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冒険者としての心構え

 ギルドに飛び込んだルフィは、すぐにギルドカードの再発行手続きのために窓口に並んだ。

 さしあたって窓口に用のない私たちは、掲示板に貼られたクエストを見ながらルフィの手続きが終わるのを待つ。

「ルチア、このクエストを受けよう」

「え、どれ?」

 ヴィートが星二つのクエストの張り紙を指す。

 慣れない文字を何とか拾い読んでみると、どうやら大猪の討伐クエストだとわかった。報酬は一体につき銀貨四枚とある。

 私のギルドランクは星一つだけど、パーティを組んでいれば一番ランクの高い人と同じ星のクエストを受けられるから、星二つなら余裕で受注できる。しかも討伐証明となる部位は、ルフィに教えてもらって確保してあるから、受注と同時に達成できるおいしいクエストだ。

「これ、いいね。じゃあ、このクエスト受けてきちゃうね」

「ああ」

 ルフィの手続きにはまだ時間がかかりそうだし、私は別の窓口に並んでさっさとクエストの受注手続きと、完了手続きを済ませた。

 報酬は三体分で銀貨十二枚と、換金した魔石が銀貨三枚で合わせて十五枚の収入だ。大猪の肉と毛皮はギルドでは扱っていなくて、また別の買取り所があることを教えてもらった。

 ギルドカードを受け取って、銀貨を袋にしまいながらヴィートたちが待っているところへ帰ろうとしたときだった。

「おい、待ってくれ!」

 唐突に大きな声が聞こえて視線を向けると、ルフィが窓口の職員に詰め寄っていた。

「どういうことだよ!?」

「ですから、あなたのパーティメンバーだった方たちはお二人とも無事です。今はコルシの洞窟に潜っているということしか、こちらではわかりません」

 興奮した様子のルフィとは対照的に、職員の口調はあくまでも事務的だ。

「どうして、俺が無事だったのに、あいつらも、無事だったのに……」

「ルフィ、行くぞ」

 クラウディオがルフィの肩を押して、窓口の列から連れ出してくる。

「落ち着け」

「こんなのっ、落ち着けるかよっ」

 ルフィは今にも泣き出しそうなほど興奮している。

「どういうこと?」

 いまいち事情が呑み込めていない私は、冷静な顔をしているヴィートを見上げた。

「あいつはパーティメンバーに見捨てられたんだろう。あいつが戦闘不可能となった時に、メンバーは助けるのではなく、放置し、彼の荷物を持ち去ったのだろう」

「そんな……」

 ともに戦う仲間を見捨てただけではなく、荷物まで盗んだのか!

 自分のことではなくても、理不尽な仕打ちに怒りが込み上げる。

「そんなひどいこと、ギルドは取り締まってくれないの?」

「最初に言われなかったか? すべては自分の責任だと」

 私は一気に冷水を浴びせかけられた気がした。

 ヴィートの言葉は冷たいかもしれないけれど、真実だ。

 ルフィの様子をうかがうと、彼もまた思い当たる節があるのか顔を青ざめさせている。

 その表情を目にして、私の沸騰しかけていた頭の一部は急速に冷えていった。

 ギルドに加入したときに、最初に教えられなかったか? なにがあっても自分の責任なのだ。どんなクエストを受けるのか、誰と一緒に戦うのか。

 命を預けるに足る仲間(パーティメンバー)でなかったのならば、それは自分の見る目がなかったということでしかない。

 私には他人に同情している余裕なんてない。

「さすがに盗みは犯罪だから、警邏隊(けいらたい)に訴えでることはできるだろうが、死んだ仲間の荷物を届けるのが遅れたのだと言い訳されてしまうと、罪に問うのは難しいな」

「そういう、ことだ」

 ルフィはがっくりと肩を落としたまま何もしゃべらない。

「そっか……」

 注意しなければこういうこともあるのだと、心に刻む。

 そう思えば、私が最初に出会ったのがクラウディオだったことは、とても恵まれていたのだろう。

「まあ、悪質な場合はギルドから注意を受けるし、何らかの罰則(ペナルティ)を受けることもある。完全に野放しというわけではないな」

 ヴィートがそう言ってくれたので、少しは救われたような気がする。

「あ、クエスト完了してきたよ~。分配しよう」

 落ち込んだ雰囲気を変えたくて、私はわざと明るく振る舞った。

「そうだな」

 とりあえずルフィを連れて、ギルド内のカフェスペースに移動する。

 流石に冒険者がたくさんいるだけあって、カフェスペースも大きい。

 なにか美味しいジュースがあるといいなぁ。

 ここは注文した飲み物を受け取ってから席に着くシステムらしく、カウンターのお姉さんのおすすめジュースを注文した。

「フェルのジュースよ」

 おお。フェルって昨日クラウディオが飲ませてくれたお茶に使われてたやつだ。これは期待できそう。ジュースの注がれたマグを受け取って、席に移動する。

 私以外のみんなはコーヒーっぽい物を頼んでいた。

「さて、ルフィはこれからどうするの?」

「パーティは解散されてた」

「そっか」

 クラウディオとヴィートは黙ったまま、ルフィの話を聞いている。

「ギルドカードは再発行してもらえたし、ギルドに預けていた金も下ろせた。武器もあるし、新しいパーティを組んで戦う。あんたたちには世話になったし、お礼もしたいけど、今はあまり余裕がない。いつになるかわからないけど……」

「別に、俺たちには、余裕が、あった。それだけだ。お前に、余裕が、できたときに、他の冒険者に、返してやれ」

 クラウディオの言葉にヴィートもうなずく。

「あいつらに文句の一つも言ってやりたいけど、今の俺じゃ、ばかにされるだけだ。俺、もっと強くなって、見返してやる」

 ふんふん。ルフィ君はチャラいと思ってたけど、意外と熱血なところもあるんだね。

「だから、俺をお前たちのパーティに入れてくれないか?」

「え?」

「あ?」

「何だと?」

 突然のルフィの願いに、私たちは一様に戸惑った。

 確かに私たちのパーティにはちょうど回復役(ヒーラー)が必要だと話してはいたけれど、それほど急いでいるというわけでもない。

 私もあまり人のことは言えないけど、ちょっとうかつなところがあるルフィが、チャラそうな見かけに反してまじめで義理堅い性格であるのは知っている。

 でも一緒に戦ったこともないので、簡単に仲間にしていいものか判断がつかない。

 そう考えていると、ヴィートが口を開いた。

「いいぞ、と言いたいところだが、そう簡単に仲間に入れることはできないな」

「ヴィートと、組む時も、試しに、戦ってみて、決めた」

 うん。二人とも同じ考えでよかった。

「ねえルフィ、一緒に戦ってみようよ。それで、決めたらいいじゃない?」

「いいのか?!」

 ルフィはうれしそうに顔をほころばせて、私の手を握った。

「ありがとな。きっとみんなの役に立つよ~」

「うふふ。がんばろうね」

「では、今日はもう遅いし寝るだけにして、明日は準備、あさって、一緒にクエストに行くことにしよう」

 ヴィートの提案にみんながうなずいた。

「了解」

 やった。これでこの街を観光できるね。

「まずは、宿探し、だな」

「それなら、俺が泊まってたところにくる? ちょっと汚いけど、安いよ~?」

「お前のパーティメンバーだった者も、そこに泊まっているのではないか?」

「あー。あいつらがこの街にいるなら、たぶん……」

 ルフィは完全に忘れていたみたいで、目に見えてシュンと落ち込んでいる。いつかは対決しないといけないかもしれないけど、今すぐ顔を合わせるのは気まずいのかもしれない。

「ルチアが、いるから、あまり、治安の、悪い、宿は、ダメだ」

 クラウディオはわりと過保護だ。私は大丈夫だと思うけど、いちおう女の子だし、安心して眠れないのはちょっとなぁ。

「そっか……。でも治安のいい宿は高いだろう。俺、あんまり手持ちがないんだよな」

「では、そこそこ治安のよい宿で、四人部屋にしてもらえばどうだ? それなら割合に安く済むはずだ」

 ヴィートの提案にみんなが賛成した。

 ヴィートはこの中で一番ギルドランクが高いということもあるけど、意見を取りまとめるのがうまいし、指示も的確だ。特に役割を決めたわけじゃないけれど、パーティリーダーって感じがする。

 そんなわけで、私はさっき完了したばかりのクエストの報酬をルフィ以外の三人で分配した。一人銀貨五枚ずつということで、私の所持金は銀貨二十枚ちょっとまで回復した。

 うひひ。やったぁ。

 ルフィにも分けようとしたけど、戦ってないからいらないと言われた。

 明日にでも大猪の肉とか毛皮を換金できたら、そっちのお金はちゃんと分配しよう。ルフィが解体してくれたんだから、そっちは受け取ってね。

 ギルドでお勧めの宿を教えてもらって、建物を出る。紹介されたのは、最高級と安宿の中間くらいの宿だった。ギルドから出てからすこし歩いた場所にある。

 外は日も落ちてずいぶんと暗くなっていた。

 通りのあちこちに灯りがともっていて、歩く分にはそれほど支障はない。ヴェルディの街の灯りはたいまつだったけれど、この街の灯りはガス灯か電気に近いように見える。もしかしたら魔道具なのかも知れない。

 コルシニは迷宮が近くにあることで栄えた街だから、冒険者の拠点となるギルドの建物を中心に発展してきたそうだ。なので、ギルドに近いほど高級なお店や宿が並んでいるのだと、ルフィが教えてくれた。

 宿まで歩く間にも、武器屋や魔道具を売っている店を何軒も見かけたけど、確かに高そうな店が多い。

 買えないだろうけど、明日はいろいろと見て回ろう。

 四人で店を冷やかしつつ大きな通りを歩いていくと、宿に到着した。

 銀の泉亭と書かれた看板のある店の扉を開ける。

「いらっしゃいませ。少々お待ちください」

 落ち着いた雰囲気の壮年の男性がカウンターの向こう側に立っていた。ちょうど他の客の受付をしているようだ。

 男性の少し耳がとがっているので、森人(しんじん)の血が混じっているのかもしれない。

 しばらく待っていると、前の客が鍵を受け取って階段を上っていく。

「お待たせしました。個室ですか? 相部屋ですか?」

「四人で泊まれる部屋は空いているか?」

 進み出たヴィートが代表して店主と交渉している。

 その間私は宿のロビーを観察していた。

 ヴェルディの街では食堂兼宿というところが多かったけれど、この宿に食堂はなさそうだ。

 街中に食堂や屋台が多いので、わざわざ兼ねる必要がないのだろう。

「二晩で半銀貨だそうだ」

 それくらいなら、私でも払えるよ。

 私は腰の物入れから半銀貨を取り出してカウンターにのせた。

 いつもクラウディオにはお世話になりっぱなしだったので、自分で宿代を払うとちょっとだけ成長できた気がした。

「お部屋は三階です。扉に星の絵が書いてありますから」

 ヴィートが鍵を受け取って、階段を上る。

 星の絵がついた扉は階段からすぐの場所にあった。

 大きな窓が真ん中にあって、その前にソファとテーブルが置かれている。それほど大きくない部屋の両側には、二つずつベッドが並んでいて、防具をしまう場所もあった。

 そして、やっぱりトイレとお風呂は共同だった。

 高級な宿だったら部屋にお風呂とかトイレもついているらしいけど、今の私には贅沢な話なので関係ない話だ。

「さて、夕飯は、どうする?」

「適当に屋台で買って食べようよ」

「まあ、そんなところだな」

 みんなは夕飯を外へ食べに行くみたい。

「じゃあ、私部屋で休んでていい?」

「どうした? 疲れたのか?」

「うん。私は果物が残ってるし、少し眠りたいから、みんなで行ってきて」

「具合が悪くはないんだな?」

「うん、ちょっと疲れただけだよ」

 魔力切れもないし、言うほど疲れているわけでもない。ただちょっとだけ一人の時間がほしいんだ。

「本当に、大丈夫、なんだな?」

「うんうん。みんな行ってきて。待ってるから」

 心配そうなクラウディオとヴィートを送り出して、私はベッドの上に腰を下ろした。

 ちょっとお行儀が悪いけど、荷物から果物を取り出してベッドに寝そべりながらかじる。

 しばらくすると、扉をノックする音が聞こえてきた。

「お客様、よろしいでしょうか?」

 扉の外からは、予想通り宿の主人の声が聞こえてきた。

 あーあ、当たってほしくない予想が当たっちゃったなぁ……。

 私は仕方なく立ち上がり、しぶしぶ部屋の扉を開けた。

「何か用ですか?」

「少しだけ、お話させていただいても?」

 にっこりと口元は笑っているが、目は笑っていない。

 宿の主人が簡単にはあきらめなさそうな予想がついたので、私は彼を部屋に招きいれた。

「ありがとうございます。お目にかかれて光栄です。竜の姫様」


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