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日常へ

 ギルドが用意してくれた馬車でコルシニの街に戻った私たちは、馬車から降りて真っ先に宿へ向かった。

 ヴィートがまた負ぶってやると申し出てくれたけれど、ありがたく辞退した。

 人目が多い場所でそれをしてもらう勇気は私にはない。

 かなり夜も遅い時間であるにも関わらず、街はにぎわっていた。


「大発生が治まったらしいぞ」

「ほんとか?」


 そんなざわめきが途切れがちに聞こえてくる。

 この街は迷宮に近いこともあって、すぐに情報が入ってくるのだろう。ギルドの職員たちが後始末に奔走しているから、街も浮き足立って見える。

 行きかう人々の間を縫うようにして歩き、森人(しんじん)が経営する銀の泉亭に到着する。

 そこには、宿の主人、フェルナンドが待っていた。


「皆様、怪我もなく無事に戻られて、よかったです。お疲れでしょう、どうぞお部屋でゆっくりとお休みください」

「すまん」


 その頃にはみんなもだいぶ疲れていて、口数も少なくなっていた。

 無言のまま重い足を引きずって三階の客室まで階段を上る。

 ああ、もう少しなのにベッドが遠い。

 どうにか階段を上り終えて、泊まっている部屋の扉を開ける。

 もうベッドしか見えなかった。

 ベッドに飛び込んで、三秒で寝た。たぶん。




「ルチア」

「起きろ、朝だぞ」


 みんなの声に少しだけ意識が覚醒する。ベッドに飛び込んだときの、うつぶせの姿勢のままで眠ってしまったらしい。頬に柔らかな枕の当たる感触がしていた。


「ううん……」


 とにかく、眠いんだよ。

 ゆさゆさと誰かに身体を揺り動かされて、しかたなく身体を仰向けにする。


「おはよう。おなかが、すいた、だろう? 朝食を、食いに、いこう」


 機嫌のよさそうな声に目を開けると、クラウディオがさわやかに笑っていた。

 ぐうぅと、私が返事をするよりも先におなかが鳴って返事をする。

 大きなおなかの音に、ルフィが笑った。


「とびっきりおいしい果物が食べられる店にしようぜ」

「うう……」


 いくら何でもおなかの音で返事は恥ずかしすぎる。


「その様子なら、大丈夫、そうだ」


 クラウディオが私の頭をがしがしと撫で部屋を出て行く。


「下で待ってるから、さっさと着替えて来い。俺だってはらが減ってるんだからな」


 ルフィには頭をつつかれた。

 私は慌ててベッドから飛び降り、超特急で身支度をした。

 魔力切れの症状は完全に治まっていて、いつもより身体が軽いくらいだ。

 一階にいたみんなと合流し、フェルナンドさんに見送られて宿を出る。


「今日の予定は?」

「とりあえず、ギルドで魔石と素材の代金を受け取ろう」

「クエスト報酬も受け取らないとな」


 ヴィートとルフィが先頭を切って歩く。その後ろに私とクラウディオが続いた。

 街はまだざわついていて、大発生の余韻が残っている。


「あと、忘れずに杖も買っておきたいなぁ」


 ギルドマスターさんがきっといいお店を紹介してくれるはずだ。


「魔石と報酬を合わせたら、結構な金額になるはずだ。ケチらずに品質のいい杖を買ったほうがいいぞ」

「なるほど。壊れたら元も子もないもんね」


 同じ魔法使いとして、先輩に当たるルフィの忠告には素直にうなずいておく。

 地長竜(ファフニール)を倒すためとはいえ、上級魔法を使ったせいでワンドが壊れてしまったのはけっこうな痛手だった。

 今度は上級魔法を使っても壊れないような頑丈な杖が見つかるといいのだけれど。


「あ、ここにしようぜ」


 ルフィがカフェのようなお店の前で足を止めた。

 とにかくおなかがすいていたので、食べられれば何でもよかった。

 中に入ると二人がけの席が四つほどしかないこぢんまりとしたお店だった。すこし古びてはいるが、落ち着いた雰囲気が感じられる。


「朝飯三人前と果物盛り合わせ一つ」


 ルフィが店主に注文を告げて、さっさと椅子に腰を下ろす。

 私たちのほかにお客の姿は見当たらなかった。

 白いひげを蓄えた店主のおじさんが、なれた手つきであっという間に朝食の載ったプレートを運んでくる。

 茹でたジャガイモっぽいもの、卵料理に、燻製肉など朝から結構なボリュームがある。

 私の前には、緊急クエストの前に食べたジュースに引けをとらないほどたくさんのフルーツが盛られた器がドドンと置かれた。


「おいしそう!」


 私は早速フォークを手に、ひたすら果物を口に運んだ。

 リンゴのような見た目のメーラを食べながら、目の前のルフィの姿をなんとなく眺めてみる。

 かなりおなかがすいていたみたいで、すごい勢いでプレートの上に盛り付けられた料理をかきこんでいる。


「もっと行儀よく食べろ」


 結構な勢いで料理を口に運んでいるヴィートが、見かねてルフィに注意した。急いでいても、優雅さを失わないのはすごいと思う。


「俺は貴族じゃないから、行儀よくしなくても問題はねえ」


 不機嫌そうに言い放つルフィに、珍しくクラウディオが口を挟んだ。


「礼儀の、問題だ。一緒に、食事する、相手を、不快に、させない。それが、大事、だと、俺は、思う」


 クラウディオの言葉に私の心臓がはねた。

 テーブルマナーとか習ったことないんだけど、大丈夫だよね? なんとなく前世の知識はあるものの、場所が変わればマナーも変わる。ましてやドラゴンのマナーなんて、習ったこともない。

 ルフィの言うとおり、貴族と一緒に食事をする機会なんてないだろうから、そこまで心配しなくてもいいとは思うんだけど、やっぱりちょっと不安になる。


「私の食べ方って、汚い?」

「いや、ルチアは大丈夫だ」


 すぐにヴィートが否定してくれたのでほっとする。

 が、次のヴィートの言葉で私の自信はベシャリと地面にたたきつけられた。


「少し学べばすぐに洗練されるだろう」


 うん。ぎりぎり合格レベルってことですね。ハイ。


「気をつければいいんだろ?」

「そういうことだ」


 ルフィはかなりふてくされていたけど、最終的にはヴィートの忠告を受け入れたようだった。食事の音が小さくなる。

 おなかがはちきれてしまいそうなほど、たっぷりと果物を食べた。

 ちょっと食べ過ぎたかもしれない。ベッドに戻ってゴロゴロしていたいよ~。


「さっさと用事を済ませてしまおう。休むのはそれからだ」

「はーい」


 ヴィートに促されて、私たちはようやく本日の予定をこなすべくギルドに向かった。


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