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迷宮:?層

「なにこれ~?」

「なんなんだよ」

 三層の途中でわき道に入って、行き止まりの小部屋にたどりついたはずだったのに。

 魔物がいないことを確認して本筋に戻ろうとした次の瞬間、あたりが真っ暗になった。ふわりと身体が浮き上がるような感覚がしたけれど、足は地に着いている。

 もしかして、明かりの魔石が壊れたのかな?

 私はそれくらいにしか考えていなかった。

 もともとドラゴンである私は、わずかでも光があれば、ほとんど見えるのだけれど、今は本当に一筋の光もなく、周囲は真の暗闇に包まれていた。

「大丈夫か?」

「みんな、無事か?」

 私たちは声を出しあい、互いの無事を確認する。

「うん。なんともないよ~」

「大丈夫みたいだ」

「明かりがなくては何もできない。ルチア、頼めるか?」

 ヴィートの落ち着いた声に、ちょっとだけパニックになりかけていた私は、すべきことを指示されて少し落ち着いた。

「うん」

 深緋(こきひ)、ライト!

 火の精霊にお願いして小さな明かりを灯す。本当は目くらましに使う魔法の応用だ。

 柔らかな魔法の明かりが私たちを照らしだし、誰も怪我することなく、全員そろっているのを確認して、ほっとする。

 ライトの魔法は私たちの周囲をわずかに明るくするくらいで、焚き火ほどの明るさしかない。けれどドラゴンの目で見てみれば、ここがかなり大きな空間であることがわかった。

 とりあえず差し迫った危機的状況ではないけれど、どうしたものだろうか。

「ルフィ、この魔石を、明かりを、灯すように、細工、できるか?」

 薄明かりの中で、クラウディオが手持ちの魔石をルフィに差し出した。

「ああ、任せてくれ。すぐできる」

 ルフィは荷物から工具を取り出し、受け取った魔石をいじり始めた。

 ライトの魔法はそれほど長くは維持できないけれど、手持ちの魔石に細工して明かりを灯すくらいの時間は持たせることができる。

「もうちょっとだけ、待ってくれよ。あと少し……」

 私は作業をしやすいよう、ライトをルフィに近づけた。

 ルフィは宣言どおりに一分ほどで魔石の加工を終え、魔石に明かりを灯した。

 急にあたりが明るくなって、私は何度か目を瞬かせる。

 明るい光を放つ魔石は、私たちのいる場所を鮮明に照らし出した。

 ぽっかりと空いた大きな空間は直線的に切り出されていて、人の手が入っているように見える。けれど、明かりの魔石が設置されていない状況からすると、ここに足を踏み入れたものはまだいないらしい。

 明かりの魔石に浮かび上がった出口の先にも明かりはなく、整備されているとは言えない。

「ねえ、ここってどこだと思う?」

「コルシの洞窟のどこかだろうが……、わからないな」

「まだ、知られていない、転送陣(テレポーター)が、あったのかも」

 一番ここに詳しいはずのヴィートとクラウディオが知らないのなら、私やルフィがわかるはずがない。

転送陣(テレポーター)があったんだとしたら、戻れるんじゃないの?」

 私の問いかけに、クラウディオとヴィートは首を横に振った。

「いや、俺が知る転送陣(テレポーター)は、一方通行だけだ」

「このままここにいても、もう一度転送される可能性は低いと思う」

「じゃあ行くしかない、よな?」

 不安そうな表情をしているルフィと顔を見合わせて、私たちはうなずいた。

 このままここにいても、消耗するだけだ。誰も足を踏み入れたことがないのならば、助けも期待できない。

「それにしても、ここに魔物がいなくてよかったな」

 ルフィが手にした明かりを大きくめぐらせて、周囲を確認している。

 確かにルフィの言うとおりだ。

 無防備な状態で魔物に襲われたら、ひとたまりもなかっただろう。

 私は自分たちの幸運に感謝すべきなのか、こんな場所に転送されてしまった不運を嘆くべきか、複雑な気持ちになる。

 唯一の出口から通路に出ると、早速魔物が現れた。

 これまで見たどの粘性体(スライミー)よりも大きく、クラウディオの身長を超えるほどの大きさがある。頭なのかわからないが一番上の五センチほどの部分は茶色で、身体全体はカスタードのような薄い黄色をしている。

 ぷよぷよと身体を揺らめかせる姿はどう見てもプリンにしか見えない。

 私は前世の記憶によく似た姿を思い出したときから、その魔物がプリンにしか見えなくなっていた。

「いけない……」

 ヴィートは呟くように声を漏らすと、剣を抜き放ち、魔物に向かって駆け出した。ヴィートがプリンみたいな粘性体(スライミー)――もう、プリンでいいや。プリンに切りかかり、続いてクラウディオが流れるように戦斧をその横っ面に叩き込む。

 けれど、プリンはぷるんぷるんと衝撃を吸収してしまい、ほとんどダメージを受けていない。

 私はあわててワンドを構えなおして、魔法を発動させた。

 深緋(こきひ)、フレイムウォール!

 これまでに出現した粘性体(スライミー)であれば、フレイムウォールの一撃で黒こげになっていたのに、このプリンはなかなかしぶとい。

 表面がかすかに焦げて焼きプリンになったくらいだ。

 呆然としていた私を目掛けて、プリンが飛来する。

 すぐさまヴィートが盾を手に間に割って入り、攻撃を防いだ。

「ぼうっとするな!」

 プリンの巨体を盾で弾き返したヴィートは、少し苦しそうな表情をしている。

「ごめん!」

 戦闘中にぼんやりしていれば、命に関わる。

 ルフィはみんなが苦戦している状況を見て取って、身体強化の魔法を重ねがけした。

 身体がさらに軽くなったように感じられる。

 私は気を取り直して、もう一度魔法を発動させる。

 炎がダメなら氷でいってみよう。

 青藍(せいらん)、アイスランス!

 私が魔法を発動させると、地面から沸きあがった氷の槍がプリンを貫いてその身体を真っ二つに引き裂いた。

 今度こそ動きを止めたプリンに、みんなから同時に安堵の息が漏れた。

「ちょっと、やばかったな」

「ヴィート、回復魔法をかけておこうか?」

「ああ。すまないが、頼む」

 ルフィの問いかけに少し青い顔をしたヴィートが素直にうなずいた。

 ルフィが魔法を放つと、温かな風がヴィートを包む。

 これってヒールウィンドかな?

 翡翠には……頼めないから、私が使うとしたらヒールウォーターだね。いつでも回復ができるように、心の準備だけはしておこう。

 そんなことを考えつつ、ルフィとヴィートを見守っていると、プリンの死骸から魔石を回収していたクラウディオが合流する。

「おそらく、俺たちが、いるのは、下層だ……」

「ああ、この粘性体(スライミー)は下層に出現する魔物だ」

「ええっ?」

「マジかよ……」

 私たちの目的は上層と中層の間にある五層にある転送陣(テレポーター)だったはずなのに、いつの間にか下層に来てしまったってこと?

「ねえ、ルフィ」

「何だ?」

「その魔石って、どれくらいの間もちそう?」

 私はルフィが手にしている、明かりの魔石を指した。

「かなり上質の魔石だから、数日は大丈夫……だと思う」

 ということは、しばらくは明かりがなくなる心配はないってこと。まあ、それまでに明かりがついているような場所を見つけられるのが理想だけど。

「やっぱりここって、下層なのか?」

 ルフィの問いかけにヴィートが重々しくうなずく。

「たぶん……。だが、ここに人が入ったことがないとすると、それも怪しい。コルシの洞窟は迷宮の中では比較的人の手が入っている場所なのだ。これまで見つかっていない場所があったこと自体が驚きだ」

 うわ~。ってことは、最悪の場合、ここが下層よりもさらに下の層かもしれなくて、どこへ行けば地上に戻れるかもわからないってこと?

「とりあえず、上を、目指す。なんとしてでも、転送陣(テレポーター)を、見つけて、地上に、戻る」

 こんな状況でも、クラウディオは落ち着いているようにみえる。

「そうだ、ここでじっとしていてもしかたがない。進もう」

「そうだな」

 ヴィートとルフィも同意した。

 私は手を差し出して円陣を組む。

「なにが何でも、戻ろう!」

「オー!」

 再び気合を入れなおして、私たちは暗闇に包まれた通路を慎重に進み始めた。


「ギャー、来たよっ!」

 高い音がして、私の耳がツンと痛くなる。これは結晶体(クリスタ)が近くにいるっぽい。

 これまでよりもかなり大きな音に、私は耳を押さえたが、ほとんど効果はない。

 みんな一斉に武器を構え、魔物の出現に備える。

「ルチア、大丈夫か?」

「耳がいたーい。大丈夫じゃなーい」

 せっかくルフィが心配してくれたのだけれど、私はそれどころじゃない。

 ここまで不快な音だと、戦意も喪失してしまう。

「ちょっと、まってろよ」

 ルフィがロッドを構えて、なにやら魔法を発動させた。

 え、え? なに?

 ふわりと包まれるような感覚がして、石をこすり合わせるようなきりきりとした音が遠ざかった。

「守りの風を使ってみた。俺、少しなら風魔法使えるから」

 私を取り巻くやさしい風が、不快な音を遠ざけてくれているらしい。

「ルフィ、ありがと!」

 おかげで音に気をとられることなく、戦えそう。

 現れたのはこれまでとは比べ物にならないほど大きな結晶体(クリスタ)だった。

 赤っぽい光を放つ結晶体(クリスタ)は、石礫ではなく、硬く尖った刃のような結晶を放った。

 ヴィートが防ぎきれなかった結晶はヒュンヒュンと音を立てて、私の耳のすぐ横を通り過ぎていく。

「あぶなっ!」

「大きいぞ、気をつけろ!」

 クラウディオも戦斧で飛んでくる結晶を相殺するのが精一杯で、結晶体(クリスタ)に近づけない。

 青藍(せいらん)、ウォーターカッター!

 放たれた水流が結晶体(クリスタ)の中心部を打ち抜く。

 次の瞬間、結晶体(クリスタ)は動きを止め、地面に落下しかける。赤い光も消えた。

 やった?

 けれど結晶体(クリスタ)はすぐに何事もなかったかのように、再び宙に浮いて光を放ち始める。

 先ほどよりもさらに大きな結晶が飛来する。

 下層の魔物ともなると、そう簡単には倒させてもらえないらしい。

 私はひどく好戦的な気分で、ぺろりと乾いた唇をひと舐めした。

 だったら、倒れるまでやればいいんでしょ!

 青藍(せいらん)、ウォーターカッター、ウォーターカッター、ウォーターカッター!

 続けざまに放った水の刃が、バシュリと音を立てて結晶体(クリスタ)の中心部を粉砕した。今度こそ、結晶体(クリスタ)はその活動をとめる。

 私の口からは思わずため息がこぼれた。

「さすがに下層の敵は強いな」

 ヴィートは身体に浴びてしまった砕け散った結晶体(クリスタ)の破片を、パンパンとはたいて払い落とした。

 防具に守られていたおかげで、ヴィートに怪我はない。けれど、防御力よりも機動性を優先して、軽装備だったクラウディオは身体に無数の切り傷を負っていた。

 すぐにルフィがヒールウィンドを発動させて傷を癒す。傷薬でも治療は可能だが、どうしても時間がかかってしまう。

 今は魔力の消費よりも、傷で動けなくなるほうが怖かった。

「クラウディオ、無理しないでね」

「大丈夫だ。心配ない」

 そうは言うけれど、こんな戦いが続くのであれば、先行きは暗い。けれどあまり悩んでも仕方がないので、私はそれ以上先のことを考えることを放棄した。

 誰も足を踏み入れたことがないせいか、(ヴォイド)が現れないのは幸いだったが、粘性体(スライミー)結晶体(クリスタ)は、明らかに上層よりも強い個体ばかりで、正直言ってととても疲れる。

 それぞれ五体ほど倒したところで、下へと続く階段を見つけた。

「上に行く道じゃないね」

「しかたがない、このまま下に進もう」

 最初に転移された場所からここまで、ほとんど一本道で、上へと続きそうな道もなければ転送陣(テレポーター)も見つかっていない。

「ルチア、魔力は、どれくらい、残って、いる?」


「えーと、三割くらい……かな」

 クラウディオに尋ねられて、私は正直に魔力の残量を申告する。

「ルフィは、どうだ?」

「俺も三割くらいだな」

「みんな、休憩にしよう。魔力が回復するのを待ったほうがいい」

 ヴィートの提案に私は大きくうなずいた。

 正直言って、ちょっと疲れていた。

 プリンもどきを倒すには中級魔法が二回分は必要になる。結晶体(クリスタ)を安全に倒そうと思うと、三回分は必要になる。上級魔法を使えば一回の攻撃で倒せそうな気もするけれど、魔力の消費量が中級魔法の四回分ほどに跳ね上がるので、ちまちまと中級魔法で倒していくしかない。

 私は腰のもの入れから魔力の回復薬を取り出した。

 手のひらに収まるくらいの小ビンに入ったピンク色の液体は、あまりおいしそうにはみえない。

「飲むのか?」

 ルフィは私の手の中をのぞき込んでいる。

「うーん。まあ、使ってみないとどれくらい回復するかわからないしね。そういうルフィは使わないの?」

「俺は……いい」

 明らかに気のすすまないルフィの様子に、私は嫌な予感がした。

「飲んでおいたほうがいいんじゃないか?」

 ヴィートにまでそう言われたので、意を決して私はビンのふたを開ける。

 ポンと音がして、ツンとしたにおいが漂ってくる。

 うわぁ、大丈夫かな? これ。

 ネギとミントと大根が混ざったような、鼻を突くにおいがする。

「ルチア……がんばれ」

 クラウディオにも応援されてしまった。

 うう。飲めばいいんでしょ?

 私は鼻をつまんで、ビンの中身を一気に飲み干した。


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