素材屋さんで
「そういえば、ルチア、大猪の肉と毛皮は持ってるか?」
「うん」
ルフィに問われて、私は元気よくうなずいた。
「じゃあ、素材屋に行って換金しとこうぜ」
「いいね! クエストの前に荷物を整理しておきたかったんだよ~」
「では、行くか」
素材の代金は三人で分ける約束をしていたし、保存の魔法がかかっているとはいえ、まったく時間が進まない訳でもない。早めに換金しておいた方がいいと、素材屋に向かうことになった。
お店はギルドのすぐ近くにあった。入り口が二つあって、片方が買取りの店で、もう一つは買い取った素材を売っている店になっていた。
私たちは買取りの店舗に足を踏み入れた。
結構混み合っていて、番号を呼ぶ声があちこちで聞こえてくる。
「魔石以外の素材はだいたい買い取ってくれる。薬草とか、羽とか、余っていたら売るといい」
ヴィートもアドバイスをしてくれる。
ふむふむ。でも、今回は大猪だけでいいかな。
査定には時間がかかるらしく、先にカウンターで素材を渡して、呼ばれるのを待つシステムになっていた。
ギルドだとちょっと役所っぽい雰囲気なんだけど、素材屋はリサイクルショップに近いかな。
私は麻袋をカウンターの上に置いて、なかから大猪の肉と毛皮を取り出した。三体分ともなると結構な量になる。
大きなカウンターなのに、たちまち毛皮と肉でいっぱいになった。
「こちらの番号でお呼びいたしますね」
番号の書かれた札を手渡された。
私たち以外にも何人か待っていて、呼ばれるまではもう少しかかりそうだ。
「あっちの、店を、のぞいて、みるか?」
確かに呼ばれるまでぼーっと待っているのも暇なので、隣の素材を売っている方の店舗に移動する。
肉や薬草のような鮮度が大事なものは扱っていないようだ。
何かの毛皮とか、綺麗な石とか、見たことの無いものが多く並べられていた。何に使うのか全く用途がわからないけど、見ているだけでも結構楽しい。
「これ、何に使うのかなぁ?」
ただの木の枝に見えたんだけど、少し先端が水晶のように透き通っていて、何となく気になって手に取ってみる。
木というには、ちょっと重い。
「これは迷宮産だな」
ヴィートは私が手にしている枝と同じものを手にして、くるくると手の中で回して眺めている。
「武器の材料にしたり、装備のボタンに使ったりするみたいだな」
へえ。
窓からの光にかざしてみると、キラキラと反射してとてもきれいだ。
迷宮にこんなものがあるなら、行くのが楽しみになってきた。
「こっちも迷宮産だぞ」
「え、どれ?」
特にほしい物はないけれど、綺麗なものが多くて、見ているだけで楽しい。ヴィートにいろいろと教えてもらいつつ、店を回っていると、いつの間にか私たちの素材の査定が終わっていた。
「四十八番の方~!」
「はーい」
買取り担当の店員さんに呼ばれたので、クラウディオとルフィの姿を探して声をかける。
「ねえ、査定が終わったって」
「ちょっと、見たいものが、ある。ルチアたちで、行ってきて、くれるか?」
「俺も! 買いたい素材があるんだよ」
「わかったよ」
「承知した」
私はヴィートと一緒に隣のお店に戻った。
「大猪の肉と毛皮が三体分ですね」
ヴィートと一緒に間違いがないことを確認する。
「はい。間違いありません」
「肉が一体につき銀貨五枚、毛皮が銀貨七枚になりますので、合計三十六枚になります。どうなさいますか?」
一体当たりが金貨一枚分って結構な金額だと思うんだけど、これが高いのか、安いのかもよくわからない。
目でヴィートに問いかけると、彼はにっこりと笑ってうなずいた。
「問題ないと思う」
じゃあ、買取ってもらおう。
「お願いします」
ギルドカードを店員に渡して、売買を記録してもらう。
サインとかも何もいらないなんて、本当にギルドカードは有能すぎるよ。
銀貨で受け取って、十二枚をヴィートに渡す。クラウディオの分はとりあえず預かっておく。
さて、そろそろあっちは終わったかな?
二人に合流すると、ちょうど買い物が終わったところだった。
「ふたりとも、何を買ったの?」
「金属を、少し」
クラウディオは甲冑の補修用に、金属素材を購入したらしい。
「俺は皮を買ったんだ」
ルフィは抱えた紙袋を少し開けて、落ち着いた色合いのなめした皮を見せてくれた。
「買うよりも、自分で作ったほうが安上がりだからな」
ルフィは自分で鞄を作るらしい。
「え、自分で作れるものなの?」
「あ、俺細工師の講習を受けたから」
細工師? 免許? 聞き慣れない言葉に、私の頭のなかは疑問符でいっぱいになった。
「裁縫師とか、細工師、鍛冶師なんかの職業に就こうと思ったら、師匠について修行するのが普通なんだけど、ちょっとした修理とか、加工だったら自分でやりたいっていう冒険者は多いんだ。だからちょっとした装備の作り方や、修理のやり方をギルドで教えてもらえる講習があるんだ」
ええ?! そんなのヴェルディのギルドでは教えてもらった覚えがないんだけど?
「最初に道具をそろえるのはある程度金はかかるけど、素材と道具さえあれば手間賃がかからないしな。いくつか作れば売って小遣い稼ぎもできるし、自分で素材を採ってくれば、あんまり金もかからないぞ」
そう言って、ルフィは買ったばかりの道具を見せてくれた。
ハンマーや、太い針、糸、はさみとか、いろいろとそろえないといけないっポイ。
まあ、不器用な私には無理な芸当だね。
私はちょっと疲れてきたので、カフェでひとやすみすることにした。
夜はお酒を飲めるバーも、昼間は軽食や飲み物を提供している。
お店はたくさんあって、それぞれに趣があって、どこに入ろうか迷う。
「ここでいいだろう」
決められずにうろうろしていると、ヴィートがお店を選んでさっさと入っていってしまった。
古びてはいるが、磨きこまれたカウンターと四人掛けの席が二つほどしかない小さなお店だ。フルーツてんこ盛りのジュースがあると言うので、私はそれを注文することにする。
それぞれが注文を済ませてちょっと落ち着いたところで、午後から回る場所を相談する。
「俺は別に寄りたいところはないなぁ」
とルフィ。
「武器屋さんをのぞいてみたいなぁ」
たぶん高くて買えないとは思うんだけど、どんな武器が売っているのか一通りは見ておきたい。
「ルチアは、もっと、いい、ワンドを、買った方が、いい」
「確かに武器はできるだけ質の良いものを使うべきだ。性能の差が命運を決めることもある」
クラウディオとヴィートのふたりともにそう言われると、買い替えた方がいい気がしてきた。
「でも高いんだよな~」
「ね~」
私がヴェルディの街で買ったワンドだって、銀貨十枚はした。買い替えるならそれ以上のお値段だろうと容易に想像がつく。
「俺だって、買い替えたいとは思ってんだけどな」
そう言って、ルフィは自分のロッドを手に取った。
回復よりの魔法使いが使うロッドは、銀貨十五枚したことを考えると、ルフィが手にしているロッドはもっと高そうだ。
「そんなに威力って変わるものなの?」
「おう、けっこう変わるぞ。お前のワンド、見せてみろよ」
私はルフィにワンドを手渡した。
「初心者用じゃねえか。これであの威力なのか? すげえ」
これは褒められたと思っていいんだよね?
「お待たせいたしました」
そんな話をしていると、店員のお兄さんが料理を運んできてくれた。
みんなは肉が入ったパイとかランチ的なものを頼んでいたけど、私の前には背の高いグラスが置かれた。
まるでパフェのようにグラスのふちにいろんな果物が乗っている!
「わあ!」
慌ててルフィからワンドを返してもらって、私はジュースの攻略に取り掛かる。まずは上のフルーツからだよね。
ん、おいしーい。
三人があきれたような目で見てくるのはわかっていたけれど、気にしないことにして、私はひたすら果物を食べた。
けれどそんな至福の時間は、店に入ってきた男の声に打ち破られた。
「緊急クエストが出た。迷宮で大発生だ。動けるものはみんな迷宮へ向かえ!」
男性が息を切らして店に駆け込んで来る。
「なんだって!」
私たち以外にお店にいた冒険者風の男性が、立ち上がり、足早に店を出ていく。
「大発生ってなに?」
私は厳しい表情をしているヴィートに尋ねた。
クラウディオとルフィも顔をしかめている。
「そもそもルチアは迷宮がどんな場所なのか、知っているのか?」
「ううん。知らない」
そんなもの、私の巣の近くにはなかったし、話を聞いたこともないから知らないよ。
「迷宮とは、魔力が多く発生している所為で魔物が多く生まれる場所、だな。洞窟のような場所もあるし、塔のような建物の場合もある。変異種とまではいかないが、強い個体が多いから、そこそこの実力がないと攻略が難しい。一番魔力が濃くたまっている場所には主と言われる魔物がいて、そいつを倒せばしばらく迷宮での魔物の発生率が下がる。と、ここまではいいか?」
ヴィートが私の目を見つめてきたので、しっかりと視線を合わせてうなずく。
「迷宮では変わった素材が採集できるし、主からは珍しい素材を採取できる。だからみんなパーティを組んで迷宮に潜る。定期的に主を倒せているうちは大丈夫なんだが、一定期間以上主を倒せないことが続くと、魔力がどんどんと迷宮に溜まって、一気に魔物が発生するんだ。迷宮の入り口から魔物が溢れてくるからすぐにわかる。これが、大発生だ」
おお、それって危ないんじゃないの?




