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採集クエスト完了

 ヴェルディの街を出て、北に向かう。

 クエストに必要なラップの葉は十枚。でも、ギルドのお姉さんはそれ以上あっても買い取ってくれるといっていたので、採り尽くさない程度にたくさん集めたい。

 クラウディオと二人並んで歩く。

 道の脇に生えている木の根元に注意しながら歩いているので、その速度はゆっくりだ。

「クラウディオも採集クエスト受けたの?」

「ああ、サップの実だ」

 クラウディオの目的のものはわからないけれど、一緒に見つかるといいな。

 三十分ほど歩いてきたのだが、なかなかラップの葉は見つからない。

「見つからないねぇ……」

「こういうことも、ある」

 街中で終わるクエストよりも簡単だと思っていたのだが、そうでもないみたい。

「あ!」

 がさごそと、茂みから魔物が飛び出してくる。

「ルチア、できるな?」

「うん」

 私は腰に下げていたワンドを素早く構えた。

 かなり大きな蜘蛛のような魔物だ。口のあたりがもごもごしてて、ああ、気持ち悪い。

 翡翠(ひすい)、ウィンドカッター!

 私は風属性の魔法を放った。昆虫型の魔物には火の魔法が一番有効だが、下手に森の中で火を使うと山火事になってしまうかもしれないので、使わないことにしたのだ。

 魔物はひらりと私のウィンドカッターをかわした。

 一瞬蜘蛛の身体が沈み込み、次の瞬間、高く跳躍して私にとびかかる。

「わあっ!」

 私は慌てて横によける。

「油断するな」

 大きな戦斧を振り回して、クラウディオが蜘蛛に攻撃を仕掛ける。

 蜘蛛はクラウディオの戦斧を恐れて、大きくうしろへ飛び退(すさ)った。

「ごめん」

 私はもう一度ワンドを構えた。

 翡翠(ひすい)、ウィンドカッター。もうひとつ、ウィンドカッター!

 今度は避けられないように、左右から挟み込むようにして魔法を発動させる。

 スパンと小気味いい音がして、蜘蛛の身体は真っ二つになった。

「よしっ!」

 今度はうまく倒せたことに、私は思わず胸の前で握りこぶしを作った。

「油断しすぎだ」

 厳しいことを言っていても、クラウディオの手は私の頭を撫でてくれる。

「はい、気をつけます」

 確かにワンドを使うようになって魔法の威力と精度が上がったことで、気が緩んでいたところはある。

 私は切断された蜘蛛の遺骸に近づいた。切断面から赤い光がのぞいている。

 やった、魔石がある。

 私は無事魔石を回収して、残った遺骸をファイアボールで焼いた。

 ん?

 ふと蜘蛛が飛び出してきたあたりの茂みが気になってのぞき込む。

「あったー!」

 そこには、ずっと探していたラップの葉があった。

 私は茂みをかき分け、ラップの葉をぷちりと一枚ちぎりとる。

 独特の青臭い香りが辺りに広がる。

 ああ、この匂い。

 やはりラップの葉は兄マウロが、私がかすり傷を負った時に取ってきてくれた薬草だ。これならば、匂いを頼りに探せばすぐに見つかりそうな気がする。

 ラップの葉を鼻に近づけると、素直じゃないけれど実はとても優しい兄のことを思い出す。

 お兄ちゃん、元気かなぁ?

 家から巣立ってから、ほとんど顔を合わせていないけれど、元気にしているだろうか。

 ほんの少しの郷愁が胸をよぎる。

「見つかったのか?」

 黙ったままラップの葉の匂いを嗅いでいた私を、クラウディオは不審に思ったのだろう。怪訝そうな顔で問いかけていた。

「はいっ!」

 私は元気よくラップの葉をクラウディオに差し出した。

「ああ、これだ」

 クラウディオにチェックしてもらった葉を、私はギルドでもらった袋に入れる。

 大きな株だったので、あと二、三枚くらい採集してもいいだろう。

 私が伸ばした手を、クラウディオが制した。

「ナイフを、使え。その方が、痛み、にくい」

 なるほど。って、持ってないよ?

 クラウディオは私が言いたいことを察したのか、黙って腰のベルトから小さなナイフを外して手渡してくれた。

「何から何まで、すみません」

 ナイフを使ってサクリと葉を茎から切り離す。三枚ほど採取したところで手を止めた。

「ん。いいだろう」

 しばらくナイフは借りておくことにして、他にもラップの株がないか、辺りを見回す。

 少し離れた場所からも、独特な薬草の匂いがした。

「あっちにもあるみたいです」

「周囲への、注意を、怠るな」

「はい」

 採集に夢中になって、魔物に襲われてはたまらない。

 私は周囲に魔物がいないことを確認して、匂いのもとをたどった。

 予想通り、匂いの先にはラップの株がいくつも群生していた。

「わあ! いっぱい!」

 私は夢中になって、ラップの葉を採取し、袋に詰め込んでいく。

 そうして、無事に十枚以上のラップの葉を採取することができたのだった。

「こんなものかな?」

 私は葉っぱの入った袋を腰のベルトに戻した。

 そういえば、この袋には時属性の魔法が使われていると、クラウディオが言っていたことを思い出す。

 クラウディオは自身のクエストのために、サップの実を探している。近くにいるはずだが、その姿は見えない。

 これ以上の採集も必要ないので、彼を待っている間に、ちょっとだけ水の精霊である青藍(せいらん)を呼び出して、聞いてみることにしよう。

 私は近くから聞こえてきた水の流れる音を頼りに、小川にたどり着いた。

「ビオラ」

 私は青藍を真名(まな)ではなく、私がつけた名前で呼んだ。

「はあぃ」

 いつ見ても美しい人魚の姿で、青藍は水の中から現れる。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 私が腰につけた皮の袋を指して、時属性の魔法について知っているか尋ねた。

「ああ、時属性ね……。少しだけなら使えるわよ」

「ええ、使えるの?」

「得意じゃないけどね」

 にっこりと笑うビオラの顔は、言葉とは裏腹に得意そうに見える。

「ねえねえ、私にも使えるかな?」

「ルチアにも使えると思うわ」

「本当? やった! じゃあさ、保存の魔法を教えて!」

 時を止められれば、いろいろと役立ちそうじゃない?

「んー、いいわよ。でも、時の魔法を持続させるなら、ひとときも途切れさせること無く魔力を流し続けないといけないから、魔石みたいな魔力の素がないと難しいわよ?」

「そうなんだ?」

 んーと、手持ちに使えそうな魔石はあったかなぁ。

 私はごそごそと魔石の入った袋の中を探った。ギルドで換金しなかった特級と、上級の魔石、それからさっき倒した蜘蛛から採取したたぶん中級であろう魔石がある。

 大きさの異なるものをいくつか取り出して、ビオラに見せる。

「そうね、これならいいかしら」

 ビオラは私の手のひらに乗せた魔石の中から、上級の魔石を選んだ。

「ただし、範囲をきちんと決めないとダメよ。その袋みたいにね」

 つまり、ギルドからもらった袋はこの中だけだと限定して時の流れを止めているってことかな。

「まあ、その袋に掛けられた魔法にしても少しは時間が流れているから、厳密には完全に止まっているわけじゃないのよ」

「そうなの?」

「ええ」

 ビオラがうなずく。

「その空間に存在する可能性としての時間を圧縮して、そのエネルギーを留めるの。そして、その維持のために魔力を永続的に流し込めば、その魔道具のようになるわ」

「ん? 可能性としての時間? 永続的?」

 残念ながら、私にはビオラの言わんとするところがよくわからない。

 頭をひねっている私に、ビオラは残念そうにため息をついた。

「ルチアに言っても仕方がないわよね。まあ……そうね、その魔石を糧として、限られた空間だけ時間が止まればいいと願えばいいのよ」

「それだけ?」

「そうよ」

 ビオラがまとめてくれた言葉に、ようやく私はほっとする。

「わかった。やってみる」

「あ、なにか空間を区切るようなものがあったほうがいいわ。その袋みたいに」

 ビオラの助言を参考に、私は背中の荷物から一つ袋を取り出した。

 果物を入れてあった、何の変哲も無い麻の袋だ。もちろん中身はもう私のお腹の中。

 私は魔石を手に、願った。

 この袋の中に入れたものの時が止まればいいな、と。

 ふわりと魔力が流れ、手ごたえを感じた。

「できた!」

 私にも時属性の魔法が使えたみたい。

 飛び上がって喜ぼうとして、ビオラの声に呼び止められる。

「ルチア、これちょっと違うわ……」

「んー? できたと思ったんだけど、失敗?」

「ううん。これ、保存の魔法だけじゃなくて、圧縮もかかってる」

「どういうこと?」

 愕然としたビオラの表情に、私は一気に不安になった。

「ああっ、もう。この袋の容量以上のものが入るってこと」

 おお! それはもしや○次元ポケット的な?

 私の目はきらりと輝いているに違いない。


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