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クエストという名のおつかい

 たくさんの買い物を終えて、私の財布はすっからかんだ。

 ギルドに預けてある銀貨は、いざというときのためにとっておきたい。

 ということで、さっさとクエストを受けてお金を手に入れなければ、泊まるところにも困る事態となっている。

 最悪の場合、どこか森の中でドラゴンの姿に戻って夜を過ごすという手があるが、これは最終手段だ。

 私はまずやらなければならないことを、頭の中でリストアップした。

 とりあえず、今夜の宿を確保するのが一番の優先事項だろう。

 クエストは明日から受けるにしても、ギルドの掲示板に張り出されたクエストの内容を自分で読めるようにしておきたい。

 というわけで、二番目は文字を勉強すること。

 宿で落ち着いてやりたいなぁ。

「クラウディオ、安い宿を知っていたら、教えてもらえませんか?」

「どういう、ことだ? べつに、俺と同じ、宿で、いいだろう」

「いえいえいえ。さすがにメンター登録までしていただいて、クラウディオにはお世話になりすぎです。泊まるところくらいは自分で……」

「金に、余裕が、ないのだろう?」

「まあ、そうなんですけど……」

 お財布事情は、クラウディオのほうがよく知っているかもしれない。

「それに、あんたの、見た目で、しかも、一人で、宿に泊まるのは、危険だ」

 んー、心配してくれるのはありがたいけど、そこまでクラウディオにお世話になっていいものか、判断がつかない。

 いくらなんでも、自分にとって彼の存在は都合がよすぎる。

「でも……」

「女一人で、泊まれる、宿は、高い」

 そういわれると弱いのだ。手持ちの銀貨は六枚と半分。

 まだクエストを受けていない私には、報酬がどれくらいになるのかわからない。

「はあっ……」

 気はすすまないが、ここはクラウディオの好意に甘えることにしよう。とりあえず、今夜だけでも。

「じゃあ、お言葉に甘えて、お願いします」

「ん……」

 ようやくうなずいた私に、クラウディオは満面の笑みを浮かべていた。

 そんな経緯があり、私は再び昨夜と同じ宿に戻ってきた。

 宿の主人は私とクラウディオの姿に、器用に片方の眉を上げた。

「おかえり。お嬢ちゃんも」

「お世話になります」

 私は主人に向かって軽く頭を下げた。

 その夜、私はクラウディオに文字を教えてもらった。

 借りた本をお手本に、文字を書き写し、数字だけはなんとかマスターした。アラビア数字に似ていて助かった。

 そして気づけば、褐色の肌が視界いっぱいに広がっている。

「なーっ!!!」

 相変わらず心臓に悪い。

 私は昨日の朝と同じくクラウディオと同じベッドで目覚めた。どうやら勉強中に寝落ちしてしまったようだ。

「おはよう」

 面白がるような真っ赤な目と視線がぶつかる。

「おはよう……ございましゅ」

 か、噛んだ。

 私は動揺のあまり、舌を噛んでしまった。まるで子供の頃のようで恥ずかしい。

「今日は、クエスト、受けに行くぞ」

「はいっ!」

 私は元気よくベッドから飛び降りた。

 それにしても、クラウディオは寝るときにはパジャマを着ない主義のようだ。私を同じベッドに入れてくれるのならば、シャツの一枚くらいは着ていてほしいと、切に願う。

 私は部屋を出て、廊下の先にある共同の洗面所に向かった。

 踏み台に乗って蛇口をひねり、顔を洗って、歯を磨く。

 この世界の文明はそこそこ進んでいるようで、きちんと水道が通っていて、蛇口をひねれば水が出てくる。

 身支度を済ませ、朝食を食べたら準備は万端(ばんたん)整った。

 今朝もギルドは多くの冒険者で混み合っている。

 私はクエストが貼られた掲示板の前に立った。

 くうっ。届かない!

 ぴょんぴょんと、飛び上がってみるけれど、クエストの内容はよく見えない。

 あたりを見回しても、踏み台になりそうなものは見当たらなかった。

 ふいに、持ち上げられる感覚がして、視線がぐっと上がる。

「え?」

 驚いて見上げると、クラウディオが脇に手を差し入れて、私の身体を持ち上げていた。

 腕の力だけで持ち上げているように見えるけれど、あの重そうな斧を振り回しているのだから、彼にとってはたやすいことなのかもしれない。

 クラウディオのおかげで、掲示板がよく見える。

「ご迷惑をおかけして、すみません」

「いい。ほら、クエスト、受けるんだろう?」

 そうだった。

 私は掲示板に貼られたクエストの中で、若葉マークのついたものを探す。

 数十枚のクエストが貼られた中で、私でも受けられる若葉のマークがついたものは、三枚しかなかった。

 これは、さいしゅう、ああ、採集かな?

 まだあまり文字は読めないが、昨夜クラウディオにクエストで使いそうな文字を優先的に教えてもらったので、所々は読めるようになっている。

 ん? ちょっと、待って。

「クラウディオ、これって採集であってる?」

「ああ。ラップの葉の、だな。薬草の採集だ」

 うんうん。きっとそんなクエストだと思ってた。

「これって、もしかして、配達?」

「ああ。荷物の配達だな」

「で、これは?」

 私の声はどんどん低くなっていく。

「買い物、リスト、だな」

「これって、別に冒険者じゃなくてもできるよね?」

 薬草の採取はまだわかるけれど、荷物の配達とか、買い物って……。

 私は失望を隠せなかった。

「お嬢チャン、そんなにばかにしたもんじゃないぞ?」

 すぐ隣でクエストの張り紙を見ていたおじさんが、苦笑しつつ声をかけてきた。

「どうしてですか?」

「ギルドカードってのは、便利だろう?」

「そうですね」

 お金を預かってくれるような銀行みたいなこともしているし、図書館でも使えた。きっとほかの場所でも身分証明書のように使えるのだろう。

「だから、戦える者だけがギルドに登録しているわけじゃないってことだ。こんなふうに、街の中で危険が少なくこなせるクエストでも、必要としている奴がいるんだよ。その分、報酬は少ないけどな」

 クラウディオと同じくらい背の高いおじさんは、私が見ていたクエストの張り紙の一つを指した。

 荷物の配達のクエスト報酬は、一日で半銀貨一枚となっている。

 薬草採集の銀貨一枚は採集には一日もかからないと思うから、そう考えると確かに安い。

「なるほど」

「それに、この買い物のクエストなんかは、足が悪くて買い物に行けないご老人からの依頼だ。みんなの役に立つことも大事だろう?」

「そうですね」

 冒険者ギルドが派遣会社とかハローワークに似ていると感じたのも、間違いではなかったようだ。

「そういうことで、お嬢チャンにお勧めなのは、この買い物クエストだな」

 おじさんはにやりと笑って、クエストの紙を指す。

 ふふん。だけど、私が選ぶのはそれじゃないよ。せっかく冒険者になったのだもの。それらしいことをしたいじゃないか。

 私は薬草採集の張り紙をはがした。

「クラウディオ、これにします」

「ん……」

 クラウディオは抱き上げていた私を床におろしてくれた。

「おいおい。大丈夫かよ……」

 おじさんは心配そうにつぶやいている。

「大丈夫です。私魔法使いですから!」

 後ろでおじさんがえっと驚いたような気配がしていたけれど、こんな子供が使えるのかって心配しているのかな? まあ、私には関係ないし、気にしない。

 私は期待に満ち溢れた表情で、クエストの受付窓口に並んだ。

 クラウディオは何も言わずに私の後ろに並んでいる。

 私がおじさんと話しているうちに、彼も何かクエストを見つけたようで、張り紙を手にしている。

 うん。私につき合わせてばかりで、かなり申し訳ない。

 列が進んで私の番が来た。

「お願いします」

 私が何とか張り紙を窓口のカウンターの上に乗せると、見かねたクラウディオがすかさず抱き上げてくれた。

 すまないねぇ。クラウディオ。

「ギルドカードをお出しください」

 ポケットをごそごそと探って、ギルドカードを差し出す。

 私もクラウディオみたいに鎖をつけて首から提げておこうかな。

「採集したラップの葉はこの袋に入れてください。三日以内に数量がそろわない場合は、クエストが失敗となり、成功報酬の二割を違約金として支払う必要がありますのでご注意ください」

 窓口のお姉さんは、慣れているのか淡々とクエストの条件や注意点を教えてくれた。

「依頼では十枚となっていますが、それ以上も買い取り可能です。採取した薬草の入った袋をあちらの窓口に提出すれば、クエストが完了となり、報酬を受け取れます」

「はい。わかりました」

 私は返してもらったギルドカードと、手渡された袋を受け取った。

「なにか質問は?」

 お姉さんは、それまでの淡々とした態度からちょっと砕けた表情で、私に微笑みかけてきた。

「大丈夫です。ありがとう」

 私もお姉さんににっこり笑い返して、クラウディオに床におろしてもらった。

 クラウディオがクエストを受けているのを待ちつつ、私は手渡された皮の袋を確認する。

 なんだか袋全体がぼんやりと光って見える。

 よく見ると、袋には魔法がかけられているようだ。風火地水のいずれでもない、不思議な魔法の気配がする。

「なんだろう?」

 私が首をかしげていると、頭上からクラウディオの声が降ってきた。

「どうした?」

「なんだか不思議な魔法の気配がする」

「ああ、保存の、魔法だな」

「保存?」

 そんな魔法があるなんて聞いたことがない。おかしいな、魔法って精霊の力を借りて使うものじゃないの?

「どの属性の魔法なの?」

「時属性、だな」

 え、なにそれ?

 私は興奮して、クラウディオに詰め寄った。

「俺は、あまり、魔法には、詳しくない」

 うん。そうですよね。クラウディオは戦士だもんね。聞いた私が悪かったよ。

「その袋には、時を止める、魔法が、かかっている」

「それってすごい」

 鮮度を保つためだろうか。

 あとで、青藍(せいらん)にでも聞いておこう。

 私は契約している水の精霊に聞くことにした。魔法のことなら精霊に聞くのがいいだろう。

「じゃあ、行こう!」

「ルチア、ちょっと、待て」

「ん?」

 元気よくギルドを出て、外に行こうとした私をクラウディオが呼び止めた。

「ラップの葉が、どんなものか、わかって、いるのか?」

 あっ!

「どんな場所にあるのか、知っているのか?」

 どんなものなのか、知らないし、当然採集できそうな場所もわからない。

 私の元気は見る見る間にしぼんだ。

 ちょっと興奮しすぎて、肝心なことを忘れていた。

「……わかりません」

「こっちだ」

 クラウディオは私をギルドの一角に連れて行ってくれた。

 そこには図鑑のようなものが並んでいる。

「ここで、依頼にある、ものは、大体、調べられる。ここに、無ければ、窓口で、聞けば、いい」

「クラウディオ、ありがとうございますっ!」

 私は、早速図鑑に飛びついた。

 しかし、ラップの葉というのがよくわからない。

 どこにあるのー?

 ぱらぱらと図鑑をめくるだけの私を見かねて、クラウディオが該当するページを探し始める。

「ここだ」

 ラップの葉らしき絵があり、説明が書かれている。

 暗い、ところ?

 どうにかそんな文字を読み取って、クラウディオに確認する。

「ああ、そうだ。木の、根元に、生えて、いることが、多い」

 あ! なんだかこの絵の葉っぱを見たことある気がしてきた。

「わかりました。大丈夫です」

「こっちも、行ける」

 クラウディオも自分のクエストに必要なものを確認していたようだ。

 そうして、ようやく私は初めてのクエストに向かった。


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