カレーと正義の交差点・其の六
俺は部屋を移動し、正義協会の社員食堂のキッチンへ足を向けた。すでに食堂はしまっており、静かである。
これが開いている時ならば、きっと協会のヒーロー達で賑やかなのだろう。
静かなキッチンで、カバンから自分が持ってきた物を出し始める。
包丁……うん、どこも錆びて無いな。フライパンも手入れはばっちりだ。
そして、いつもカレーを作り時に着けているバンダナを頭に着けて赤崎さんを待つ。
「ん、おまたせ」
自分が支度を終えるのと同時に、赤崎さんが部屋へと入ってくる。いつもの制服姿に加えて、頭にバンダナ、そしてしっかりと淡い赤色のエプロンをつけて。
どこか落ち着かない様子なのは、先ほどのやり取りのせいだろうか。それとも、未だにエプロンをつける事に抵抗があるからだろうか?
「あぁ、やっぱりエプロンは落ち着かないわね……」
後者だった。もうこれで三回以上は身に着けているはずだが。
「そう言われても料理つくるにはエプロンは大事だよ?」
「そりゃそうだけどさぁ」
ひらひらと手でエプロンを振りながら、赤崎さんはぶつくさと言う。
「ほら、そう言っている間にも時間は過ぎてくんだから、さっさと始めるよ。料理にとって、手早く素早くは大事な事なんだから」
「はいはい。で、今日は何を作るの?」
「今日はそうだね……簡単だしタコライスでも作ってみようか」
赤崎さんと約束していた『あの日』……赤崎さんに料理を教える事。
これこそが、以前ウイキョウさんが来る日に正義協会という一番の常連さん方の足止めのお礼だったりする。
……最初はどんな見返りを求められるかと心底怖かったが、ふたを開いてみればこれである。赤崎さんの食欲的に、カレー満漢全席ぐらいは覚悟していたのだが。
「それじゃまずレタスを千切って水にサラして、トマトとアボカドを切ろうか」
「分かったわ」
俺の指示を聞きながら、拙い動きで調理をしていく。
「おお、凄いね。まな板まで切らなくなってきたじゃないか」
「でしょう? 最近家で……いや、なんでもないわ」
とてつもないレベルの会話だが、初日のひどさはこれだけではない。
フライパンを自身の能力で加熱して解かすわ、手を滑らして、包丁が俺の顔にめがけて飛んでくるわ……。
この八年間料理に携わってきて、料理で命の危機を感じたのは初めてだった。
それを考えれば、今至ってある程度普通の形にまでなったのはすごい進歩なんだが。
料理が出来る、と認めるにはまだまだである。




