俺とカレーと皆の間にあるもの・其の九
「……あ、田中。 退院おめでとう。でも、まだ休んでなくて大丈夫?」
クローブちゃんもこちらに気がつき駆け寄ってくる。
「うん、もう体はバッチリだよ。迷惑かけちゃって、ごめんね」
「ううん、問題ない」
普段と変わらなように見えて表情はやや明るく、ただ、少しだけ疲れているように感じた。
「お店の掃除、してくれていたんだね。ありがとう」
「私も田中と一緒。この店の店員の一人。店を開けれなくても管理はできる」
そういうと、胸を張ってクローブちゃんは答える。
思わず頭を撫でてしまう。
一瞬ビクりと肩を竦めるが、すぐに力を抜いて撫でられるがままになった。
掃除してくれた事もそうだが、一緒だという言葉が嬉しかった。
どこか心のなかでカレー作りしかない自分と、悪の組織である皆の中に勝手に隔たりを作っていたのかもしれない。
ただ、それは俺が勝手に作っていただけで、お見舞い来てくれた皆は、しっかりと俺を仲間の一人として認めてくれていた。
それが、たまらなく嬉しかったのだ。
不意に、小さな音が鳴り渡る。
静かな部屋に響いたのは小さな腹の虫であり、恐らくその主であろうクローブちゃんは恥ずかしそうに顔をふせていた。
「その、これからご飯を食べようと思って」
クスリと笑ってもエプロンを掴む。
「なら、久しぶりに俺が作ろうか店のオープン前にウォーミングアップだ」
そういいながら、厨房へ向かう。
「あ、その、田中……」
確か、倒れる前に冷蔵庫にはそこそこ材料が入っていたはずだ。
簡単な物ならそれなりに―
「……あれ?」
空である。
そこまで規模の大きい店ではないものの、余裕を持たせる為、そこそこ大きい業務用冷蔵庫を使っていたのだが。
調味料を残し、ほぼ空となっていたのだ。
ゆっくりとクローブちゃんの方を向けば、目を合わせぬように反らしている申し訳なそうな顔が見えた。
「その、最近ずっと田中のご飯食べてて。コンビニとかのご飯じゃ満足出来なくて、それなら自分で作る方がましかな……と考えた」
「それにしたって、冷蔵庫の中身ゼロってどういうこと!?」
冷蔵庫に満タン……とまではいかないものの、それでも一般家庭でいったら一週間分はあるであろう量を三日で終わらせたというのか?
いくらなんでもそんな量……とここまで考えて、以前彼女が一鍋分のカレーをすべて食べきった事を思い出す。
それを考えたらありえない話でもない、かもしれない。
「まぁ、無いものはしょうがないし、少し買い出しにいこうか」
「……面目ない」




