47話 師匠と星空を見ながらエールを飲むって最高です
雨は、先ほどより激しい雨だ。これでは普通に喋った所で聞こえないことは明白だろう。
私は、テレパシーで彼にある事を伝えた。ここは大きな時計塔の広場だ。
離れた位置にいる、フェクト達には彼の声は聞こえていない。
彼は、何かを叫んでいる。剣を振りかざし向かってきているが動揺している。
そんな状態の彼を助けルカの如く、背中から白いフードの被った男の子が、現れる。
「助けに来ました、ここから逃げましょう」
賢明な判断だと言える。この状況では、その黒いフードの彼は負けてしまうからだ。
「それはマジックアイテムだったのか。いいフードだな」
「これは師匠がくれたんだ! あなたなんかには、渡さないぞ!」
威勢のいい声だ。足はガクブルに震えているというのに立派だと思ってしまうほどだ。
あー。これはなんともいいものを見られた。
奴は、逃げるように近くにあった屋根に、弟子と思われる子を抱き抱え彼は跳ぶ。
私も、追いかけるように跳ぶ。屋根は、より滑りやすくなっている。踏ん張らないと落ちそうな勢いだ。
「アリア!」
イデリアだ。周りを見るなり、彼を睨みつけているのか、こっちにまで鋭い視線が飛んでくる。
「まさか逃げる気じゃないわよね」
「……あたりまえだ」
技を放たず突っ込んでくる彼を、薙ぎ払いつつ勝機を探る。
それを邪魔するかのような形で、弟子も攻撃を仕掛けてくるが二人いっぺんにかかろうが関係ない。
「くそッ!」
攻撃が決まらないイライラからくる焦り。それでは、剣がブレるのが分かりきっている。
だがそれを完璧に補っている、弟子はなかなかの逸材だと思えるのが救いであろう。
その時だ、イデリアの声が微かに聞こえたのだ。
「リストリクションズ」
その一撃は、彼らにあたることはなかった。突然のことで、頭が真っ白だ。体が自由に動かせないし、喋ることも何もできない。
「アリア!」
フェクトがそう叫ぶ時には、体勢が悪かったのだろう。そのまま屋根から滑り落ちたのだ。
「光の矢」
その攻撃が、彼らに当たったかわからない。だが、その直後に逃げられたのは確かだった。
「今解除するから待ってろ!」
私はというと、フェクトに間一髪の所で助けられ、地面に激突せずに済んだ。
今は、膝枕されているのだろうか。いい感じの硬さがクセになりそうだ。
その後ろから、恐る恐るイデリアが近づいているのがわかる。
「アリア、ごめんなさいあんなことになるなんて」
イデリアも解除しようとするが、その時には体は少しずつ動けるようになっていた。
「イデリア……せいじゃないから……そんな顔をしないでよ」
まだ、口はうまく動かせず、詰まらせながら言う。イデリアは、やってしまったという罪悪感に押しつぶされそうになっているのがわかる。
「イデリア、コイツは大丈夫だ。心配すんな、すぐに良くなるから」
フェクトも声をかけているが、とても申し訳なさそうにしている。
今日は、朝から色々なことがあったが、ひとまず二、三日で決着がつくと思うと、一息つけた気がした。
「フェクト、アレは頼んだよ。私は、イデリアと先にギルドの方に行くよ」
「わかった、任せとけ」
そう言って、私はイデリアの背中をさすりながら歩いていく。イデリアの足は重く、とても一人では歩けるような状態ではない。
時折、足がふらついてしまっている。
それだけ、当ててしまったことがショックだったと言うことだろう。
「イデリア、私は大丈夫だから心配しないで」
「……」
無言である。その後も世間話をするが、私が一方的に喋って終わりだ。
そうしているうちに、ギルドに着いた。
三階には、ギルマスと師匠が立って話をしている所だ。
それに第五王子までいる。
「皆さんお揃いですか」
「話は聞いたぞ、大丈夫なのか?」
師匠は、少し心配した声で話かけてくる。
「大丈夫大丈夫、それより私犯人の目的も全て分かったんだよね」
そう言うと、重かった空気が一変する。
「剣聖様、それは本当ですか!」
「あぁ、本当よ。なぜ彼らがこのような行動に出たのかも全てね」
私は、嘘も交え彼らに情報を伝えた。一人を除いて。みんな、唖然としていたがどこか納得している様子でもある。
「物を取ったのにはそんな理由があったのか」
ギルマスは、ぶつぶつと呟いてる。今日殺された人たちを含め全員が、何かしらで恨みを買っていた人物だった。
それの証拠となる物を、犯人は盗んだのだ。
そして何より、捜査は混乱を極めさせることにも成功している。
「でも、今回逃したことは新聞になるのでは?」
第五王子からしてみれば、犯人の目的なんてどうでもいいのは理解している。
一番の懸念点である、今回の失敗である。
それを、あの悪徳新聞社に書かれる方が信用問題になりかねないと危惧しているのであろう。
「その点は大丈夫ですよ、フェクトが脅しに行きましたし何より、彼らにとって一番のエサを与えておきましたから」
全員、首を傾げていたが朝になれば、その理由もわかるので話を切り上げる。
「師匠! せっかく再開したんだし、屋上でエール片手に話しましょうよ」
「それはいい考えだな、行ってこい!」
ギルマスたちは、快く送り出してくれた。そして私は、買っておいたエールの瓶を取り出し屋上に向かう。雨はすっかり止んでいて、星空が見えるほどまで回復していた。
「師匠、星空綺麗ですね」
「あぁそうだな。それよりさっきの話は本当なのか」
流石は師匠だ。そこにすぐに食いついてきた。私は、師匠だけに本当のことを言ったのだ。
なぜ今回、犯人はこんな行動を起こしたのか。それはどんな目的を達成するためのことだったのか。
「先ほど、テレパシーで言った通りですよ」
「本当なんだな。それだったら、こっちも答えない訳にはいかないな」
その後は、近況報告を話しながらエールを飲んで夜を楽しんだ。
そして朝、あの新聞も世に放たれたのであった。
アリアは、単体としては強いが複数人で同じ相手をするのは苦手。
いつ攻撃に入ればいいかわからないし、引くタイミングがいまいち掴めない。
今回は、それを逆手に取った行動をした。
マジックアイテム、フードは転移の座標を固定できる。




