710話 手を出す
遅れてしまい申し訳ありませんでした。
……
木々に降りてから感じるこの気配。わたしは気配の感じを知っている。これは、犯罪者特有の感じでありとてつもないほどに感覚が研ぎ澄まされているもの。
今からわたしが偵察する気配の持ち主は確実に犯罪者だと確信出来るものだった。そんな場所に向かっているはずなのに、恐怖というものは全く感じなかった。
それどころか、少しばかり気分が高揚しているような感覚があり、犯罪者に出会うとは思えないほどである。
そんな時だった。
わたしは近くの木々まで来て、先ほどまでまるでダンスを披露しているかのように軽やかに動いていた足が止まる。
これ以上進めば、今のわたしですら気が付かれてしまうというか頭が止めに入ったのだろう。
(まだ、どんなやつなのかわからないけど、確かに気配は感じる。それも犯罪者特有の感じ)
(だったらもしかしたら、指名手配犯たちが共同で暮らしている可能性が大いにあるね、すでに場所は情報共有しているからイデリアたちも編成隊を組んで来ると思う)
だが、そんな時間を待っている暇なんてないだろう。この気配たちがいつ動き出すかさえわからない状況で、待機をするのはいささかギャンブルが過ぎる。
それに何より、彼らがどのようなやつであれ今のわたしたちが手こずる相手ではない。
(だったら、ここで待機をしろって言いたいわけ? それは出来ないよ、さすがに気が付かれると思うニャー、この気配は相当な手だれだし、多分いつ気が付かれてもおかしくない)
(そうだよね、でもここで何かアクションを起こしても、彼らを引っ捕らえることは出来ないし)
(殺すっていう手立てもあるのにそれをしないって、何かイデリアに言われているニャー?)
(ご名答だナズナ、アリアはイデリアからくれぐれも殺さないようにって言われてるんだ)
その理由はなぜかわからないが、それでもなんとなくは想像は付く。彼らが持っている情報源が今後の動きにかかわってくると感じた。
そんな時だ、一人の気配がこちらへ向かってきている。今ここで動いても、動かなくてもバレるような状況であり、わたしはより一層気配を消す。
一歩、また一歩とゆったりとした速度で歩いてくるのがわかる。それは単に体を動かしているのか、それとも警戒をしているのかどちらかわからない。
「おい、あまりうろちょろするんじゃねぇぞ。ここもバレたらもう俺たちには使えるアジトなんて残ってねぇんだぞ」
「さーせん、だけどそれも全部ダークウィッチーズの彼でしょ? 原因を作ったのは。大量の魔法使い、魔術師が魔法界によって撃退され、一気に数が減った」
「それでも俺たちは一緒に動いていた魔法使い、魔術師たちを送り出している。そんな状況の中、ここで何かしらの動きがあれば一瞬で勘付かれてしまうから、細心の注意を払ってるんだ」
わたしは思わずツッコミを入れたくなってしまった。あそこまで大きな煙を堂々と出しておきながら「細心の注意を払っている」と言われても説得力の欠片もない。
それどころか、やっている行為自体はだいぶアホと言われても遜色ないレベルだ。
「とにかくうろちょろするんじゃねぇぞ! これ以上ヘマしたらほんとうに俺たちは良くて奴隷落ち、悪かったら即死刑案件なんだからよ」
「大丈夫ですって、俺たち強いですから」
若い青年の方は、とてつもない自信家であり若者特有の無鉄砲さ加減があり、年長者から見れば危うい存在だと思っているだろう。
そんな彼を少しでも抑えようとしているのは、おそらく軍団のリーダーなのは間違いないだろう。メンバー思いと言えば聞こえはいいが、自分が助かりたいだけの人間である。
少しでも生存率を上げておきたい状況で、身勝手な行動をされるのは、心臓に悪い状況ではあった。それでも、若者の方は、そろそろストレスが溜まる頃合いなのは先ほどの行動を見ていればわかる。
(若者は不意にわたしを見つけるよりも先に、攻撃を仕掛けた方が良いと思うニャー)
(どういう状況なのかはわからないけど、まだ待ってよ)
(ごめんニャー、バレるから攻撃するね)
その直後、わたしはほんとうに攻撃を仕掛けた。若者は地面にめり込み、近くにいた男は驚きのあまり腰が抜けてしまっている。
「うろちょろされるのほんとうに迷惑だったんだよね、おとなしくここは年長者の言葉をきちんと聞くべきだったわね」
「お、お、お前……誰だ?」
近くにいた連中は、わたしを見るなり攻撃を瞬時に仕掛けてきた。武器を振るい、わたしを躊躇なく殺そうとしてくる感じはとてつもなくわたしにとってやりやすい。
「わたしが誰だって? そんなの名乗る義理なんてないでしょ。まぁ、君たちはどうせ犯罪者集団なんだから別にわたしの名前を知ったところでさ、正獣拳!」
男の一人が顔面に喰らい、そのまま地面に吹き飛んだ。果敢に攻めてくるがわたしには攻撃はどれも通用せず、ただ蹂躙されるだけだ。
「あとは君だけだね、大丈夫、彼らは全員気絶しているだけだから、それより君たちは一体何をしたら魔法界に追われる立場になるのか教えてくれないかな?」
「そんなこと、お前なんかに教えるわけがないだろ! ぐぎゃぁあっ!」
「悲鳴を上げるんじゃなくてさ、教えてよ」
だが、彼は何も答えようとはしなかった。ただ叫び出すだけで、ほんとうに何も喋ろうとはしない。そんな彼に嫌気を覚えたが、そこでカッとなって殺したりはしない。
わたしは、自らの意思で彼らに手を出したのだ。ここでわたしがこいつを殺してしまえば、全てが台無しになることを理解している。
「君って、拷問しても吐かなそうだね。ほんと厄介だけど、まぁそれぐらい口が堅くないと、こんな野蛮な連中を纏めるなんて無理な話だよね」
「お前……に、何がわかるって言うんだ! 俺たちはただ自分の信念に従って行動したまでだ、それをとやかく言われる筋合いなんてない」
こいつにどんな犯罪歴があるのかなんてわたしからしたら興味がない。ただ、一つだけわかることがある。こいつらは、どんな犯罪を犯したにせよ、反省なんて微塵もしていないということだ。




