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人生には思いもつかないことが起こる 前編

 俺の名前はルフィ。

 しがない魔法使いの一人だ。

 冒険者の中でも、魔法使いの数は恐ろしく少ない。さらに回復魔法の使い手ともなるとその数は減る一方。

 けれど回復魔法が使えれば、傷薬を使わなくても済むし、少々時間はかかってしまうが、安全、確実に敵をしとめることができる。少しは攻撃魔法も使えるから、サポートだってできる。パーティにひとりはほしいメンバーだ。

 一人前の魔法使いとして、俺はそこそこの自信を持っていた。つい先日までな。

 そんな俺の自信を打ち砕いたのは、とあるできごとがきっかけだった。

 ところで、回復魔法を使える俺はよくパーティを組まないかと誘われることが多い。

 だけどパーティを組んでみて、メンバーと相性が悪いと思ったら、我慢せずに抜けることにしている。だって、回復魔法の使い手だからすぐに次のお誘いが来るんだ。我慢してぎすぎすしながら戦うなんて、そんな面倒はごめんだ。

 俺は自分で言うのもなんだが、結構わがままな性格をしていると思う。

 元々俺はものづくりに興味があって、本当は冒険者じゃなくて細工師になりたかったんだ。

 だけど、細工師になるには金が要る。師匠について学ぶにも、素材を買うにも金がかかる。

 幸いにも俺には魔法の才能があったから、冒険者として金を稼ぐことにした。

 いずれ自分で作った細工を売って生計を立てようと思って、稼いだ金は最低限必要な分だけを使って、残りはきっちりギルドに貯金している。

 だから冒険者家業については、リスクを取ってまでがんばろうという気持ちはなかった。まあ、そんな態度だから、パーティに参加しても大して長続きしない。そりゃそうだよな。みんな命をかけて戦っているんだから。

 そんなわけで、俺はあまり固定メンバーでパーティを組まず、ギルドで誘われたパーティに参加することが多かった。

 難易度の高い魔物を討伐する場合は、さすがに初めての相手に命を預ける気にはなれない。

 たいていの場合は一度試しにパーティを組んでみて、お互いの実力がある程度わかったところでクエストを受けるんだけど、そのときは前のパーティと喧嘩別れしたばっかりで、ちょっとむしゃくしゃしていた。

 いくらその場かぎりのパーティとはいえ、やる気がないならやめろと言われたら、気分がいいはずがない。

 そんなところに双剣士と弓使いの二人に誘われて、考えもなしに誘いに乗ってしまった。

 大猪(ワイルド・ボア)の討伐クエストを受注して、いざ一緒に戦ってみると、こいつらはヤバイって気付いた。

 二人とも大猪(ワイルド・ボア)を倒すには経験が足りなさ過ぎたんだ。

 いつもより多めに回復魔法をかけないと間に合わないんだぜ。

 別に回復魔法をかけられるだけの魔力があれば、何とかなると思うだろ? ところがそうはうまくいかないんだ。

 回復魔法をあまり多用すると、敵の目標になりやすいっていう弊害がある。いわゆる敵視(ヘイト)ってやつを集めてしまうんだ。

 考えてもみろよ。魔物の側からしてみれば、せっかく体力を削って、やっと倒せると思ったのに、ちょろちょろ回復してくる奴がいると、いらいらするだろう?

 だから回復役(ヒーラー)は狙われやすい。

 盾持ち(タンク)でもいれば何とかなったんだろうけど、攻撃役(アタッカー)の双剣士と弓使いだから、攻撃を防ぐには不向きだ。とにかく早く敵を倒すしかない。

 それなのに、あいつらときたらたいした攻撃力もなくて、しょっちゅう回復しないと俺までやられてしまう。どれだけ回復魔法を発動してもきりがなかった。

 魔法をかけつつ、魔物の攻撃を避ける。かなりぎりぎりだったけど、何とか大猪(ワイルド・ボア)を倒せたはずなんだ。

 倒したのを確認する前に、魔力切れでぶっ倒れたから、わかんないけどな!

 寒気を感じて意識を取り戻すと、俺は森の中で仰向けに倒れていた。

 あたりは真っ暗で、ほとんど周囲は見えない。そして人の気配がしない。

 くっそ、あいつら逃げやがったな!

 うかつな自分をののしりつつ、暗闇に目を凝らして周囲を見回す。

 間抜けなことに、背負っていたはずの荷物もないし、腰につけていた物入れもない。極めつけは首に掛けていたはずのギルドカードがなかったことだ。

 最悪だ!

 盗まれたのか? いや、まだわからない。

 冒険者の端くれなら、死んだ者の遺品をギルドに届けるくらいのことはするはずだ。もしかしたら、あいつらも想定外ではぐれてしまっただけかもしれない。

 ロッドが残っていたことだけがせめてもの救いだった。

 ぼろぼろの身体に回復魔法をかけ、ロッドを杖代わりにして立ち上がる。

 腹がすいてフラフラで、喉も渇いていた。

 食料はすべて背中の荷物の中だった。

 かなりマズい状況だ。だけど死ぬほどじゃない。

 俺は軽く絶望に襲われつつも、決意した。

 とにかく街に戻ろう。こんな場所でじっとしていても、助かる見込みはない。

 パーティメンバーが俺を見捨てたのかもわからない。それは街に戻ってみなければわからないことだ。

 俺は空を見上げ、星の明かりを頼りに歩き始めた。

 冒険者ならば、最低限星から方角を読むことくらいはできる。

 足元がよく見えなくて、しょっちゅう何かに躓いて転ぶ。

 時々魔物に遭遇することもあったけど、大猪(ワイルド・ボア)ほど強いものはいなかった。

 威力の弱い攻撃魔法を使って倒すよりも、回復魔法を使うために魔力は節約しておきたい。だから遭遇するたびに俺はとにかく逃げた。

 魔力が回復したら、回復魔法を自分にかけて怪我を治す。そんなことを続けながら、すきっ腹をかかえて、何時間も歩いたときだった。

 すごくいいにおいが鼻をかすめた気がした。

 食べ物のにおいだ。

 鼻を頼りにそのにおいのする方向へ進む。

 焚き火の明かりが見えて、助かったって思った。

 すげえいい匂いがして、夢中で近づく。

 たき火を囲む大男と、平均的な男と、そして子供の姿が見えた。どうやらキャンプ中の冒険者らしかった。

「はら、へったぁ」

 そうして突然乱入した俺を、きょとんとした表情で出迎えてくれたのがルチアだった。

 とにかく腹が減っていて、食べ物を無心したら大男が無言でスープの入った器を手渡してくれる。

 大男の見た目はちょっと怖いオッサンだったけど、優しい目をしていた。

 だけどその時の俺はとにかく飢えた腹を満たすのに夢中で、てんで周りが見えてなかったんだ。

 夢中で器を空にしたところで、ようやく周囲を観察できる余裕ができた。

 でっかい目を落っことしそうなほど大きく開いて、俺を見ている女の子がいた。

 とても珍しい左右で色の違う瞳を持った少女は、とても美しく整った顔立ちをしている。大きくなったらさぞや美人になるだろうということを予感させる。

 エメラルドとアメジストの瞳に見つめられて、俺の心臓はドクリと大きな鼓動を刻んだ。

 俺の陥った惨状について話しているうちに、女の子がルチア、大男のオッサンがクラウディオ、ちょっとすかした貴族風の男がヴィートだってことがわかった。

 てっきりどこかのお嬢様が護衛を連れて旅をしているのかと思ったけど、話しているうちにルチアも冒険者なんだって気づいて、すごく驚いた。

 まあ何だかんあだあって、いっしょにコルシニへ行けることになった。

 そこで俺はまたびっくりすることになる。

 俺たちがすんげえ苦労して倒した大猪(ワイルド・ボア)を、こいつらはあっさりと倒しちまったんだ。

 ヴィートもクラウディオも強いのは間違いない。だけど、それ以上に驚いたのはルチアの魔法だった。

 これほどの威力を持つ魔法を使える魔法使いを、俺はこれまで見たことがない。

 アイスランスなんて初級魔法のはずなのに中級くらいの威力があるんじゃないだろうか? しかもそれをバンバン使って、あっという間に魔物を倒すのには唖然とした。

 悔しい……。

 腹の底がじくりと痛むような悔しさがこみ上げた。

 俺だってもっと魔力があれば、適性があれば、攻撃魔法をもっと使えるはずなのに。

 俺の魔力さえ切れてなければ、手伝うこともできたんだろうけど、別に俺が手伝わなくてもこいつらは危なげなく魔物を倒していく。

 だけどこいつら非常識なことに、倒した魔物から素材採取をせずに放置して先に進もうとするんだから、もったいなさすぎる。

 大猪(ワイルド・ボア)なんて、素材の宝庫だろ?

 俺は思わず魔物を解体することを申し出ていた。

 解体して採取できた毛皮や肉をルチアに手渡すと、換金したら分けてくれると言う。

 はあ? 何言ってんだ。これくらい命を助けてもらった礼には足りないくらいなのに、分けてくれるっていうのか?

 つくづく非常識な奴だ。

 それに、保存魔法のかかった高価な魔道具まで持っているし、本当にこいつらは何者なんだ?

 その日一日で、俺の価値観が次々と崩壊していく。

 それでもどうにかコルシニについたときは、本当にほっとした。


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