討伐クエスト
「だけど、私が受けられるのって、若葉マークのクエストだけだよ?」
一緒に受けるって、できるの?
私は疑問をクラウディオにぶつけた。
「できるよ。パーティを組めば、パーティの中で最もギルドランクの高いメンバーと同じクエストを受けられる。普通はメンバーの平均くらいのクエストを受けることが多いけどね。クエストのランクはあくまで目安でしかないからな」
クラウディオが口を開くよりも先に、ヴィットーレが説明してしまう。
もう、強引だなぁ、この人。
「私はギルドランクが星四つだから、クエストは選び放題だぞ?」
「と、言われてもさすがに星四つは無理じゃない?」
「ルチアが、受けるなら、星二つまでに、しておけ」
やっぱりそんなものだよね。
「んーと、星二つのクエストは……」
クラウディオが無言で私を持ち上げて、掲示板を見せてくれる。
流石師匠ですね。
「これなんかはどうだ?」
ヴィットーレが指したのは、魔物退治らしかった。
まあ、そういうクエストじゃないと、一緒に戦ってみるという目的は達成できないよね。
「いいんじゃ、ないか?」
「じゃあ、これにする」
私は掲示板からクエストの張り紙をはがした。
「少し待て。先にパーティ登録をしておこう」
クラウディオに下ろしてもらって、ギルドの窓口に行こうとしてヴィットーレに呼び止められた。
おお、忘れてた。
三人で窓口の近くにある魔道具に近づく。
「ギルドカードを出せ」
私は腰の物入れを探って、ギルドカードを取り出した。
クラウディオもヴィットーレも首元を探ってカードを取り出している。
ギルドカードを魔道具にかざすと、一瞬カードが光った。
パーティのメンバーの名前が、カードの隅っこに刻まれていた。
クラウディオ、ヴィットーレ、ルチア。おお、パーティだ。
「よし、いいぞ」
許可が出たので、私は張り紙をもって窓口に向かった。今日は窓口がいつもよりすいていて、すぐに私の順番が来た。
「岩鳥の討伐クエストですね。討伐証明として、尾羽を持ち帰ってください」
討伐したことを証明するために倒した魔物の一部を持ち帰らないといけないらしい。
「お気をつけて」
「はーい」
私はギルドカードを返してもらって、クエストを受注した。
「さあ行こう。すぐに行こう」
ヴィットーレが私の背中を押して、すぐにもクエストに出発したそうだ。
「まて、お前は、いいかも、しれないが、ルチアには、準備が、必要だ」
「うん」
やっぱり事前調査は大事だよね。
岩鳥がどこにいるのかとか、そこからわからないんだもん。
早速図鑑を開いて、岩鳥の生態を調べる。
その名の通り、岩場に住む鳥らしい。なになに、弱点は風魔法って、そういうことか。
きっとクラウディオはそういうことも考慮に入れて、クエストを選んでくれたのだろう。
ちょっと待って、この魔物、毒攻撃とかしてくるの!?
「クラウディオ、これ毒攻撃ってあるけど」
「ああ、毒霧を吐く。薬草を、口に、当てておけば、大丈夫だ」
「私が持っているぞ」
ヴィットーレが満々の笑みで葉っぱを差し出してきた。
この人、いやに準備がいいな。
「このシレアの葉をバンダナに挟んで、口と鼻を塞いでおけば毒霧は防げる」
「ほほう」
私はありがたくヴィットーレからシレアの葉を受け取った。
「じゃあ、パーティを組んだことだし、改めて自己紹介するね。ルチアです。マリーニ山脈の近くの村出身で、十五歳。魔法使いです」
十五歳と言ったところで、ヴィットーレの目が大きく見開かれる。
うん、見えないって言いたいんでしょう。知ってるよ。
「クラウディオ、二十五歳。ギルドランクは、星三つ。ザナルディ、出身だ。戦士を、している」
クラウディオが隣の国の出身だというのは知らなかった。
どうして隣の国のこんなところまで、クラウディオがやってきたのか気になるけれど、互いの素性はあまり詮索しないのが冒険者の間では常識らしい。
「私の名はヴィットーレ。長いのでヴィートと呼んでくれ。年齢は二十五歳、見てのとおり騎士だ。サデーロから来た」
サデーロって確か王都だよね。ラウル叔父さんが住んでいるところだ。
ギルドランクが若葉から卒業したら行ってみたいなあと、思っている。
「クエストの報酬は等分でいいな?」
「うん」
「それでいい」
ヴィットーレ改め、ヴィートの提案に私とクラウディオはうなずいた。
そんなわけで私たち三人は、岩鳥の討伐依頼をこなすべく、ヴェルディの街を旅立った。
そもそも討伐依頼を出したのはセッキの村という所らしい。
歩いて一時間ほどの場所にある村に向かう途中、ヴィートが依頼の内容を説明してくれた。
岩山から切り出した岩を、建材として販売するのがッキの村の主な産業となっていて、近くに岩鳥が住み着いてしまい、毒霧を吐くために岩山に近づけなくて仕事にならないと、ギルドに討伐を依頼したそうだ。
「困っている人を助けるのも大事な冒険者の仕事だ」
ヴィートの言い分も正しいとは思うけど、実際のところ私にはそんな余裕はない。
ドラゴンの姿ならばともかく、今の私ではちょっと苦戦しそうな予感がしていた。
道中は魔物に遭遇することも無く、あっさりと小一時間ほどでセッキの村に到着した。
クラウディオの提案で、一旦村に寄り、岩鳥について新たな情報が無いか確認することになった。
セッキの村は切り出した石が特産品というだけあって、立派な石造りの建物が並んでいた。
冒険者の姿が珍しいのか、村人からの視線をものすごく感じたけれど、遠巻きに様子をうかがっているだけで、話しかけてきたりはしなかった。
情報を求めて入った酒場には、岩鳥の所為で仕事にならないのか、昼間から屈強な男たちがたむろしていた。
ヴィートがパーティを代表してカウンターの中にいたマスターに話しかける。
「岩鳥の討伐依頼を受けて来たのだが、詳しい話を知っている者はいないか?」
「おお、退治しに来てくれたのか!」
周囲の男たちが一気に盛り上がった。飲んでいた酒のグラスを置き、ヴィートに近づくと、口々に自分たちが知っている情報を語り始める。
「かなりでかいぞ」
「あの毒霧はヤバイ」
厳つい姿の男たちが口々に岩鳥について教えてくれたが、あまり新しい情報はない。
彼らも生活がかかっているから、その表情はとても真剣だ。質問にとても協力的に答えてくれた。
「数は? 一匹だけなのか?」
「俺が見たときは三匹いた」
「俺は二匹だな」
みんなの証言を突き合わせると、少なくとも三匹ぐらいはいるみたいだ。これはなかなか役に立つ情報なんじゃないかな?
「ま、何とかなるだろう」
「行ってみるほうが、早いな」
酒場での情報収集は切り上げて、ここに来た目的である岩鳥の討伐に向かうことになった。
店を出ようとしたとき、マスターが私たちを呼び止めた。
「大昔にも、岩鳥が現れたって話を聞いたことがある。そのときは一匹だけしかいなかったが、倒すのにすごくてこずったという話だ。あんたらも、くれぐれも注意してくれよ」
「わかった。情報提供に感謝する」
ヴィートがさわやかな笑顔を見せながらマスターに別れの挨拶をして、私たちは酒場を出た。
「気になる、な」
「ああ、一匹だけというのが解せない」
クラウディオとヴィートは真剣な面持ちで話し合っていた。
私のほうはといえば、これから初めてパーティで戦うことに緊張していて、そんな彼らの間にある微妙な緊張感に気付けなかったことを、あとで後悔することになる。
岩鳥が住み着いた岩場は村のすぐ後ろに広がっていた。
ヴィートが先頭を進み、そのうしろにクラウディオと私が続く。
パーティで戦う時は盾持ちが先導するのが一般的らしい。
とにかくヴィートの前に出るなと、クラウディオとヴィートの二人がかりで、くどいほど念を押されたので、私はおとなしく彼らのあとについていく。
小さな石ばかりだった道に、次第に大きな石が混ざり始める。
大きな岩が所々に見かけるようになった頃、クラウディオがシレアの葉を口に当てるよう指示してくる。
「そろそろ、口に当てておけ」
私はバンダナの間に葉っぱをはさみ、頭のうしろで結んだ。
「よし」
ちょっとツンとした匂いがするけれど、これだけで毒を防げるなら、我慢だ。
「お目当てじゃないが、来るぞ」
ヴィートの声に顔を上げると、トカゲに似た魔物が姿をあらわす。
「岩トカゲ、だな」
クラウディオが静かな声で魔物の名前を教えてくれた。
身体を覆っているのは鱗ではなく、岩のようだ。カメレオンみたいな擬態能力があるのかもしれない。
「来いっ!」
ヴィートが剣と盾を構え、魔物を挑発する。
クラウディオは戦斧を手に、攻撃する隙をうかがっている。
私は腰からワンドを取り出し、いつでも魔法を放てるよう構えた。
岩トカゲが跳躍し、ヴィートに飛び掛る。
ヴィートは盾で岩トカゲをはじく。
クラウディオはバランスを崩してよろめいた岩トカゲの腹部に戦斧を振り下ろした。
クラウディオの攻撃は岩トカゲに当たったが、止めを刺すには至らない。
岩トカゲが後ろへ飛び退ったのを見て取ったクラウディオも、一旦距離をとる。
「ルチア、やれ!」
私はクラウディオの掛け声に従って、ワンドを振りかざした。
深緋、ファイアボール!
私の放った魔法は、狙い通り岩トカゲに命中した。
岩トカゲは炎につつまれた。
けれど、あまり効果はなかったらしく、岩トカゲは炎を纏ったままヴィートに噛みつこうとする。
「水魔法を使え」
危なげなく剣で岩トカゲをはじいたヴィートが、アドバイスをくれる。
わかった。水魔法だね。
青藍、ウォーターフロー!
地面から水柱が立ち上り、岩トカゲを飲み込む。
水柱が消え、地面に残った岩トカゲは明らかに動きが悪くなっていた。
クラウディオはその隙を逃さず戦斧を振り下ろし、岩トカゲの息の根を止めた。
「ふう。初めてにしてはまあまあだな」
剣を鞘に仕舞いながら、ヴィートが満足げに笑った。
「悪くない」
クラウディオも言葉少なに褒めてくれたので、良しとする。
私は深く息を吸い込んで、身体から少しだけ力を抜いた。
パーティの仲間と連携して戦うのは、なかなか難しい。
一人だったら魔法をぶっ放していても力押しで何とかなったけれど、連携する場合は魔法が仲間に当たらないように、注意深くタイミングを計る必要があった。
しかも、初めての敵でどんな魔法が有効なのかも、教えてもらわなければわからなかった。
私にとって課題は山積みだ。
その後も数匹の岩トカゲに遭遇したけれど、ヴィートが攻撃を引き付け、私がウォーターフローを放ち、クラウディオがとどめを刺すという連携がうまくいって、危なげなく倒すことができた。
声をかけられなくても、攻撃のタイミングもつかめてきたし、自分が少しは成長できたようでうれしい。
なるほど。これがパーティでの戦い方というものなのか。
確かに、自分の役割に集中することで、効率よく敵を倒せる気がする。
そうしてセッキの村が見下ろせるほどに登ってきたあたりで、ようやく目的の岩鳥の姿が目に入った。
「まずい、変異種だ!」
岩陰に身を潜め、魔物の様子を観察していたヴィートがあせった表情をしている。
クラウディオも無言のまま、眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
「変異種って何?」
聞いたことの無い言葉に、私はひとり首をかしげていた。




