48話 話題ずらし
翌朝、宿で寝ていると扉を叩く音で目が覚めた。
まだ、寝足りないのか、すぐには起き上がることができなかった。
それを察したのだろう。隣の部屋で寝ていたフェクトが大きな声で怒鳴っているのが聞こえる。
「アリア起きろ! 師匠さんたちが来てるぞ!」
「ヘーイ、今開けるから」
眠たそうな声で、ノロノロとベッドから落ちる形で、ようやく歩き始め招き入れた。
「どうしたの、こんな朝早く?」
師匠が、すごい形相で新聞を突き出してくる。フェクトは、「俺は指示されただけだからな」と言いたげな表情で、こちらを見てくる。
どうやら助け舟は、出してくれないみたいだ。
「どうしたのじゃねぇよ! なんなんだこの見出しは!」
突き出してくる新聞には、こう書いてある。
『剣聖少女、雨の中相合傘デート!?』
しかも魔法写真付きである。とても凝られた新聞だと思っていると、説明しろと言わんばかりにみんな睨んでくる。
「ちょっと着替えるから、ギルドで待ってて」
なんとか追い返したものの、あの表情を見る限り何を言っても納得してもらえないだろうと察した。
「だから言ったんだ、無理だって」
フェクトは、呆れた顔で言ってくる。なんかむかついたので、顔面をぶん殴った。
「叩き起こされて、機嫌悪いのはわかるが向のドアを突き破る勢いで殴るな!」
「ごめん、フェクトも着替えてギルドに行くわよ」
そう言って私は、扉を閉めた。
眠たい顔を、水で洗ってなんとか目を覚させる。服を着替え、髪を簡単に整え、フェルトとともに宿を後にした。
外に出ると、私の顔を見るなりコソコソと噂話をしているのが耳に入る。
それだけインパクトのあることだったのだろう。そして事件のことは、話題にすら上がっていない。
なぜなら、魔法使い、魔術師六名が死亡したあの辻斬り騒動は、とても小さく書かれているだけだ。
そんな文章、誰も読まないのはわかりきっていたことなので、想像通りで少し笑ってしまった。
「あれ、どうやって説明するんだ?」
フェクトが疑問に思うのは、当然だ。アレは、元々想定していなかった事態だからだ。
まさかの犯人過ぎて、それどころじゃなかった。だが相合傘のおかげで、事件の話題性をずらせたのは結界オーライである。
「まぁ、簡単に説明するよ」
「絶対失敗しそう」
それは、予知した通りになった。案の定、説明してもダメでとてつもなく文句を言われる始末だ。
「あの失敗を隠すために、なんてことしてるの?」
「いやいや、大丈夫だって、イデリアも怒らないで」
自分のミスだと思い込んでいる、彼女からしたみたらこんな仕打ちはあんまりなのだろう。
なにしろ、昨日第五王子が言っていた信用問題をこんな風に、隠蔽しようとしたのだから、イデリアが怒るのも当然と言えば当然だ。
そんな時だ。昨日同様、ミニシアを引きつれた第五王子がギルドにやってきたのだ。
だが、反応は私が思っていたのとは違うことになっていた。
「流石は剣聖少女、あの見出しで話題を掻っ攫うなんて、お見事です」
「もしかして、全部読まれて見つけちゃったのですか?」
「えぇもちろん」
この人、やっぱり王族だ。その時、改めて思ったのだった。あんな長ったらしい物を、隅々まで読む人は全然いない。
それを、読んでるからこその反応だと理解した。
「どういうこと?」
イデリアは、すぐに話題に食いついてきた。
「やっぱり、わかりませんでしたか。小さなコラム欄乃枠を潰して、失敗したこともちゃんと書いていましたよ」
みんな、どういうこと? と言う顔でこちらに視線が集まる。
「今回、見出しとなる情報を入れ替えたのです。事件のことを大々的言おうとした新聞社に脅しました」
「そんな暗いニュースより、明るいこっちの方が話題として広まりますから」
フェクトが続け様に説明したおかげで、ようやく皆さんが落ち着いてくれて何よりだ。
発情期を迎えた、オーク並にとてもめんどくさかった。
「今日の夜警備についてお話したいんですけど、いいですか?」
「なんだ、またイデリア様を王都以外に着かせるのか」
「ギルマス、今回は師匠をこっちにするです」
ギルマスの顔が、相当怒っているのがわかる。食べたことはないが、昔お店に来ていた冒険者が話してくれたゆでだこにそっくりである。
「それは、俺も望んでいるんだ」
その言葉で、今にも飛びかかって来そうなギルマスの足が止まる。
「どういうことだ、説明しろ!」
「犯人たちは、今日もう一度現れます。それで決着がつきます」
「説明になってないだろ! ちゃんと言え!」
そんな時だ。タイミングよくギルド職員が部屋に飛び込んできた。
「ギルドマスター、これ見てください」
そう言って手渡したのは、新聞の号外記事である。その内容は、こうだ。
今日の見回りには、剣聖師匠コンビが来ると書いてある。
「してやられたな、ギルドマスター」
第五王子は、予見していたのかニヤリと笑っている。正直、この人が一番怖いと思った。
「これで、もう確定ですね」
私も、ギルマスに微笑みかけた。それと同時に、師匠にもアイコンタクトを送り、夜を待つこととなった。
そうして私はフェクトを連れて、ギルドを後にした。まだ朝ごはんを食べていなかった影響だろう。
会議の間、ことあるごとになっていた腹の音をどうにかするため、出店を練り歩いていく。
「何か食べた物ある?」
「それ俺に聞くのか、パン以外答えると思うか?」
まぁ、そりゃそうだと思い頷く。そうして、パンの出店を見つけて商品を見ている最中のことだ。
(今回のこと感謝する、体調は大丈夫なのか?)
(私がしたかっただけだよ、あぁ問題ない)
すぐに気配が消える。フェクトも気がついている様子だったが、あえて何も言ってこなかったのだろう。
そうして、剣が疼くのを抑えながら、夜を楽しみに待つことにしたのだった。




