711話 置き土産
私が辿り着いた時には、ナズナはすでにリーダー格の男を捕らえたあとだった。男はすでに消耗した顔であり、相当まいっている様子なのが伝わってくる。
だが、ナズナの方は男に対して随分と呆れた様子であり、目の前にいる男に対してどうでもよくなっている印象があった。
そうしてナズナはもう男を見ていなかった。そうでない限り、ここまで呆れた様子になっていることなんて早々ない。
そんな状況の中、私は目の前にいる男に対して口を開いた。
「えーと、私は剣聖アリア。君たちはこれから魔法界に引き渡すことになっているから、そこのところよろしく」
「やっぱり……お前が絡んでいたか。この獣人族が現れた時点で俺は気が付くべきだったんだ。それなのに、急な戦闘に頭はパニックを起こしてこんなことにさえも、気が付くことが出来なかった」
後悔しているようだが、ナズナを見る限りそんなことはどうでもいいらしい。
ナズナを怒らせた原因は他にあるようで、それを調べるのも良かったが、そんなことをしてナズナの機嫌がもっと悪くなったら本末転倒である。
「その口ぶりだと、ダークウィッチーズが絡んだ案件に君の仲間は参加していたんだね」
「そうだ、気のいい奴だったよ。でもよ、あんなところに行かなければ今日もバカやって笑いあってたかもしれねぇのに」
あの時、確かにダークウィッチーズは大量のメンツを失っている。だが、彼らの中にこいつの仲間がいたとして助かるはずなんてなかったはずだ。
あそこまで暴れており、なおかつすでにあの場所にいることぐらいバレていただろう。魔法界があそこまで入念に計画をしている時点でなおさらだ。
「君が仲間を送り出した時、魔法界の動きには気が付いていたのか? お前ら犯罪者がそんな情報を仕入れていると私は睨んでいるんだけど」
「それは知らなかった、なんせ俺たち賞金首は国にも村にすらも入れねぇ存在だからな。毎日細々となんとか暮らしている状況だ」
彼らにとって魔物を倒すことは、生きるために必要なことなのだろう。それが、冒険者のような理由ではなく、真っ黒に染め上げられたような理由だということはすぐにわかった。
それにしては、倒れている連中を含め全員がそれなりな体格の良さがある。毎日自給自足をしている割にはまだ増しな生活だと言える。
「私、どうしても一つ聞きたいことがあったんだよね。冬の間ってさ、君たちってどうやって過ごすわけ?」
そんな質問をした私に対して、三人の視線が集中的に私を見ていることに気が付いた。
全員思っていることは同じであることぐらい、なんとなく想像はつく。それほどまでに私の質問は、この状況では的外れな質問だということも私は全部理解した上で聞いた。
「そんな質問をされたのは生まれて初めてだ、剣聖は面白いんだな」
男は笑みをこぼしながらそんな言葉を言った。
「冬は廃村に行って、ひたすら暖を取り続けるしかねぇよ。動くにしても、ただ歩き回っても体力の消耗が激しいからな」
「へぇー廃村なんだ。でもさ、魔物ってどうしてるわけ? あんなにも寒い中、毎日探すわけでしょ、ほんとご苦労なことをしているわね」
「ある程度は、冬に向けて準備をするけどな。それに、あの頃はまだ魔法使いがいたし、廃村の一部を組み直していたから寒くてもそこまで死人は出ねぇよ」
廃村に暮らしていたのは、ダークウィッチーズも同じである。確かにあの場所は基本的に立ち入る人なんて滅多におらず、彼らからしてみれば財宝みたいな存在だろう。
それでも今ここで話したのは、より多くの同じ立場を叩き落とし自分たちと同じところまで引きずり下そうとしているのが丸わかりである。
この男にとってこの時間は、最後の自由時間みたいなものであり、剣聖という存在を前にしてもそれなりに喋れているのは、そういう精神状態になっていた。
「ここまでペラペラ喋っても魔法界がほしそうな情報は特段あまり吐かなかったね、それだけ硬いんだったら、奴隷にもならず死刑囚としても裁かれない存在になりそうだね」
「そっちの方が地獄だけどな、まぁ時が来たら話すさ。ただしお前らには話さないけどな、ガハハッ!」
「君がそれを望むならそれでいいよ、別に私たちに情報ゲロるより、魔法界の連中にゲロってくれた方が簡単に済むからありがたいからさ」
そんな会話をしていると、超高速でこちらへ向かってきている気配が刻一刻と近づいているのが検知した。それは、男もまたわかっている様子であり、先ほどまで笑っていたのが嘘みたいに静かである。
「最後に剣聖様と話せて良かったよ、俺の人生はここまでだが別に構わねぇ、それと一つ言っておいてやる、剣聖様よ、ダークウィッチーズのあいつと楽しんでやれ、あいつはそんな奴だからよ」
「それぐらいわかっているわよ、またどこかで会えたら話しましょ」
そうしてイデリアたちは到着して早々、男たちの身柄を拘束した。こちらを見るなり、深々と頭を下げるだけで何も話そうとはしない。
そんな後ろ姿を見送り、すぐさま帰っていた。
最後に振り返った男は、とてつもないほどに笑顔であり、その顔を私は決して忘れたりしないだろう。
「あっという間に終わったね、まさかこんなことに巻き込まれるなんて思いもしてなかったよ」
そんな会話をしながら空を見るとすでに夕日に染まり始めていた。到着したと思った戦いは、あっという間に終わっていた。どうやら私の勘違いのようではあったが、そんなことはどうでも良い。
あんな風に賞金首たちが隠れているのを知ったが、今後男の発言によって多くの同胞たちの命は消えていくだろう。
それを男は、わかって発言していたことは見つかったからには、最後に何かしら置き土産を残したいという、思いが溢れ出てしまった。
「あの男がさ、あんな風に言ってたけど、ほんとうに賞金首の数は減りそうだよね」
「確かにな、あそこまで暴露ってなお、全然後悔なんてしてなかったからな」
そんな話をして、私たちは今日もまた野宿を開始するのであった。




