カレーと正義の交差点・其の七
「できた!」
赤崎さんの明るい声と共に、食堂のカウンターに皿が置かれる。
ご飯の上に掛けられた香ばしいひき肉からは甘い香りが漂っており、その周りには野菜と共に黒い何かが添えられておりトマトの赤、アボカドの緑、謎の黒と、豊かな色彩の料理となっていた。
……甘かった。
少し明日までに注文しなければいけない物を発注しようと席を外した瞬間にこれである。炒めた所までは確認して後は盛り付けるだけだったはずなのに、一体何が起きたと言うのだ。
「えーと、赤崎さん? 何故に甘い香りがしてるんでしょうか?」
「え? ほらタコライスのお肉ってちょっとカレーっぽいし、チョコを隠し味にすればおいしーかなって」
「全然隠し味になってないよ? 思い切り主張してるよ?」
まぁ確かに、俺が教えたタコミートのレシピはカレー粉も使っているが、そこまでカレーと言う訳でもない。
というか、普通にカレーの隠し味でも、こんなにチョコの香りをさせたりはしない。
「……それで、この黒いのは?」
「あー、それはね……お肉?」
「いや、そこで疑問形にされても……」
ホントになんだこれは……原型がまるで分らない。
「その、そこの冷蔵庫にあった鶏肉を入れたらボリューム出るかなって」
「それで、焼いたと?」
「うん、こう、能力でさっと」
そう言いながら、赤崎さんの指先から小さな炎が出された。
ライターの火と変わらない大きさのそれは、少し離れた俺にすら熱を伝えている。
「せめて、調理器具を使おうか!?」
もはや、調理以前の問題。誰だ、少しはまともになったとか言ったのは。
俺だよ! ちくしょう!
「うう、その、ごめん」
申し訳なさそうに俯き、赤崎さんはぽつりとつぶやく。彼女に悪気が無いのは分かっているが、口からは思わずため息が出てしまう。
「いいかい、赤崎さん。アレンジと言うのは、まず基本レシピを覚えた上で行う物なんだ。だから、まず
は基本通りに作る。それだけを考えようね?」
「はーい……」
本人からしたら、だいぶ自信があったのだろうか。ずいぶんと落ち込んでいるな。
「んー、まぁ」
そう前置いて、彼女の頭に手を添える。
「包丁に関しては、ちゃんと上達してしさ、上達はしてきてる。これからもたっぷり教えてあげるから、もう少し頑張ろう?」
「……うん」
決してこちらを見てはいないが、ちらりと見える彼女の顔は少し笑っているように見えた。
褒めたのが良かったのか、少し機嫌良くなってくれたようだ。
「まぁ、それは別として、はい」
彼女の前に、件のタコライスを置く。
「……え?」
何故置かれたのか、理解が出来てないように、呆けた声を出す赤崎さん。
残念ながら、料理を作る際にはある絶対のルールが存在する。このルールに関しては、俺も昔から苦しめられていたけれど。
「失敗作は、責任を持って自分で。はい、赤崎さん召し上がれ」
彼女の顔が、一気に青くなるのが良く分かった。
そんな彼女の悲鳴と絶望に背を向け、俺は自分の分のご飯を作るのに精を出すことにしたのである。




