カレーと正義の交差点・其の十四
次の日もやはり、店は大盛況だった。
そして当然、人手は足りない。
クローブちゃんも俺も必死に動きまわって対応しているが、やはり限界が近かった。
だが、弱音を言っている場合ではない。今は仕事中であり集中しなければならない時なのだ。
だと言うのに、なぜ俺は昨日の事が頭から抜けないのだろう。
どんなに意識を目の前のカレーに移そうとしても義正さんの言葉が思い出してしまう。
必死に振り払おうとしてもそれが、出来ない。
「くそっ!」
自分でも驚く程、荒げた声が出てしまう。
たまたま通りかかったクローブちゃんが体をビクリと跳びあがらさせる。
「……田中?」
彼女の深緑色の目が、不安げにこちらを見つめる。
「ごめん、大丈夫だから」
そう言って彼女の視線を避けるように仕事に目を移す。
……そういえば、彼女も異能者だったはずだ。
なら、彼女も過去に何か嫌な思い出があったりするのだろうか。
いや、無いわけがないか。そうでなければ首領が彼女たちの為の世界を作ろうなどしないはずだし。
だが、そうならば俺は彼女と共に仕事をしていてもいいのだろうか?
異能者との生き方を決めきれない俺が、彼女と……彼女達とともに居ても、大丈夫なのだろうか?
モダルカンは、この悪の組織はいわば彼女たちの居場所なのである。そして、俺はそこにずかずかと入り込んできただけのただの他人だ。
フェンリルさんが俺に対してきつい言葉を掛けていたように。
ウイキョウが俺の事を認めていなかったように。
彼らからすれば、きっと俺は得体の知れない者なのだろう。
そうだというのに、二人は、そしてクローブちゃんは一時的かも知れなくても一応折れて俺を受け入れてくれた。
これは、相当勇気のいる事ではないのか?
なのに俺は、中途半端な考えで彼らと共に居る……それでいいのだろうか。
いつか、異能力者を排斥する側になるかもしれない人間が。
いつか、異能力者と敵対するかもしれない自分が。
はたして、彼女たちの仲間などと、言っていいのだろうか。
あぁ、分からない。
ぐるり、ぐるりと考えは纏まる事なく頭の中を駆け回っている。それでも、俺の心は答えがでない事に焦るが如く考えを吐き出していく。だが、それは依然自分の求めたい答えとは違かった。
っていやいやいや、仕事中だぞ今は。オーダーに集中しないと。
……あれ、そういや来店いっぱいなのになんでこんな静かなんだろう。
こんな事考えてる間にオーダーの一つや二つ、来そうな物なのに。
どうなってると、少し顔をあげる。すると。クローブちゃんが驚いた顔のまま此方を見ていた。
何故彼女はあんな顔をしているのだろう? それに彼女は固まったままなのはどういう事だ?
疑問が幾つも浮かんでは消え、頭を過ぎ去っていく。
そして、一瞬の間もなく浮遊感と同時に視界がぶれる。
真っ黒い池の中に飛び込む直前、ようやく自身に何が起きたのか気づいた。
―あぁ、倒れてるのか、俺。
気が付いて慌てて黒い池から抜けようとしてももう遅い。黒い水に落ちて、意識も目も耳も徐々に何も感じなくなっていく。
完全に沈む一瞬、最後に少しだけクローブちゃんの叫び声が聞こえたような、聞こえなかったような気がした。
だが、それを判断する事も出来ずに俺は、最後に残った意識も黒い闇に飲み込まれてしまった。
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