を彷徨ってみたり、草原をほうきで駆け抜けてみたりと、自由気ままな旅をひたすらに私たちは楽しんでいた。
そんなあてもない旅を続けていると、新たな発見があったりする。そんな発見を子どものように無邪気な笑顔で仲間と共に笑うことだってしょっちゅうである。
「今日もいい天気だね」
「最近、雨はめっきり降らなくなったけどな。さすがに気候が変化したと考える方が良さそうだな。まぁ、結界を常時展開しなくていいから楽ではあるんだけど」
「だったらそれでいいじゃん、だって雨の日は行動が制限されるから絶対に嫌ニャー、せっかくなら駆け回って遊びたいニャー!」
「だったら今から降りる? 最近よく眠っているから丁度いい運動にはなると思うけど」
ナズナは体を震わせ、ビクッとなる。私の提案はどうやらとてつもなく嫌みたいであり、警戒心が相当上がっているのが気配を感じればすぐにわかる。
「それはいい考えだな、せっかくだしナズナ、走ってこいよ。いい運動になると思うぞ」
フェクトが乗ったことにより、この場に自分の味方が存在していないことを知ったナズナは「嫌だー」と駄々を捏ねる以外出来なかった。
最終的に落ち着いたのは、ナズナがフェクトのほうきに移り、私が走ることであった。
「せっかく強くなれるチャンスを自ら手放すなんてまだまだだね、ナズナ」
「ほんとそうだぞ、俺も走って良かったがナズナが走らないって言うなら俺は運搬目的があるからな」
「だって二人とも、ほうきの速度がバカみたいに加速するじゃん。あれを追うなんてほんとうにしんどいんだからね!」
「そういう訓練だし? それは当たり前のことだよ、ナズナ。まぁそんなことよりフェクト、そろそろ始めよっか」
「そうだな、とりあえずナズナは振り落とされないようにしっかりと握るんだぞ」
私は地面に降りて軽くストレッチを開始する。簡単なストレッチのため、すぐに終わるが効き目は確かに感じていた。
そうしてフェクトはまるで全速力かのような速度でほうきを走らせ始めた。そんなほうきをすぐさま追いかけ、並走していく。
地面を蹴り上げ、一気に進む感覚を意識するのは走る上で効果があるように感じた。
土の感触が足を通じて伝わってくる。雨が降らず乾いた土のはずなのに、私が蹴るかのように進むことでだいぶ進みやすい。
「何あの速さ、やっぱりいつ見ても人間の動きをしていないニャー」
「それでもまだ結構セーブした感じだと思うけどな、すごく余裕な表情をしているし、何よりめっちゃ楽しそうに走ってる」
速度を緩めないまま、ただひたすらに進んでいく。それはコツがいるのか、一瞬でも気を抜けばその分速度は落ちてしまう。
トップ速度を維持することは難しい上に持続する時間が短い。
「もっと私はやれる……って、魔物の気配!? 走ることに集中してたばっかりに気配感知を発動させておくのを忘れてたわ」
それでも気配の反応はまだ時間はある。腰に下げている剣に手を掛けながら狙いを定めていく。ゴブリン集団であり、特段気をつけることは何もない存在。
「君たちがその場にいたのが悪いんだからね、私は君たちの命を頂戴するよ」
ゴブリンに一切気が付かれる前に、私はゴブリンの頭を一体刎ねた。すかさず、近くにいたゴブリンを真っ二つにして、その勢いをキープしたまま剣を振り出す。
ゴブリンたちはまだ反応出来るほど、私には気が付いておらずそのまま数体の命を奪った。そうしてようやく気が付いたのか、監視役のゴブリンが騒ぎ始める。
その声でようやくゴブリンたちはこの現状を理解して、すぐさま武器を取る。だが、それだけでは勝てるわけもなく、また数体の命が消失した。
「私に挑むって言うのなら、もうちょっと素晴らしい動きをしてほしかったかな。君たちゴブリンは頭が弱いから倒し甲斐が全くない」
そんな言葉を聞いて雰囲気でバカにされているのに気が付いたのか、残っていたゴブリンたちも迫り来るが、全く私という存在には敵うわけもなくそのまま消滅を果たした。
「これにて一件落着かな、ほんと強い魔物と弱い魔物の差が広がる一方だね、ほんとうに対策をしなかったらより一層魔物の数は減少しそうだな」
走り出そうとした時だった。頭の中に突然浮かび上がる気配に導かれるかのように、私は自然にその方向へ向かっていく。
どんな存在なのかすらわからないが、なぜか『呼ばれている』かのように思えてならないのだ。そうしてたどり着いた先には、大きな置物がそこにはあった。
「なんだろう、猫が座ってこっちに手招きしているような?」
次の瞬間、手招きするかのように置物は動き私は圧力を掛けられ地面に叩き落とされた。
「何これ……めっちゃ重たいんだけど!?」
なんとか声は出せるものの、そう簡単には動けない。一瞬の油断がこうも簡単に私を落とし入れるとは思いもしなかった。
そんな私を心配してか、二人が近づいた瞬間そのまま地面に落下した。
「それでもこっちへ来いって言ってるみたいでマジ意味がわからないんだけど!」
そんな風に感じるのは、私だけかもしれないがそれでも確かに感じる。なんともお客さんを呼び寄せるような見た目をしておいて、罠のような存在である。
「これ、獣人族に伝わる招き猫だよ! どこかで見たことがあると思ったら、こんな置物作ってる獣人がわたしの里にもあったニャー」
招き猫? 聞き慣れない単語ではあるが、なんとなく意味は理解出来るような気がする。名前の通り私たちは現にこの置物に招き込まれている。
そんな置物になんとか近づこうと私は立ち上がるが、体はその分重くなる。積み上がっていく重圧は私を簡単に滅ぼそうとするがそれでも私の足は動いた。
「あの状況で、動けるのか? さすがはアリアだが、相当キツそうな顔だ」
「この招き猫の力を止めない限り、わたしたちはここから動けないニャー」
私はなんとかまた一歩踏み出していくのであった。




