49話 決着
そうして、夕暮れどき。多くの人たちが、そそくさと帰路に着く頃。私たちは、いつものようにギルドに集まっていた。
「今日は、師匠よろしく!」
「どこまで強くなったか、楽しみだ」
師匠の顔は、少し疲れた表情をしていた。あんまり寝てないのが、わかる。
それぐらいの顔の悪さをしている。それには、誰もが気がついていたが、誰もその話題には触れなかった。
「アリア、気をつけてね」
「大丈夫だから、イデリアもしっかり守ってね」
「あんなヘマはしないわ」
自信のある顔で言う。とても頼もしい限りだ。それに比べて、ギルマスはとても期限が悪そうだ。
号外の件以外にも、昼間にギルドの方でもトラブルがあったのだろう。
ところどころ、怪我をしている。
「フェクトは、今回一人で行動ね」
「何かあれば連絡する」
そう言って、みんなそれぞれ出発した。魔法界の警備もより強固なものになっている。
それだけ、昨日の失態は大きかったといえるであろう。至る所に、気配がする。
「アリア、今回の事件はどう思う?」
師匠は、とても暗そうな声で言うそれほどまで、この事件がショックだったのだろう。
先ほどから、ため息をついてばかりである。
「そうですね……やっぱりいけないと思います」
「そうか、そうだよな」
心がぐしゃぐしゃになっている。そんな感じだ。
そうして、王都を練り歩いているとフェクトのテレパシーが、頭に飛んでくる。
(見つけた! アイツら、時計塔だ)
昨日と同じ場所。その周りには、大勢の魔法使いが配置されていたはず、それを全員斬るとは考えにくい。
(フェクト、今どんな感じなのか教えてくれる?)
(魔法使いの前で突っ立てる。今にも攻撃されそうな感じだ)
(フェクトは、障壁張って守ってて)
師匠も、何かを察したのだろう。突然、時計塔の方に走り始めた。
それをすかさず追うが、師匠に声は届かない。一心不乱に走っている。
時計塔周辺では、爆発音、炎の柱なんかも見える。魔法使いたちが、相当暴れているのが容易にイメージできるほどだ。
「着いた!」
その声で、一部分の魔法使いたちが存在に気がついたのか、攻撃を止めた。
「みんな、下がっててくれる? いられても邪魔になるから」
すかさず、後方に下がっていく。それは、なんとも早く訓練されたような動きのようだった。
「フェクト、結界頼む」
瞬時に、私と師匠。犯人の四人を閉じ込めるドーム型の結界が生成された。
「ラグ、なんでなんだ?」
師匠は、なんとか絞りだしたかのような声で黒いフードの男に話しかける。
男は黙ったまま、フードを脱ぎ捨てた。見た目は、オレンジの頭の短髪で、細マッチョの男。
剣を携えており、だいぶ使い込まれたような剣であると、見受けられた。
「依頼を受け、殺っただけだ。俺は、闇ギルドに所属しているからな」
闇ギルド、簡単に言うと殺し屋だ。完全アウトのギルドであり、ギルド側からして見ると生きて捕縛してほしいと思う奴らだ。
「もしかしてそっちの子もそうなんだな」
「あぁ」
聞いてた所と違う点があるが、別に問題ない。
「アリア、あの子を頼む」
暗い声で、そう言った時には師匠は飛び出していた。師匠の一撃は、この四年でより重くなった。
私と過ごしている間、師匠はあの頃を遥に凌駕する力をてにいれた。
そんな師匠の攻撃を、ラグは数発も保たないだろう。
「君は、かかってこないのかい?」
戦意喪失している。今になって、自分の愚かさに気がついたのだろう。目の前にいる相手に、何をしても殺されると同意義な攻撃を想像してしまったのだろうか。
それでも、まだかろうじて目は死んでいない。
「来ないのなら私から行くよ」
軽く剣を振り下ろす。避けるだけで精一杯なのか、自然と体が遠くに後退するのを目にする。
自分でも何が起こったのかわからないのであろう。辺りをキョロキョロしている。
「少しは、深呼吸した方がいいよ」
そうアドバイスするが、全く耳に入っていないのがわかりやすいほどだ。
どんどん呼吸は荒くなる始末、彼が自分自身で落ち着くのは無理であろう。
「しかたない、痛いけど我慢してね」
彼が終えない速度で、一気に背後を取る。そのまま、薙ぎ払い吹き飛ばした。
すかさず、着地寸前の所で地面に叩きつけた。
「これで落ち着いたかな?」
まぁ、これで倒れても仕方ないかなと思っていると、まるでアンデッド見たく這い上がり立ち上がった。
「これが、闇ギルドでは普通なのか」
ボソッと呟く。
大抵、今の攻撃を喰らって立ち上がる方が少ないから、少し嬉しく思う。
鼻歌混じりで、向かってくる彼を叩き斬るかのイメージで、剣を振り下ろす。
(アリア、殺すな!)
突然、大きな声が頭に響き渡る。師匠の声である。とてつもなく冷たい声だ。
「まだ立ち上がるの? 君もタフなんだね、それかそんな風に訓練されてるの?」
彼は、黙ったままふらつく体で私に向かってくる。目も見えていないのだろう。
誰も居ない場所に剣を振り下ろしている。
見ていて、辛い光景だ。この子は、ちゃんと育てればもっと強くなれる。
それなのに、こんなことで消耗品のように働かせているのを見ると、とてつもなく腹が立つ。
その時だ、背後で大きな音を立て地面が衝撃を受けた。
「これで終わりだ、お前たちをギルドに連行する」
師匠は、泣いていた。大粒の涙を流し、うずくまるような形でその場に座り込んだ。
そうしていると、私と同い年であろう子供も、倒れたのであった。
「師匠、お疲れ様でした」
フェクトは、結界を解除し一気に、魔法界の連中が入ってくる。
「じゃあ、あとは任せた」
師匠とフェクトを連れ、ギルドに戻る。ギルマスは、師匠の光景に驚いてた。
ただその時は、何も聞かず仮眠室に案内されベッドに下ろし、私はイデリアを来るのを待つのだった。
 




