目が覚めて
目が覚めたら、ベッドに寝ていました。
あっれ~? どうしたんだっけ。
「あ、岩鳥!」
一気に記憶がよみがえり、私はベッドの上で横になったまま思わず叫んでいた。
「起きたか……」
クラウディオの声がして、頭に手が当てられた。
やさしく撫でられる感触に私はうっとりともう一度目をつぶる。
「すまなかった。俺の、判断ミスだ」
クラウディオに謝罪されて、失った存在を思い出す。
オルテンシアは眠っているだけ。二度と会えないわけじゃない。いつか魔力が満ちたら……。
そう自分に言い聞かせてみるけれど、喪失感は拭えない。
ぽろりと涙がこぼれて頬を伝った。
声を上げないまま、ただぽろぽろと涙をこぼす。
クラウディオは黙ったまま、私が泣き止むまでそっと頭を撫でてくれていた。
うん。なんだかお父さんというよりお母さんみたいだ。
「ヴィートも、心配している。起きられ、そうか?」
そうだった。二人のおかげで私は無事に岩鳥を倒すことができたのだ。
「うん。クラウディオも、ヴィートも、身体の調子は大丈夫?」
きちんと解毒魔法が発動した手ごたえはあったし、私の身体に入った毒は消えていた。だけど、元がドラゴンの私と、人間のクラウディオやヴィートとは基準が違う。
ちゃんと魔法が効いていたのか心配になってくる。
「大丈夫だ。ぴんぴん、している。しかも、あの男は、下の酒場で、昼間から、飲んでいる」
ええっ?
私は思わずがばりとベッドから起き上がる。
すこしめまいがするけれど、魔力切れの症状はほとんど治まっていた。
「なにやってるの。もう……」
クラウディオの手を借りてベッドから降りる。
トイレの場所を教えてもらって、ようやく人心地ついた。
クラウディオのあとについて階段を下りると、見覚えのある場所だった。
情報収集をしたセッキの村の酒場だ。
岩鳥が討伐されたことを聞きつけた住人たちが、やっと明日から仕事ができると喜んで、飲めや歌えやの酒盛りに突入したと、クラウディオが教えてくれた。
村中の人が集まったのではないかと思うほど、たくさんの人で酒場はぎゅうぎゅうになっている。
かなり出来上がっている人がたくさんいて、顔は真っ赤だし、酒臭い。
でもみんなの顔が一様にほっとして、うれしそうなのがいい。
かなりてこずったけれど、討伐できてよかったなぁ。
「おお、ルチアちゃ~ん! 目が覚めたのか~!」
急に抱きつかれ、酒臭い息を吹きかけられて、びっくりする。
誰かと思ったらヴィートだった。
いつもの貴族っぽい、気障な仕草じゃなくてかなりぐでっとしている。そして、語尾にハートマークでもつきそうな甘えた声で話しかけてくる。
「かなり、酔ってるね」
性格変わりすぎじゃない?
「いいじゃないか~。無事討伐できた祝いだぞぅ?」
「やだ、つぶれる!」
ぎゅうっとヴィートに抱きしめられて、寄りかかられて、息が苦しい。
「ルチアちゃ~ん、尻尾触らせて~」
「チェンジィィ!」
誰なの、この人。キャラ変わりすぎだよ!
近すぎる距離に私は叫んで逃げ出そうとする。が、ヴィートの力は強くて彼の腕から抜け出せない。
「ルチアが、嫌がっている。放せ」
クラウディオがヴィートを引き離してくれたおかげで、ようやくまともに息ができるようになった。
「クラウディオ、ありがとう」
私はヴィートから距離を置いて、用意された席に腰を下ろした。
「お嬢ちゃんには、ジュースをあげよう」
酒場のマスターが私の前にグラスを置いた。
「ありがとうございます」
私はありがたくグラスを受け取って、口をつける。
ん、おいしい。
見た目はトマトジュースだけど、味はオレンジジュースだった。あれ、でもブラッドオレンジとかあるから、変でもないのか。
「岩鳥を倒してくれてありがとな。まさか変異種になっとるとはなぁ」
「正直、ダメかと、思ったが、ルチアの、魔法のおかげだ」
向かいに座っているクラウディオも、褒めてくれる。
「でも、私……、何もできなかったよ。ふたりが倒してくれたんだよね。これって、クエスト達成できたってことでいいのかな?」
私は自分の不甲斐無さにうつむいた。
ぽんと、頭の上に手の重みを感じて顔を上げると、さわやかな笑顔を見せるヴィートがいた。
「何を言っている。ルチアの風魔法がなければ、あの岩鳥は倒せなかった。もっと自分を誇っていいのだぞ」
ぽんぽんとつむじの辺りを撫でられて、じんわりと達成感が込み上げてきた。
「そして、これが、岩鳥の、尾羽と、魔石だ」
とてもきれいで大きな紫色の尾羽と、とても大きな魔石がテーブルの上に置かれた。
これ、上級じゃなくて最上級くらいあるんじゃないかな。
私は尾羽をつまんでくるくると回した。
「じゃあ、これを持って帰ればいいんだね」
「ああ、恐らくギルドランクも上がるはずだ」
え?
ヴィートの言葉に驚いて、私は思わず立ち上がった。
「若葉から昇級するには試験を受けなければならないが、岩鳥の変異種を討伐したとなると、試験を受けずとも認められるだろう」
「ほんとに!?」
クラウディオの顔を見ると、彼もうなずいている。
「だいぶパーティでの戦い方も覚えたみたいだし、大丈夫さ」
ずっと若葉を卒業して星をもらいたいと思っていたけれど、考えていたよりも早くなりそうでうれしい。
「やったぁ」
星一つになったら、ヴェルディの街からほかの街に行くのもいいなぁ。気が早いとは思うけど、いずれは叔父さんのいる王都にも行かないといけないしね。
結局その日はセッキの村の酒場の上に泊めてもらって、翌朝ヴェルディの街へ戻った。
冒険者ギルドは朝のクエスト受注ラッシュ時間は過ぎていたようで、窓口で並ぶことなく私たちの順番がきた。
「討伐が完了しました」
討伐証明となる岩鳥の尾羽と魔石、それから私のギルドカードを窓口に提出する。
「ちょっとお待ちください」
ギルドの職員はすぐに岩鳥の尾羽が通常のものと違うことに気付いたようで、あわてた様子で席を立った。
しばらくして戻ってきた職員の手には銀貨の袋と、銀色のギルドカードが握られている。
「岩鳥の変異種であることを確認しました。クエストのランクを星三つに変更し、完了したことを認めます」
「やった」
私は思わずこぶしを握って喜びをかみ締めた。
「討伐報酬も十二枚から、二十枚に変更となります。魔石については最上級で、金貨一枚となります。換金されますか?」
「はい、お願いします」
「では、報酬と代金は銀貨でお支払いいたします。それから、ルチアさんのギルドランクについてなのですが……」
ヴィートの予想通り、試験なしでギルドランクの昇格が認められた。
若葉だったとはいえ、星三つのクエストを達成したことと、クラウディオやヴィートとの連携も問題ないと彼らが推薦してくれたことで、ちょっと異例のことながらギルドランクの昇格が決定した。
そんなわけで、私は討伐報酬の銀貨二十枚と魔石の代金、銀貨十二枚と合わせて三十二枚、それから赤銅色から銀色に変わったギルドカードを受け取った。
報酬の分配と今後のことを話し合うために、一旦窓口からギルド内のカフェっぽいところに移動した。
ここでは昼間は飲み物やちょっとした軽食を、夜になるとお酒も提供しているらしい。
とりあえず私はいつものようにジュースを注文した。
お子様だと二人に笑われたけど、気にしない。
「じゃあ、分配するか」
最初に報酬は山分けと決めていたので、まずは銀貨を一人十枚ずつ分けてテーブルの上に山を三つ作る。これで三十枚。残りの二枚はクラウディオとヴィートの山に一枚ずつ追加する。
「ルチア、一枚、多いぞ」
「いいの。私あんまり役に立てなかったから……」
がんばってくれたのは、オルテンシアだもの。
オルテンシアのことを思い出すと、どうしても落ち込んでしまう。
ドラゴンが最強だなんて、絶対に嘘だ。
本当に強かったら、契約している精霊に無茶をさせるなんてしない。
「じゃあ、これはギルドランクの昇格祝いだ。とっておけ」
ちょっと落ち込んでいた私に、ヴィートが自分の分の山から一枚の銀貨をすっと滑らせて、私の分の山に追加する。
「では、俺からも、昇格おめでとう」
クラウディオもまた、自分の山から銀貨を一枚私の山に移動させた。
「いいの?」
「ルチアが役に立てなかったということは無い。きちんと自分の役割を果たしたんだ。胸を張って受け取ればいい」
「そう……かな」
「俺たちが、いいと、言っている。気にするな」
「うん。……ありがと」
それぞれに分配した銀貨を片付けると、ちょうど注文した飲み物が運ばれてきた。
ちょっと桃に似た感じのジュースでおいしい。
クラウディオとヴィートはコーヒーっぽいものを飲んでいる。一口飲ませてもらったけど、苦くて私には無理だった。
「さて、結論を、だそう」
「何のことだ?」
クラウディオの言葉に、ヴィートは驚いている。
「このまま、パーティを、組むか、どうかだ」
そうだね。あまりにもヴィートとパーティを組んでいても違和感がなくてすっかり忘れていたけど、この岩鳥の討伐クエストを受けたのは、彼とパーティを一緒に組むかどうかを見極めるためだったね。
「あまりにも自然で、すっかり忘れていた。私はぜひ二人とパーティを組みたいと思う。どうだろうか?」
ヴィートは期待をこめた目で私たちを見つめている。
「ルチアの、判断に、任せる」
クラウディオは静かな目で私の答えを待っている。
「それなら、ぜひお願いします。私はもっと強くなりたい。ヴィートとならもっと強くなれると、思うから。クラウディオにも、もうしばらく教えてもらえると、助かります」
「もちろんだよ」
「ああ、師匠として、全力を、尽くす」
クラウディオがこぶしを握って、私のほうに突き出した。
ヴィートもそれを見て、同じようにこぶしを突き出してくる。
ええっと、何だっけ。フィストバンプだったかな?
「仲間だという合図だ」
「うん」
私はうれしくなって、同じようにこぶしを握り、付き合わせた。
「これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「よろしく、たのむ」
みんななんとなく笑顔になる。
うん。ちゃんと仲間になれたって感じがする。
「じゃあ、いずれはパーティでコルシの洞窟へ行くというのが目標でいいだろうか?」
ヴィートの提案にクラウディオがうなずく。
「迷宮に、潜るなら、最低でも、星二つまで、ランクを、上げたほうが、いい」
「あとはできるなら、回復役がほしいな」
「確かに」
「この街のギルドにはあまり登録されていないようだから、拠点を別の街に移すほうがいいかもしれない」
「コルシの、洞窟の、近くなら、多く、ないか?」
「それがいい」
二人の話を聞いていると、ダンジョンに行くにはもう少し時間がかかりそうだ。
「じゃあ、とりあえずコルシの洞窟の近くの街に移動して、回復役を探しながら、私はギルドランクを上げればいいってこと?」
「その通りだ。ルチア」
「ん」
ヴィートは大げさに手を広げているし、クラウディオは言葉少なにうなずいている。
よし。次の目的も決まったし、また、頑張るぞー!




