お買い物タイム
この街を離れると決まったら、やらなければならないことが、いろいろとある。
図書館に本を返しておかないといけないでしょ。あとはここでしか買えないものがあれば、買っておきたい。
幸いなことに、今はお財布が温かい。
「ねえ、コルシの洞窟の近くの街まで、どれくらいかかるの?」
「徒歩なら、二日というところだろう。騎獣があれば一日もかからず着くだろうが」
「騎獣って、なに?」
「乗り物だ。早く移動、できる」
「ペガサスなんかだと、かなり早く移動できるぞ」
ああ、馬みたいなものか。
私の場合は自力で飛べるけど、二人の前じゃそれも無理だし、騎獣に乗るのも楽しそう。私の持っているお金で買えるかな?
「それって売ってるの?」
「売ってる、が、高い」
クラウディオは顔をしかめている。
「え、いくらくらい?」
「金貨十枚はするな」
ヴィートがにやりと笑った。
「うわっ、高っ!」
そんなの高くて買えるわけないじゃない。
「では、予定通り、徒歩で」
「天幕は持っているのか?」
「ううん、持ってない」
街にいる間はずっとクラウディオと一緒の宿だったし、この街の近くに来るまでは飛んできたので、野宿する必要も無かったから、天幕はいらなかった。
「毛布とかで十分だと思うけど……」
「雨が降ったら無理だろう?」
それもそうか。
「じゃあ、必要なものを買いに行くか?」
「うん」
私はヴィートの誘いにうなずいた。
「俺も、行く」
そんなわけでなぜか三人で買い物をすることになった。
まずは図書館に寄って本を返すことにする。
新しくなったギルドカードをかざして入館し、絵本と文字の勉強用の本を司書さんに返そうと荷物から取り出す。
「ルチアは文字を勉強しているのか?」
「うん。クラウディオに教えてもらって、だいぶ書けるようになったの」
「あ、その絵本は……」
ヴィートが絵本に目をとめた。
この絵本は勉強にはとても役立ったけれど、ドラゴンが完全に悪者だったのが私としてはいただけない。
ある山を住処にしているドラゴンがいて、そのドラゴンが怖くて付近の住民は山に入れない。そこで住人たちは通りがかった主人公である旅の冒険者にドラゴンを倒してくれるよう頼み込む。主人公はドラゴンを倒した挙句、大事に溜め込んでいた宝石や宝物を奪っていく、というお話だ。
勝手にドラゴンの巣に侵入した挙句、殺して奪って行くなんて、私からみたら主人公はただの強盗だよ? もう。
「ヴィートも読んだことあるの?」
「ああ、だが私はあまり好きではない」
「そうなの?」
ここにも私と同じく、ドラゴンが悪者であることが許せない人がいたのか。うれしいな。
「ドラゴンは、旅の冒険者一人にあっさりとやられるところが、気に入らないのだ。本物のドラゴンならば、冒険者が束になってかからなければ到底倒すことは叶わないだろう。そんなにドラゴンが弱いはずが無い。ドラゴンとはもっと偉大で、敬意を払うべき存在なのだ」
あ、そっち?
思いがけずヴィートがドラゴンのことを尊敬してくれていると知って、ちょっとうれしさがこみ上げてきた。
「そっか」
本と引き換えに保証金である銀貨五枚を返してもらう。
「お待たせしました」
「さて、じゃあ次は食料かな?」
「ついでに、いろいろと、買い揃えるか」
ヴィートとクラウディオに促されて、次の目的地に向かう。
雑貨店は冒険者にとって一つのお店で大体必要なものがそろう場所だという。
クラウディオに案内された雑貨店は、田舎の金物屋さんという雰囲気がしていた。
天幕がほしいというと、すぐにおじさんが店の一角に案内してくれる。
「この辺が一人用だね」
天幕はよくしなる素材が骨として使われていて、使わないときは傘のようにたたんで小さくしまっておけると、説明してくれた。
「いくらですか?」
「銀貨六枚だよ」
うーん、迷う。
所持金は、クエスト報酬と本の保証金が戻ってきたので、二十枚以上になっている。でも銀貨六枚となると、そこそこ大きな出費なので、ためらってしまう。
「今なら収納用に、圧縮魔法のかかった袋もお付けして銀貨十枚。いかがです?」
ちょっと、通信販売みたいなお勧めはどうかと思うよ?
店員が手にした布の袋を見ていると、私の記憶に触れるものがあった。
あ! 圧縮魔法だったら、私、持ってた気がする。
ごそごそと荷物を探って、麻袋を取り出す。
ビオラに教えてもらって、時魔法をかけて作った魔道具だ。なぜか圧縮魔法までついてしまったけれど、これが使えるのではないだろうか。
袋の口を絞っている紐の端に魔石がついていて、それが魔法を維持するための魔力になっている。
「これに入れるから、天幕だけ買いたいです」
「ルチア、それ……」
クラウディオがあきれた表情で絶句している。
「圧縮魔法だけじゃないな」
ヴィートの顔も十分怖い。
「うん。そうだよ」
「あとで話がある」
「わかった」
体育館の裏に呼び出された気分って、こんなのだろうか。呼び出されたこと無いからわからないけど。
店員さんも私の魔道具を見て何か言いたげにしていたけれど、結局何も言われなかった。
結局、その雑貨店で天幕と毛布と、金属製のコップを銀貨八枚で購入した。まとめて買うから安くしてくれと、ヴィートが交渉してくれたのだ。
「調理器具は、本当に、いらない、のか?」
「うん。私、果物しか食べないから」
クラウディオに念を押されたけど、料理はしないから調理器具は必要ない。水を飲むのにコップさえあれば十分だ。
火をおこすなら魔法でいけるしね。
「好き嫌いしていると、大きくなれないぞ?」
ヴィートがたしなめるように頭をぽんぽんと撫でてくる。
「好き嫌いで食べないわけじゃないよ。私には必要ないだけ」
「竜人は果物しか食べないのか?」
「パンとかも食べられるけど、果物のほうがすき。あとは野菜を少し」
とか答えてみるけど、実のところ竜人がなにを食べているかなんて、私は知らない。
「じゃあ、次は、食料品の、店だ」
「はーい」
私は買った品物を次々と麻袋に詰め込んでいく。袋の入り口さえ通ってしまえば、あとはするりと袋のなかに消えていく。
なかなか便利な道具だ。
次に立ち寄った食料品の店では、果物を買い足す。
桃もどきと、リンゴもどきと、オレンジもどきをそれぞれ十個ほど。
麻袋には時魔法もかかっているので、腐ることは無いだろうと考えて、少し多めに購入した。
しめて銀貨二枚なり。
ああ、所持金がどんどんと減っていく。
それでもまだ銀貨十枚以上はある。無くなったら稼げばいいのだ。
クラウディオとヴィートもそれぞれで食料を調達していた。さすがに果物ではなく干し肉や干物、穀物などの携帯食だったけれど。
買うべきものは買ったし、すべきことも終わった。
よし、今夜はゆっくり休んで、明日はいよいよ出発だ。




