迷宮への入り口
「迷宮に発生する魔物は、魔法攻撃が弱点のものが多い。粘性体とか、結晶体とか、ちょっと変わった魔物が出るのだ」
説明してくれるヴィートの手が、むにょむにょと動いて粘性体の動きを説明してくれる。
「魔法ならなんでも効くの?」
「粘性体は、火属性が、弱点のものが、多い」
クラウディオの説明に、ヴィートもうなずいて同意する。
「結晶体なら、水か風が弱点だな」
オルテンシアがいない今は、できれば風属性の魔法は使いたくない。
火属性と水属性の魔法でどうにかなりそうだから、まあ、なんとかなるよね。
「五層まで下りれば転送陣があって、地上に戻ってこられるから、とりあえずはそこが目標だな」
私はヴィートのセリフに目をむいた。
「え、そんな便利なものがあるの?」
そんな魔方陣があるの?
「転送陣なんて迷宮くらいにしかないから、俺も使ってみたいんだよな」
やっぱりルフィも転送陣を使ってみたいよね。
「ルフィは、補助と、回復を、頼む。ルチアは、魔法攻撃だ」
「了解っす!」
「まかせといて」
ルフィと私が元気よく返事をすると、クラウディオとヴィートはうれしそうに笑っていた。
ちょうど作戦会議が終わったころ、馬車の速度が落ちてきた。
どうやら目的地が近いようだ。
馬車の中に緊張した空気が漂った。
馬車が止まると、私たち以外のパーティはさっさと馬車を降りていく。
私は最後に馬車を降りた。
森の中を切り開いた幅の広い道は遺跡のような、寺院のような建物に通じている。
迷宮へと続く道には人が多く、あたりは騒然としていた。倒された魔物が解体も処理もされずに道の脇に転がっているようなありさまだ。
あらかじめ聞いていたとおり、粘性体と、結晶体の残骸らしきものが多い。
これから迷宮にもぐろうとしているパーティや、戻ってきたパーティなどが入り混じっていて、異様な雰囲気につつまれていた。
「臨時のギルド窓口だな。緊急クエストのときは設営されることが多い」
クラウディオが道の脇にある大きな天幕を指した。
天幕には多くの冒険者が出入りしている。
怪我をしてメンバーが離脱したりした場合に、パーティを組みなおすことができるそうだ。あとは臨時の救護所になっているみたいで、そちらを利用している人も多い。
そんな事態にならないのが一番いいんだけど、こればかりはわからない。
「それじゃあ、行く?」
「おう」
私の提案にみんながうなずいた。私はこぶしを握ってみんなの前に突き出した。
「魔法攻撃を頑張るよ」
「安全、確実に、いこう」
「サポートは任せろ」
「私の前には出るなよ」
みんなが順番に手を差し出して私の手の上に重ね、円陣を組む。
「行くよ!」
「オー!」
気合は十分だ。
私たちの目の前を、馬車で一緒になった疾風の盾のパーティが駆け抜けていく。
私たちが彼らを下層に送り届けないと!
互いの顔を見合わせると、次の瞬間、走り出していた。
私はワンドを手に、迷宮の入り口に向かって突き進む。
入り口に近づくにつれて、地面に転がる魔物の数が明らかに増えていた。
こんな数の魔物、見たことない。
これが……迷宮の大発生、なんだ。
迷宮の入り口の手前では、大発生によってあふれ出した魔物と冒険者たちが戦いを繰り広げていた。
おそらくはあれが粘性体という魔物だろう。
緑色のどろりとした一抱えほどある大きさの塊が、ぶよぶよとうごめいている。前世の記憶にあるような青くて、ぷよっとしたかわいらしい姿とは似ても似つかない。
粘性体は前兆となるような予備動作もなく、いきなり飛び掛ってくる。
避けるのはちょっと難しそうだ。
粘性体と戦っている冒険者の何人かは、顔に取り付かれて、窒息しそうになっていた。
「剣では歯が立たない。核を叩けば倒せるが、身体の奥にあって簡単には届かない。ルチア、頼んだぞ」
了解! 遠距離から攻撃をしたほうがいいってことだね。
「交代してくれ!」
明らかにばてている様子の冒険者が声を上げた。
「行くぞ!」
ヴィートの声にみんながうなずいて、駆け出した。
戦っていたパーティと場所を交代して、ヴィートを先頭に、クラウディオが右脇、私が左脇、その後ろにルフィが陣取る。
ヴィートが雄叫びを発した。
「行け! 力を! 解き放て! 今こそ! 我らの、勝利の、時だ!」
雄叫びは盾持ちが、自身に攻撃を集中させるために使う技だ。
ヴィートの狙い通り、粘性体の動きが鈍った。
ルフィがみんなに身体強化魔法をかける。
ふっと身体が軽くなった気がした。
ヴィートは牽制のためにするどく剣を振るった。
致命傷とはならないけれど、少しずつ魔物の命を削っていく。
クラウディオはものすごい勢いで戦斧を振り回した。
とびかかってきた粘性体が後方へ吹き飛んだ。
ヴィートとクラウディオが魔物の注意を引き付けてくれている間に、私は魔法を使う。事前に作戦会議をしていたおかげで、私は落ち着いて魔法を発動することができた。
深緋、フレイムウォール!
地面から噴出した炎の壁が、ヴィートに飛びかかろうとしていた粘性体を焼き尽くす。
魔法攻撃がかなり有効であることを目の前で確認して、私はほっとした。ルフィの魔法の効果なのか、いつもよりも魔法の威力が強いような気もする。
「いいぞ!」
クラウディオにほめられて、私の口元はにんまりと緩む。
よし、この調子でがんばるよ!
深緋、フレイムウォール!
私は次々と火属性の魔法を繰り出して、当たり一帯の粘性体を焼き払った。
すでにいくつかのパーティが内部へ入ろうと挑戦したみたいだけど、あふれ出す魔物の勢いに押されて、いまだに入り口にすらたどり着いていなかった。
粘性体が一掃され、入り口へと続く突破口が開かれる。
「ありがとな!」
「先に行く!」
疾風の盾の人たちが手を上げて、我先にと迷宮に入っていく。
私たちは迷宮に突入するパーティを横目に、残った魔物を片づけていく。
白い骸骨が、剣を手に襲いかかってきた。
私は骸骨の剣筋を間一髪で避ける。
「うわっと。これ、なに?」
どう見ても魔物だよね。
骸骨が手にしている剣は錆びてボロボロだ。
「虚……だな」
「迷宮で死んだ冒険者が魔物と化す場合があるらしい」
ヴィートが虚を切り付ける。
虚がバランスを崩したところで、クラウディオが戦斧を振り下ろしてとどめを刺した。
「迷宮で死ぬと、ああなるってことか……」
ルフィはぞっとしたような表情をしている。
こんな風にはなりたくない。
「そろそろ行こうか」
ヴィートは剣についたネバネバを振り払いつつ、そう言った。
「うん」
私は迷宮への第一歩を踏み出した。




