24話 黒茶の怪物
翌朝、目が覚めたのは外の騒がしさが原因だった。
「今日はお祭りか何かなのか?」
眠たい目を擦りつつ、窓の方を覗く。
「あれって、ミニシアさんとメイドさんのシューミンさんだよね」
令嬢とは思えないほどの、軽装で街中を走っている。金色の長い髪は、簡単にポニーテールで纏めて走りやすそうだ。
シューミンの方も、ピンクの長い髪をミニシア同様ポニーテールで結んである。
街の人々は、何か悪いものでも食べたのかと言わんばかりの顔で、彼女らを眺めていた。
「ここから、貴族の所までってだいぶ距離があると思うんだけどな」
箒で飛んだ際も、それは思ったことだ。
あれだけの距離を、しんどい顔をせずに走っている二人はまるで鏡を見ているかのように思えた。
「まだ寝足りないけど、私も運動してこようかな」
二人に感化させられたのか、体はすんなりと動き始めた。
この街に来てまだ一日しか経っていない。
観光がてら、見て回るのもいいことだろうと思う。
部屋で軽くストレッチして、宿を出たのだ。
街の人たちは、よくないものでも起きるんじゃないかと、ひそひそと話している声があちこちから聞こえてくる。
私は、そんなことに耳を傾けつつも私には関係のないことと割り切って、楽しく走っていく。
「おい、なんだあれ? めっちゃ早くないか」
「だよな、さっきのミニシア様とスピードが大違いの速さだ」
そんな声も聞こえてくるが、私は自分のペースで走っているだけなのである。
それをとやかく言われる筋合いはないのだ。
走り始めて、十五分ほど経った頃だろうか。見覚えのある二人の後ろ姿が見えてきたのだ。
ミニシアとシューミンである。
「ミニシアさん、シューミンさんおはようございます!」
二人が振り向いたと思ったら、とても驚いている顔をしているのだ。
咄嗟に、何か付いているのと顔のあちこちを触る。
触った感じ、何も付いていないはずだ。
「お、おはようございます剣聖少女様」
「剣聖少女様おはようございます」
二人は、足を止めることがなく挨拶してくれた。ただ、まだ驚きを隠せない様子である。
「え、何か顔に付いてますか?」
「いえいえ、そんなペースでここを走っても大丈夫なのですか?」
そんなペース? 正直何を言っているのかわからなかった。ただの激坂を、二人の何倍のペースの速さで走り、追いついているだけである。
「特に大丈夫だよ! 心配してくれたのですか、お心遣い感謝します」
「大丈夫でしたら問題ないのですが、剣聖少女様はやはりすごい方ですね」
「お二人もすごいですよ、だいぶ距離を走っておられるのにそこまでキツそうな顔されてないですよ」
二人とも、ミーテルみたく真っ赤になっている。
「ありがとうございます、私はもともと走るのが好きだったので、自然に体力はついてきました」
私は、そこで二人にある提案してみることにしたのだ。
「午後から、昨日初めて会った場所で会いませんか? 剣の素振り稽古を教えますよ」
二人の顔は、とても喜んでいるように見えた。そして長い激坂を登りきった先には、とてもいい景色がお出迎えしてくれるのであった。
その後、二人を送り届けたのであった。
「では、また後ほどお伺いいたします」
二人に挨拶して、居なくなったことを確認して、突風が瞬間的に吹いたかのような勢いで、一気に宿の前まで戻るのであった。
その日、午前中からいろいろなことがありすぎて、号外を出していたのはいうまでもないのであった。
そうして、遅めの朝ごはんを頬張りながら読書していると、ドアの叩く音が聞こえ、本を閉じたのだ。
「どなたでしょうか?」
集中しすぎていて、全く気配に気が付かなかったのは悪い癖だ。
「ギルド職員のものです、剣聖様にお伝えしたいことと、緊急な案件がございまして」
ドアを開けると、汗を垂らしながら受付嬢のだと思われる職員が息を切らし立っていた。
「どうしたのでしょうか? 国の近くに魔物が出たとかでしょうか?」
「はいその通りです! 今討伐隊を編制しておりますが、思ったようには数が集まらず……お力をお貸ししていただけませんか?」
「うんいいよ」
私は二つ返事で了承した。
魔物は、オークであり今回夏の暑さにやられたのか、凶暴化していることらしいのだ。
まだ時間は、十一時頃である。
(申し訳ありませんが、ちょっとオーガの討伐に行って参りますので、少しばかり遅れるかもしれません)
(こちらはいつでも構いませんので、どうか怪我だけはなさらないように)
ミニシアには、少し心配させてしまったが問題ない。
「場所は、南門の方で今は国軍も対応に当たっています」
「あとは任せておいて!」
私は自信たっぷりに言う。南門というと昨日、通ってきた門のことだ。
あの人も心配だけど、とりあえず魔物気配が多い。
これは楽しめそうである。
「危ないから少し離れてて!」
両足に魔力を多めに流し込む。
「跳躍」
一気に門の上を超え、討伐隊及び国軍の頭上も飛び越えオーガの元に落下していく。
大きな地響きを上げ、砂埃を舞い散らせ、オーガの多くは頭上に飛び上がり落下死していく。
「さぁ、始めようか? どっからでもかかってこい」
オーガは、先ほどの攻撃で指揮なんて取れる様子はない。怯えきっているやつもいれば、立ち向かうものもいた。
「魔物だったら殺す勢いで来い! ビビっているやつなんていらねぇんだよ」
それから行われたのは、蹂躙という言葉が相応しいものだった。
集まった冒険者も国軍も、目の前の光景に絶句したのである。
「討伐報酬はいただくけど、解体したりして出たお肉なんかは、そっちに譲るよ」
「あ、あ、あ、ありがとうございます」
おそらく国軍の指揮官であろう。一人だけ、装備が豪華である。
そしてその後は、冒険者と国軍は半々を折半して分けたと新聞には書いてあった。
その時の新聞の見出しには、こう書いてあった。
『黒茶の怪物現る! それが剣聖少女である』




