カレーと正義の交差点・其の八
「うう、口の中の炭の味が消えないよぅ……」
皿を洗う俺の横で、青い顔をして赤崎さんが机に突っ伏しながら呟く。
本来は後片付けまでが料理だ、とやってもらう所だがとてもそんな状況では無さそうだった。
「……まぁ、そうやって身を持って失敗を味わうのも勉強だよ」
苦笑いしながら俺がそういうと、首だけこちらに向けて俺を睨みつける。
「で、でもさ、ずるいじゃない! 田中は自分でちゃんとしたもの食べるなんて」
「そりゃ、俺まで君の失敗に付き合ういわれはないしねぇ」
「それでも! 横で美味しい物食べられてたら悔しいじゃない!」
机をたたきながら熱弁する赤崎さん。そもそも彼女の自業自得な訳なのだが。
「うちの先輩たちだったら問答無用で必殺技を打ち込むほどの所業よ……!」
「前から思っていたんだけど、君の先輩たちはほんとに正義の味方なのか!?」
「当然でしょ! 食べ物の恨みは善も悪も超越した大罪よ!」
今後、食べ物に関しては正義側と揉めたくない罪状を聞いてしまった。しかし、俺にとってはそんなに怖い物ではないはずだ。
「はぁ……はい」
頬を膨らませて、怒り心頭の赤崎さんの前に静かに器を置く。
「……え、何これ。ゼリー?」
口が広く、背の低いパフェグラスの上にはにごりなく透き通ったゼリーが乗せられていた。
「そう、レモンゼリー。そろそろ熱い季節になる頃だからね。さっぱりして具合いが良いと思うんだけど、どうかな?」
俺の言葉を受けて、赤崎さんはスッとスプーンを手に持ち掬って口に運ぶ。
その瞬間、先ほどまで怒りに染まっていた赤崎さんの顔が一気に綻ぶ。
「んーっ! 冷たくてさっぱりして美味しい!」
どうやらは、ゼリーの味は彼女を十分にご満悦させる代物に出来上がっていたようだ。
「あー、やっと口の中の不味い味が和らいできたわ」
数分立たずにゼリーを平らげ、赤崎さんは満足そうに息をつきながら顔を緩める。先ほどまで俺に文句を言っていたのも忘れてしまった様だ。
うん……ちょろい。
多分彼女の先輩たちとやらも、こんな感じで誤魔化せるんじゃなかろうか……そんな安い想像をしていると、不意に真後ろから声が聞こえた。
「お、ゼリーか? いいねぇ、ちょうど俺も甘い物がほしかったんだよなぁ」
急いで後ろ向くと、一人の男がこちらを見てニコリと笑っている。
よくよく見覚えのある顔。それはそうだ、そこに立っている男性は、うちの店の常連なんだから。彼の姿を見た赤崎さんが驚いたように叫ぶ。
「あ、あれ。支部長!?」
この地域の正義協会を束ねる長にして、うちの店に来る常連の筆頭。
壮美 義正。
彼の姿がそこにあった。




