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出会いの予感

 私が魔改造してしまった袋を見つめていたビオラが、急に何かに気付いた表情で、顔を上げた。そして、ふいに水の中に姿を消してしまう。

「どうかしたのか?」

「っわ」

 背後から、声をかけられて私は飛び上がった。

「クラウディオ!」

 あわてて振り向いて、クラウディオの姿を目にした私は、ビオラの姿を彼に見られたかも知れないと心配になった。

「見た?」

「何を?」

 どうやらクラウディオの目に、水の精霊の姿は見えなかったようだ。

 彼は魔法が使えないと言っていたから、何ら不思議ではないけれど。

 私はほっとしてため息をこぼした。

「そういえば、見つかったの?」

 確か、クラウディオはサップの実を探していたのではなかっただろうか。

「ああ」

 クラウディオは手にしていた実を見せてくれた。

 赤くてとげとげしている。

 ん、どこかで見た気がする。

 私は見覚えのある外見に、首を傾げた。

「あ、これ、見たことある」

「どこで、見た?」

「あそこ」

 私は頭上を指で示した。

 クラウディオが頭上を仰ぐ。

「ああ」

 水辺に生えた木の上に、ぐねぐねと蔦が絡みついている。その隙間から、赤く特徴的な実が見えていた。

「ルチア、でかした」

 クラウディオは手にしていた実を袋にしまうと、背負っていた斧をつかんだ。彼の目は笑っていないけれど、口元が吊り上がっている。

 斧なんて出して、どうするの?

 私の疑問はすぐに解消した。

「下がって、いろ」

 クラウディオはそれだけ言って、戦斧を振り回し始めた。

「ええっ?」

 砲丸投げのようにぐるぐると斧を振り回していたかと思うと、そのままの勢いで蔦の絡まった木に斧を叩きつけた。

 ズシーンという低い音がして、木の上からばらばらと実が落ちてくる。

 なるほど。クラウディオは木を登って実を取るという選択ではなく、力づくで実を採取する方法を選んだらしい。

 斧だから、間違ってはいないんだろうけれど、いや、でも……。ちょっとどうかと思うよ?

「ルチアも、拾え」

「はーい」

 自分が拾った分は、私のものにしてもいいらしい。

 換金できるなら、拾っておこう。

 私は地面に散らばった実を拾って、先ほど魔改造してしまった袋に入れていく。

 きちんと状態を保ってくれるのか、ちょうどいい実験になりそうだ。

 クエストの達成に必要な素材採集を終えた私とクラウディオは、意気揚々とヴェルディの街に戻った。

 ラップの葉が入った袋とギルドカード、そして魔物を倒して得た魔石をギルドの窓口に提出して、私の初クエストは本当の意味で完了した。

「ふっふっふ~」

 返してもらったギルドカードと、銀貨三枚。そして、ギルドに渡したラップの葉は達成条件の十枚ではなく、二十枚。余分に採集した十枚が銀貨一枚で、魔石が銀貨一枚というわけだ。

 六枚と半分しかなくなってしまった所持金が、九枚と半分まで回復した。

「おい、サップの実も、持って、いただろう?」

「あ!」

 自分の受けたクエストではなかったので、完全に忘れていた。

 ごそごそと背中の物入れを探って、実を取り出す。私では受けられない星三つのクエストなので、クラウディオに渡して換金してもらう。

 なかなか保存状態はいいみたい。いい道具ができた。

 私が拾った実は二つだけ。それなのに、銀貨六枚になった。やっぱりギルドランクが上がると報酬もいいクエストが受けられるんだなぁ。

 私も早く若葉を卒業して、星をもらうんだ。そのためには、クエストを地道にこなしていくしかない。

 明日も、頑張るよ~。


 そして、次の日。

 今日もクラウディオと一緒にクエストを受けるつもりだ。

 ん~、今日は何かいい依頼がないかなー?

 今日もクラウディオに持ち上げてもらって、掲示板の張り紙をチェックする。

 昨夜も彼に文字を教えてもらって勉強したから、少しずつ読める文字が増えてきている。

 今日は、これかな?

 私は一つのクエストを選ぼうとしていた。

「お前が、最近噂になっている竜人(りゅうじん)の冒険者か?」

 んん?

 クラウディオに持ち上げられたまま隣を向くと、金髪の騎士が、いた。

 尖った耳と、白い鱗に覆われたしっぽが見えているので、否定しても無駄だろう。

 私は騎士の問いにうなずいた。

「何か?」

「おお、やはりか!」

 騎士は嬉しそうに顔をほころばせた。

 クラウディオが持ち上げていた私を床に下ろしてくれた。

 改めて、ゆっくりと目の前の騎士を観察する。彼は腰に細身の剣を下げ、背中には逆三角形の盾を背負っていた。

 淡い金色の髪に、透き通った空色の瞳をした騎士は、いかにも好青年といった容貌をしていた。

「失礼した。私はヴィットーレという。騎士だ。お前の名を教えてもらえるか?」

「ルチアだけど……」

 本当に何の用だろう?

 この人もクラウディオほどではないけれど、そこそこ背が高い。大きく見上げなければ視線が合わないので、ああ、首が疲れるよ。

「ルチア、俺とパーティを組んでくれないだろうか?」

「待て」

 ヴィットーレの願いと、クラウディオの制止の言葉がかぶる。

「んん?」

 パーティって?

「それは、俺の方が、先約だ。遠慮して、もらおう」

「そうか……。ならば、仕方がない。貴殿も含めたパーティでも構わない。見たところ戦士のようだから、役割的にも問題はないだろう」

 クラウディオはヴィットーレを睨みつけている。

「パーティって、なに?」

 私はクラウディオの手をつついて、注意を引いた。

「ルチアは、知らないか……。冒険を、共にする、仲間の、ことだ」

 ああ、社交的な方じゃなくて、そっちのパーティね。登山の時とか、前世でファンタジーなゲームで遊んだ時に、仲間を連れていたけどあんな感じかな。

「パーティって、何かいいことあるの?」

「ルチアはパーティについて、知らないのか?」

 私の問いをヴィットーレが遮った。

 なんだか、彼の仕草がいちいち貴族的と言うのだろうか、ちょっと大げさで鼻につく。

「こいつは、まだ若葉だ」

 クラウディオが私をかばうようにヴィットーレとの間に身体を割り込ませた。

 確かに私のギルドランクは若葉で、知らないことばかりだ。

「ああ、それなら知らなくとも不思議はないな。冒険者が強い魔物と戦う時はパーティを組んで役割を分担するのだ。敵の注意を引き付け、高い防御力で皆を守る盾持ち(タンク)、防御よりも攻撃を優先し、敵をせん滅する攻撃役(アタッカー)、回復魔法や補助魔法で皆を助ける回復役(ヒーラー)というようにな」

 ヴィットーレの滔々(とうとう)とした語りに、私は黙って聞き入った。

「そうして役割を分担することで、一人が各々で戦うよりも、安全に、より効率よく魔物を倒すことができる」

「はあ……。何となくわかりました。でも、どうして私を誘おうと?」

 目の前のヴィットーレはともかく、クラウディオも私をパーティに誘おうとしていたみたいだけれど、私みたいな冒険者としては初心者をどうして誘おうとするのかわからない。

 ヴィットーレは片膝をついて私に視線を合わせると、まじめな顔つきで私に問いかけた。

「魔法使いが少ないということは、知っているか?」

「うん。クラウディオが教えてくれたからね」

「そうか……。ここから南の方に行くと、コルシの洞窟という迷宮(ダンジョン)がある。そこに出現する魔物には、魔法が一番有効なのだ。コルシの洞窟を攻略するために、お前の助力を得られればと思ったのだが。そうか、若葉か……」

 ヴィットーレは片方の手を顎に当てて、考え込んでいる。

 そういうことなら、今の私では彼の役には立てないだろう。ワンドを手に入れたおかげで魔法の威力は上がったけれど、まだまだ魔物を危なげなく倒すという所には至っていない。

 迷宮(ダンジョン)がどんなところなのか知らないけれど、初心者でしかない私が攻略できるほど簡単な場所なら、パーティに誘ったりはしない気がする。

「せっかくだけど……」

「だったら私が手伝おう。お前が一日も早く若葉を卒業できるように」

 ヴィットーレが私の手を取った。

「えぇ?」

 私は愕然と口を開いた。

「せっかくだが、ルチアの、面倒は、俺が、見る」

 クラウディオがヴィットーレの手を払う。

「クラウディオが師匠(メンター)だから、別にお手伝いはいらないよ?」

「そんなこと言わずに」

 ヴィットーレは私の拒否にもめげずに食い下がってくる。

 なんだか変わった人だ。

 それにしても、クラウディオもパーティを組みたいと思っているとは知らなかった。今まで言わなかったのは、私にプレッシャーをかけないためかな?

 やっぱり、私の師匠はクラウディオがいいな。

「魔法使いは別に私じゃなくても、いいでしょ?」

「いいや、お前がいい」

 この騎士は簡単に諦めそうにない。

「……どうしても、というなら、一緒に、クエストを、受けるか?」

「ええっ?」

 クラウディオがそんなことを言うとは思わなかった。



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