緊急クエスト
私はもうそのままバーに留まる気分ではなくなっていた。
「ギルドに、行ってみるか? 詳しい、状況が、わかる、はずだ」
クラウディオの提案にみんながうなずく。
店を出てギルドに向かう。私たちにできることがあるのかはわからないけれど、何かせずにはいられない。
同じことを考える人が多かったらしく、ギルドは人でごった返していた。
「星二つ以上の冒険者は、皆コルシの洞窟へ向かってくれ。これは強制クエストだ」
ギルド職員が声を張り上げている。
「まずいな……」
ヴィートが指をあごに当てて考え込んでいた。
星が二つ以上ということは、私以外はみんな半強制的にギルドの要請に従わなければならない。ギルドに登録した時にもらった冊子に書いてあったらしいけど、私はまだ読んでない。
要請に従わなかったからといって特にペナルティがあるわけじゃないけど、街の安全に関わることが多いから、ほとんどの冒険者は進んで受注するそうだ。
確かに迷宮からあふれた魔物がこの街に押し寄せてくれば、クエストがー、とか、報酬がーとか言っていられる場合じゃないのはよくわかる。
「ルチアは、行かなくても、いいが……」
「私、行くよ!」
私はクラウディオの言葉を遮った。
私たちはパーティじゃないか! 一人だけ待ってるなんて、できないよ。
「迷宮のなかは厳しい戦いになる。覚悟しておけ」
「準備もな」
「もちろん」
四人で顔を見合わせてにやりと笑う。
ちょっと予定より早くなったけど、迷宮デビューだよ!
「じゃあ、先にパーティ登録しておくか」
ルフィのパーティ登録はまだだったので、ギルドに来たついでに済ませておくことにする。
「よし、これで俺もやっとパーティの一員だな」
ギルドカードにルフィの名前が増えた。
窓口で緊急クエストも受注した。
「じゃあ、薬草とか、食料とか必要な物を買って、すぐに迷宮に行くぞ」
ルフィはやる気満々だ。
「二手に分かれるか。食料組と、薬組だな」
「わかった~。じゃあ、ギルドで待ち合わせにしようよ」
「了解した」
「いいぞ」
私は食料についてはほとんど役に立たないので、クラウディオと一緒に傷薬を買いに行くことになった。
薬屋さんもギルドのすぐ近くにある。緊急クエストの所為で、かなり品揃えが少なくなっていたが、基本的な傷薬や、魔力の回復薬をいくつか購入する。
初めて薬屋さんに来たけど、いろんな薬があって珍しさにきょろきょろしてしまう。
何を買うのかは全部クラウディオにお任せだ。
「高っ!」
傷薬の値段の高さに私は目をむいた。
こんなに小さな瓶一つで銀貨一枚とか、あり得ない。
いくらルフィが回復魔法を使えるからって言っても、これだけ高いとそうそう使えないだろうし、不安が残る。私も回復魔法を練習しておいた方がいいかもしれない。
あ、そうだ。忘れてた。
「クラウディオ、これ」
大猪を売った代金をクラウディオに渡す。
「ああ、そこそこの、値段に、なったな」
クラウディオは手渡された銀貨に顔をほころばせた。
これだけあれば、傷薬を買う足しになるだろう。ヴィートに頼まれた分も買っていたみたいだし、結構な値段になっていた。
私も二つだけ魔力の回復薬を購入することにする。
「一つ銀貨一枚半だけど、緊急クエストを受けているんだろう? 二つで二枚半に負けとくよ」
「ありがとう」
大発生が起きていることはもうみんなの耳に届いているようだ。
「よし、こんな、ところだな」
武器は今からでは間に合わないという判断をして、このままでいくことになった。
「お待たせ~」
「俺たちもちょうど戻ってきたところだよ」
ルフィとヴィートチームも買い出しが終わったところみたいで、ちょうどギルドの前で合流できた。
「それじゃあ、このまま行こうか」
買い物の代金をみんなで清算して、準備完了だ。
「準備はいいな」
「うん」
私たちはコルシニの北にあるコルシの洞窟に向かって旅立った。
「これに乗るの?」
「ああ、タダだからな」
クラウディオの言葉、私たちはコルシニの門のすぐ外に用意されていた馬車に乗り込んだ。
迷宮での大発生に際して、ギルドは冒険者をスムーズに現場へ運ぶために馬車を用意していた。
緊急クエストを受注している冒険者は無料で近くまで送ってくれるらしい。
馬車には私たちのほかにもパーティが二組ほど乗り込んでいた。
幌を跳ね除けて、足を踏み入れたとたん、彼らの視線が私に集中するのがわかった。
うう、居心地悪い。
おそらく子供に見えるので、大丈夫かという心配を含んだ視線なのだろうが、そんなにあからさまに見つめなくてもいいではないかと、思ってしまう。
入り口近くに固まっていた一団の中から、リーダーらしき人が立ち上がった。ごつい男性ばかりのメンバーで、リーダーらしき人はクラウディオに向かって手を差し出した。
「俺たちは疾風の盾。パーティネームの通り、防御が得意だ」
お、おう。そんなパーティ名なんだね。うん、ちゅうに……。なんでもない。
盾持ちが四人のパーティだけど、攻撃役もできるらしく、途中で役割を交代しながら戦うのが、攻撃スタイルなのだと胸を張っていた。
何だか力押しなパーティだなあという印象だ。
「ねえ、パーティ名ってつけるのが普通なの?」
私は小さな声でヴィートに尋ねた。
「長く同じパーティを組む場合は付けることもあるが、私は名前のついたパーティに参加したことはないな」
パーティの名前を名乗るのは恥ずかしすぎてちょっと無理だと思っていたから、そうと聞いてほっとする。
まあ、他の人が名乗る分にはぜんぜんかまわないんだけどね。
奥のほうにいたもう一つのパーティとも挨拶をする。
「短い間になると思うが、よろしく」
こっちのパーティはいつも組んでいるわけじゃなくて、今回の緊急クエストにあわせてその場で結成したということだった。
男性二人に女性が二人で、盾持ちが一人と攻撃役が三人のパーティ構成だ。
どのパーティにも回復役はいなくて、改めて回復役が少ないのだということを実感する。
挨拶を終えた私たちは、馬車の中ほどに腰を降ろした。
他に乗り込んでくる人はいなくて、しばらく待っていると馬車が動き出した。
「コルシの、洞窟は、初めてか?」
「ああ、もうちょっとレベルが上がってからって思ってたから」
緊張に氷上をこわばらせているルフィに、クラウディオが問いかける。
迷宮に入るには星二つ以上のギルドランクを保持していることが推奨されているが、ギルドランクはあくまで目安であり、すべては自己責任となっている。
私のように星一つで迷宮に入ったとしても、なんの罰則もない。
けれどほとんどの冒険者は命を最優先にしているので、基本的に自分のランクよりも上のクエストを受けることはほとんどない。
ルフィがコルシの洞窟に入らなかったのも、当然の選択だと言えた。
「じゃあ、ルチアとルフィのために説明をしておこう」
いつも冷静なヴィートが説明を買って出てくれた。
「コルシの洞窟は地下およそ十五層からなる迷宮だ。上層、中層、低層という感じで、深くに下りれば下りるほど魔物も強くなる。低層まで下りるなら、星四つはないと厳しい。……だから、今回は上層だけにするつもりだ。クラウディオもそれでいいな?」
クラウディオは無言でうなずく。
「大発生を収束させるために、どうすればいいのか具体的にはわかっていない。何もしなくても数日で収まったこともある。ただ、最下層まで踏破すれば大発生が収まることは確実にわかっている。今の私たちにできることは魔物の数を減らして、最下層に送り込むパーティを増やすことだけだと思う」
うん。無理してもしょうがないからね。初心者から卒業したばかりの私と、迷宮に入れる最低ランクのルフィがいるから、私たちのパーティはみんなのサポートに回るつもりくらいでちょうどいいと思う。
「心配すんな。俺たちがきっちり最下層まで踏破してやるから、サポート頼むぜ」
私たちの会話を聞いていた疾風の盾のメンバーの一人が、がははと笑ってルフィの背中を叩いた。
「ああ、がんばってくれ」
私に他人を気にする余裕はない。迷宮ともなれば今までの魔物よりも手ごわくなるのは確実で、みんなの足を引っ張らないためにも、私はがんばらなくちゃいけない。
「ねえ、クラウディオ。迷宮に出る魔物について教えてくれる?」
「ああ、対策を、練ろうか」
そんなわけで、迷宮へ向かう馬車の中で私たちのパーティは作戦会議を行った。




