お買い物って楽しい!……?
ルフィが案内してくれたのは防具屋さんといっても、主にローブやシャツやズボンのような軽装備を扱うお店のようだった。
クラウディオやヴィートが身に着けているような甲冑はまた別のお店で扱っているらしい。
確かにお手入れとか全然違うよね。
店に入ったとたん、ルフィはローブのある場所に私を引っ張って連れてきた。
クラウディオとヴィートも甲冑の下に着る防具を見たかったらしく、自分の欲しいものを物色している。
「魔法使いなら、ローブだぞ!」
うん、それくらいは私も知ってるよ。
冒険者都市と呼ばれるだけあって、ローブの品ぞろえもかなり多い。膝からくるぶしくらいの長さのものがほとんどで、ちょっと男性的なコートっぽいものもあれば、ひらひらとした柔らかそうなワンピースっぽいローブもある。
裾の辺りや、首周りに刺繍がしてあるローブが多くて、私には少し光って見えるので、その辺に魔法が使われていそうだ。
私は白いローブをつまんだ。
どんな装備がいいのか、全然わからないよ。
「これなんかどうだ?」
ルフィはその中から一つのローブを選び出した。
大きなフードがついていて、上半身はぴったりとしている。腰からひざ下までは大きく広がっていて、うしろに切れ込みがあるものだ。
これならとても動きやすそうだ。それに、色も黒くてかっこいい。
「いいね!」
「だろ?」
袖口もあまり広がっていなくて、すっきりとしているのだが、下に着るブラウスの組み合わせを変えると、かわいいアクセントになりそうだ。
「えーと、腰はー、この辺のサッシュをしめておけばいいんじゃね?」
ルフィは暗い赤色のサッシュを見立ててくれる。
「下はこのへんのズボンとロングブーツな」
「今のブーツじゃダメ?」
今、私が履いているのは太ももくらいまでのブーツだが、ルフィが選んだのはひざ丈のものだった。
「長すぎる。それじゃ、動きにくいだろ?」
かもしれない。
私はうなずいた。
「あとは魔法使いなら、とんがり帽子だろ?」
ローブと同じ黒色の三角帽子を手に取って、ルフィはくるくると回した。
私はルフィの手から帽子を受け取ってかぶってみる。
「良さそうだな」
うん。サイズも大丈夫そう。
「魔法陣が刺繍されているから、魔法防御もばっちりだぜ?」
「え、そういう仕組みなの? 魔法陣って、どこ?」
私は手にしたローブをじっくりと目を凝らして観察する。
「ほら、ここだよ、ここ」
「えー、どこ?」
ルフィはローブの裾に施された刺繍を示す。
やっぱりちょっと光って見えたのは魔法だったんだ。
「ここだって」
「こんな模様で、魔法陣になるのー?」
魔法陣というのは、魔法を図形で置き換えたものであまり大きな魔法は使えないが、小さな効果を永続的に使うことができるものだと父に教えてもらった。
ドラゴンはあまり手先が器用ではないこともあって、まず魔法陣は使わない。
でも今私は人間の姿なのだから、よく考えたら使ってみるのも、ありかもしれない。
まあ、人間の姿になっても不器用なままだから、難しいかもしれないけどね!
「そう簡単にはわからないようになっているのだぞ? 防具を作るのも商売だからな」
ヴィートが私の手元を覗き込みながら会話に加わってきた。
「そっかぁ」
やっぱり私が簡単にまねできそうなものじゃないっていうのは、わかった。
「じゃあ、これ買ってくるね」
私はルフィが選んでくれた服を手に、会計に向かった。
「銀貨八枚になります」
うーん、やっぱり高いなぁ。
でも、ここは必要な出費だから割り切るしかない。
腰の物入れから銀貨を取り出して支払う。
「では、あちらへどうぞ」
店員のお兄さんが、奥にある扉を指し示した。
「きちんとサイズが合うようにお直しいたしますので」
ちょっと値段が高いと思ったけど、お直しの料金も入っているのなら、安いのかもしれない。お財布には大ダメージなのは変わらないけどね!
私は服を手に奥の部屋に移動する。
部屋の中には針子っぽいお姉さんがいた。
「まあ、かわいいお客様ですわ」
私の背筋をゾクリと悪寒が走る。
お姉さんの目は獲物を見つけた目だった。
「まずは一度着てみてね」
語尾にハートマークがつきそうな甘い声だ。
お姉さんの視線を感じつつ、私は着ていた服を脱いだ。
めちゃめちゃ尻尾を見られている気がする。
あえて視線には気づかないふりで、ズボンをはいて、ブーツも履き替える。脱いだ服は荷物に戻した。選択したら普段着にすればいいしね。
ん! ブーツとズボンはぴったり。
ローブにも袖を通してみる。
やっぱり、ちょっと大きい。
上半身がぴったりとしているデザインなのに、胸の辺りはぶかぶかで。……何も言うまい。
裾はどうにか床にはついていないけど、くるぶし辺りまできている。
サッシュで結んで調節はできるけど、きちんと直してもらった方が動きやすいだろう。
「お願いします」
「うふふ」
お姉さんはにっこりと笑って、私の前に膝をついた。
あ、お姉さんの髪の間から見えているのって、もしかして猫耳じゃない? 尖った三角の耳が金色の髪の間からのぞいている。
「裾を上げますねぇ」
お姉さんが私の腰に手を回して背中の辺りを持ち上げている。
あ、いい匂い。そして、胸が……胸がおっきいよぉ。
かわいらしいブラウスに包まれた胸が、目の前でたゆんと揺れる。
う、うらやましくなんか……っ、あるけど。
お姉さんは軽くピンでとめて、裾の長さを調節している。
うー、触りたい。
お姉さんの耳が時々ぴこぴこと動いて、撫でたい衝動を抑えるのが大変だ。だって、金色の毛並みが綺麗で、触ったらとても気持ちよさそうなのだ。
「この長さでいかがでしょう?」
ローブは膝よりもちょっと下ぐらいに合わせられている。
「うん。いい感じです」
「じゃあ、すぐに縫っちゃうんで、脱いでもらえますかぁ? あ、ピンに気を付けてくださいねぇ」
「はーい」
手を上にあげて、お姉さんにも手伝ってもらって、できるだけそっと上着を脱ぐ。
「じゃあ、お店の方でお待ちください。お直しが終わったらすぐにお持ちいたしますねぇ」
「お願いします」
やっぱり尻尾に視線を感じつつ、私はみんなが待つ店舗の方に戻った。
クラウディオが装備を選んでいるみたいで、ヴィートとルフィも一緒になって選んでいる。
「あれ、クラウディオも買うの?」
クラウディオはいつも甲冑だから、別にここで買うものはないと思っていたから、意外だった。
「盾持ちが、いるから、もっと、軽くて、動きやすい、のが、欲しいんだ」
「そっか」
クラウディオの甲冑は一人で戦うための装備だった。戦い方によって装備を変えることも必要なのか。
私は頭の片隅にメモっておく。
「これに、する」
クラウディオはサーコートを選び出した。白地に青のラインが鮮やかなデザインで、かっこいい。
クラウディオは買ったばかりの装備を手に、私と同様に奥の部屋に入っていった。
「ヴィートも新しい装備を買いに行く?」
「私は別にいい。それより、ちょっと背中を見せてみろ」
「んー? なにかついてる?」
そう言いつつ、私はくるりと回ってヴィートに背を向けた。
「いや……。なんでもなかった」
尻尾のあたりに視線を感じる。
「そんなに、尻尾って気になるもの?」
私はちょっとあきれつつ、ヴィートの顔を見上げた。
針子のお姉さんにもじろじろ見られたし。そんなに変なのかと気になってしまう。
「まあ、な」
ヴィートはちょっとバツの悪そうな顔をしていた。
「ドラゴンに憧れる冒険者は多い。その血を引く竜人を見かける機会は少ないから、気になる者は多いと思う」
結局、ちゃんと変身できない私が原因ということか。
こんなことなら、人里に降りる前にもうちょっときちんと変身しておくんだったと後悔しても遅い。
ちゃんと人間の姿になれるように叔父さんは教えてくれたのに、私ときたら完全に人と同じ姿になれるときの方が少なかったのだ。仕方がないよね。
「待たせたな」
そう言いつつクラウディオが戻ってきた。
と言っても、私のお直しよりも先に戻ってきたので、サイズ直しはいらなかったのかな。
クラウディオは甲冑ではなく、サーコートに着替えていた。
甲冑よりも断然軽くて、動きやすそうだ。
「クラウディオかっこいいね!」
「ありがとう。ルチアのも、できた、みたいだぞ?」
「わあ、ほんと?」
そう言っていたら、さっきのお姉さんが私のローブを抱えてやってきた。
「うふふ、できましたよぉ」
私はローブを受け取って頭からかぶった。
おお、ぴったりになっている。
「いいな」
見立ててくれたルフィは満足げだ。
「ん」
クラウディオもうなずいてくれたので、問題なし。
「ルフィは……、ごめん」
ルフィは悲しげな表情で、顔を背けた。
荷物が全部なくなったルフィは、装備をそろえるほどの余裕はないのだ。聞いた私が悪かったよ。
さて、次はどこに行こうかな?




